□イワクモ



008エリア、地層トンネル内で起こってる事件は橋場を訪ねていたエヴァーダ国防長官、直江亮太郎の耳にも届いていた。直江のイワクモ訪問は、絶対的な橋場の地位を揺るがすWG 大統領との噂を確かめる為だった。


事件は説い質さぬうちに起こってしまっていた。



「博士、解決策はあるんですよね?」直江は気が気ではない。



「早瀬くんの救命策は聞いていた通りや、放射線を浴びさせても単なる応急措置に過ぎん…成分の確定が出来ん限り手も足も出せへん」


「バックスにはどこまで頼れますか」


「…んむ」橋場は腕を組み、思案にくれる。



「…こちらとしては国民誰一人も失いたくない」直江は射るような目付きで橋場を見た。



「そないに恐い顔せんでくれ、ワシも科学者の端くれや…理論と実証が伴わな、意見もでけへん。それが科学者というもんや」



「ならば理論をお聞かせてください。いくらかでも協力出来るはずです」


「さっきアンタも聞いとったやろ?…遺伝子解体剤とやらがどんな成分か、特質は何なのか、調べてみんことには、判断出来ひんのや」


直江は悔しげにうつ向いた。



「猫を取っ捕まえられたら何も焦ることないんやけどな」橋場は呟くように言った。


「………あの猫?!猫を捕獲すれば何とかなるんですか?!」


「……せめて注入媒体に使用されたビーストがおれば手がかりになる」


「WGのセフスに資料情報があるかどうか!問い合わせてみる手もあるのでは」直江は意味深な眼差しで橋場を見た。


「…ほぉ…まさか君から"セフス
"の名を聞くとは想わなんだ」橋場は直江の視線をそこはかとなく反らすと、悠長な態度でパイプに火を点けた。


そんな橋場に少しばかりの軽蔑の一瞥をした後、直江は「こんな時に恥も体裁もありません!一刻も早く!お願いします!」直江亮太郎は鬼気迫っていた。


「会わせたい人物がおる」橋場は開き直ってる風に想えた。




やがて、橋場の個室に朴ウォンが現れた。イワクモには朴ウォンがWG 大統領機密代行として在駐していた。



「どうだ朴補佐官、セフスに頼めるか?」さっきのモニター画像を見せ目論見を告げると、橋場は朴の表情を窺った。


「…正直、確かな情報が提供されるか疑わしく想います。人選を誤れば…」


「…更なる攻撃を受けるキッカケってこと、かな?」


「私が言うのも滑稽に想うでしょうが、現在生存するヒトの正常因子データは50%を下回っております」


「要するに…信用出来る者が居ない。ということかな」



「率直に言えば…」



「困ったもんやな…」



「時間が過ぎるのを!ただ待ってるだけでは何も解決にはならない!」



「………一人だけ」朴が小さく答えた。


「信用出来る奴おるんか?」


「セフスの機動部隊に所属している男ですが」


「戦闘隊員か…サーチングは可能か?」


「人体放射能を開示する何通りかの機密の時刻があります。それに合致する時刻であれば、サーチング可能です」


「クソっ…………今どこに居るのかが判れば」



「その開示を知る方法は?」


「WG ( ダブジー)に直接…訊くしか方法は無いです。」



三人は一気に望みを断たれた気分になった。


「残念だが、エヴァーダ内部にもダークサイエンサーの一味が居るようだ」直江は力無く呟いた。



「やはり…そんなことになってますか…八方塞がりやな」


「こうなれば騙し合いの応酬ですよ…」


「…とうとうエヴァーダも分裂の危機に直面してしもうたか…」


「危険因子の排除は…私が責任をもって行う。博士にはトンネル内の皆を救って欲しい」


「そりゃ…もちろん。力を注がせて頂きます」



直江は緊張感を醸し制服の襟を正すと踵を返し、研究室を後にした。



…………



□エヴァーダ002国防科学研究ビル



「とにかく!ただちに封鎖を解錠してください!」早瀬はエヴァーダ本部会議で多数の議員相手に詰め寄った。


「それは出来ない」


「被害者全員、保護する必要があるんです!」


「保護してどうする積もりだね」


「一旦心肺停止状態にして解決策を探ります」


「もしも…封鎖を解いた瞬間、彼らが暴れ出したら?」


「だから!だから急ぐ必要があるんです!」


「解らないヒトだ、国民の安全を考えるのが、私達の義務なのだよ。封鎖を解錠した途端…ビーストと化して国じゅうを襲いださないと……誰が保証してくれるのかね?」



「………クソ……ジジィ……」早瀬は苦々しく言い放つとセキュリティアの転送ボタンを押した。





…………




□エヴァーダ(科学室モニタールーム)




ベッドに横たわる早瀬を眺め海道が溜め息した。《なぁんでこんなヒトを好きになったんだよ…僕は》



その瞬間、早瀬が瞼を開いた。
ふと目が合うと、不自然に目を反らした海道を、早瀬は睨み付けた。
「変なこと?してないよね」


「何です?!変なことって…」


「まっ………アナタにそんな勇気ないか」早瀬は居直ると、少し立ち眩みする身体を無理やり起こそうとした。


「無理しないで!戻って来たばかりでしょう」


「あら?珍しい……真剣な顔見たの、久し振り」


「からかわないで、下さい」海道は舌打ちして横を向いた。




「ダメだった…」つい萎れた声で早瀬が言った。



「ずっと…方法考えてました」横を向いたままの海道が言った。


「………で、見つかった?」


「最短かつ……」


「かつ…何よ」


「危険を伴う方法ですけど」


「何よ、早く言ってみて」


「フィラメントファクター(電子微生物)です」


「微生物…………どこに?」早瀬は海道を疑問視する。


「忘れたんですか?微生物を持ち歩いてる存在を」


早瀬は頭を回転させた。
「アァ?!バックス!」


「そうですよ」


「ミルちゃんに連絡しなきゃ!」


「大丈夫、早瀬さんが離脱してる間に……あっちから」


「何だ、受け売り?」


「心外です、同時発信ですよ」


「あら?…そう」





……………



□エヴァーダ008(沿岸部地層トンネル)




「ねぇ…バァバ、起きて、フィラメントファクター(電子微生物)を………出して」ふいに口にした聞き覚えもない言葉、実流樹は刻々と変化しつつある自分に身震いした。それはあたかも身の回りに起こる出来事が鍵となり、ひとつひとつ自分の知らない自分を開花させているように…………想えたからだ。








continued