□イワクモ
「まず、アナタがここへ来なければならなかった理由を教えて下さい」早瀬マリは不本意な朴の視線を浴びながら言った。
「俺の口から聴く必要は無いんじゃないか?」朴の声が急にくぐもった。
「必要があるか無いかは私達の判断です」早瀬は朴の奥底をえぐるかのように極めて冷淡な口調だった。
あれほど見とれた早瀬の顔から視線を反らすと、どのタイミングからか室内に薄っすらと点るオレンジの光があることに気付く。
それは、在りし日の蛍が放つ光みたいだった。
ふわふわと浮かんでは消える光を見ていると自分自身を縛っていた特別なしがらみから解放された気分になった。
「………大統領の命令だ」自分の意思とは関係なく朴の口が開いた。
「どんな命令ですか?」早瀬は執拗に続ける。
「イワクモに潜入しエヴァーダの情報を収集して欲しいと…」
「情報収集するその目的は?」
「……エヴァーダとの交渉を有利にする為」
「ゼブリンのことですね?」
「…そうだ」
「他には?」
「エヴァーダへの浸入ルート」
「イワクモへ潜入する為にカイドウくんを利用しようと想った?」
「いや…それは俺の考えたことじゃない」
「では誰が?」
「判らない……」朴の眉間に狂おしく皺がよった。
早瀬と海道は顔を見合せ、朴自身の潔白を確信した。
「今アナタが置かれている立場をアナタはどう理解していますか?」
「…………捕虜」
朴がそう言った瞬間、海道は悲しげな表情になった。
「どうして僕がパクを捕まえたりするんだっ」
「はっきり言っておきますが、アナタを捕虜にしたおぼえはありません」
二人が朴に向かって言葉をかけると室内の光は青に変わった。
朴の目に光が射すと虚ろだった朴の表情は一変した。
「………回りくどいことするな!」
「勘違いしないでください。アナタを理解する為に、アナタの深層心理まで知る必要があったのです」エーテル体の透明な早瀬の唇の動きには時折タイムラグがあった。
「ふっ…」朴はどこか弄ばれてるような状況に困惑の笑みを浮かべた。
「つまり、パクが嘘をつく人間じゃないってことを証明したかったんだ!」海道が口を開いた。
「学者の講釈は難し過ぎる」
「……そんなこと言わないで」
「………」道すがら葛藤し悩んだ自分が滑稽に想えた。
「パク?」
「俺はどうなる」
「私達に協力してもらいます」
「……キョウリョク?」
「なにも非人道的な役廻りを頼むのではありません」
「じゃ…何を」
「アナタも望んでる未来のことです」
「……俺に何をさせる積もりだ」
「世界連合国とエヴァーダの架け橋になってもらいたいのです」
想いも寄らない早瀬のセリフだった。
「……架け橋?」
「そうです」
「今までの話は何だったんだ!?」
「結果的にアナタはイワクモへ来なければならないようになってたんです…。ただ、快く想わない方々がいるので…全てをカムフラージュする方法を取らざるを得ませんでした。気を悪くしないでください」
「勝手な話だな」
「お怒りは当然ですが、間違いなくアナタはイワクモへ潜入し、スパイをようとした」
「…そこで持ち出してくるなよ、卑怯だろ」
「このミッションでしかアナタは償えないとしたら?」なに食わぬ顔で早瀬は続ける。
「それは………」
「否定的な感情を持っているようですが、もはやアナタにはミッションを成功に導く以外、役目はありません」
朴の戸惑いは大きかった。「そもそもエヴァーダとWG とは根本的に交わらないことから始まった」
「根本的に交わらないように仕組まれていたんです。そもそもが誤解でした」
「ゴカイ?」
「そうです、2093年に執行された法案は初代大統領が発案したものではないはずです」
「じゃあ…誰が」
「大統領がブレインとしていた科学者の中に大統領をそそのかした人物がいます。立証は困難ですが…今でも数名いる中の科学者陣に首謀者が存在し、世界を牛耳ろうと暗躍していると想われます…。アナタをここへ送り込んだ現世界連合国大統領はその解決策をずっと探してました」
朴は想い出していた…。
そういえば、あの豪雪を眺めていた時の大統領には微塵の悪意も感じなかった。むしろ、その目にはそこはかとない大望に胸躍らせる若者のような輝きを感じていた。
「このミッションに辿り着いた…というワケか」
「実はこの潜入を入れ知恵をしたのが科学者のマイク.サンダーと言われる人物」
「マイク.サンダー?」
「大統領からのコンタクトでは彼の名前を聞いただけです。人物像は明らかでは…」
「もしかすると、潜入ルートを…」海道が誰に語るでもなく呟いた。
一瞬、朴は落ち着きが無くなった。
「どうかしました?」
「あ、いや」朴の心拍数や脳神経が発する電気信号はAI がキャッチしていた。
朴の記憶の中をAI は分析し、イワクモから全パーツに戦闘エマージェンシーコードがはられた。
「大統領も私達と同様の意見をお持ちになっています。これは私達と大統領との間で交わされたミッションなんです」
「………ということは」
「アナタはどちらも裏切ってはいないということです」
「……」
「ごめんよ…パク」
「………」言葉を失った。
「でも」
「謝らなくてもいい」
「こうするしかなかったんだよ」
「……もういい」
「このミッションにはアナタが必要なのです」
「…わかった…。だから、」言い終わらぬうちに…。
イワクモが大きく揺れた。
朴も海道も立って居られず壁に身を預ける。
エマージェンシーコールが鳴り響いた。ずんずん下から突き上げてくる振動は益々力を増していってる気がした。
continued
「まず、アナタがここへ来なければならなかった理由を教えて下さい」早瀬マリは不本意な朴の視線を浴びながら言った。
「俺の口から聴く必要は無いんじゃないか?」朴の声が急にくぐもった。
「必要があるか無いかは私達の判断です」早瀬は朴の奥底をえぐるかのように極めて冷淡な口調だった。
あれほど見とれた早瀬の顔から視線を反らすと、どのタイミングからか室内に薄っすらと点るオレンジの光があることに気付く。
それは、在りし日の蛍が放つ光みたいだった。
ふわふわと浮かんでは消える光を見ていると自分自身を縛っていた特別なしがらみから解放された気分になった。
「………大統領の命令だ」自分の意思とは関係なく朴の口が開いた。
「どんな命令ですか?」早瀬は執拗に続ける。
「イワクモに潜入しエヴァーダの情報を収集して欲しいと…」
「情報収集するその目的は?」
「……エヴァーダとの交渉を有利にする為」
「ゼブリンのことですね?」
「…そうだ」
「他には?」
「エヴァーダへの浸入ルート」
「イワクモへ潜入する為にカイドウくんを利用しようと想った?」
「いや…それは俺の考えたことじゃない」
「では誰が?」
「判らない……」朴の眉間に狂おしく皺がよった。
早瀬と海道は顔を見合せ、朴自身の潔白を確信した。
「今アナタが置かれている立場をアナタはどう理解していますか?」
「…………捕虜」
朴がそう言った瞬間、海道は悲しげな表情になった。
「どうして僕がパクを捕まえたりするんだっ」
「はっきり言っておきますが、アナタを捕虜にしたおぼえはありません」
二人が朴に向かって言葉をかけると室内の光は青に変わった。
朴の目に光が射すと虚ろだった朴の表情は一変した。
「………回りくどいことするな!」
「勘違いしないでください。アナタを理解する為に、アナタの深層心理まで知る必要があったのです」エーテル体の透明な早瀬の唇の動きには時折タイムラグがあった。
「ふっ…」朴はどこか弄ばれてるような状況に困惑の笑みを浮かべた。
「つまり、パクが嘘をつく人間じゃないってことを証明したかったんだ!」海道が口を開いた。
「学者の講釈は難し過ぎる」
「……そんなこと言わないで」
「………」道すがら葛藤し悩んだ自分が滑稽に想えた。
「パク?」
「俺はどうなる」
「私達に協力してもらいます」
「……キョウリョク?」
「なにも非人道的な役廻りを頼むのではありません」
「じゃ…何を」
「アナタも望んでる未来のことです」
「……俺に何をさせる積もりだ」
「世界連合国とエヴァーダの架け橋になってもらいたいのです」
想いも寄らない早瀬のセリフだった。
「……架け橋?」
「そうです」
「今までの話は何だったんだ!?」
「結果的にアナタはイワクモへ来なければならないようになってたんです…。ただ、快く想わない方々がいるので…全てをカムフラージュする方法を取らざるを得ませんでした。気を悪くしないでください」
「勝手な話だな」
「お怒りは当然ですが、間違いなくアナタはイワクモへ潜入し、スパイをようとした」
「…そこで持ち出してくるなよ、卑怯だろ」
「このミッションでしかアナタは償えないとしたら?」なに食わぬ顔で早瀬は続ける。
「それは………」
「否定的な感情を持っているようですが、もはやアナタにはミッションを成功に導く以外、役目はありません」
朴の戸惑いは大きかった。「そもそもエヴァーダとWG とは根本的に交わらないことから始まった」
「根本的に交わらないように仕組まれていたんです。そもそもが誤解でした」
「ゴカイ?」
「そうです、2093年に執行された法案は初代大統領が発案したものではないはずです」
「じゃあ…誰が」
「大統領がブレインとしていた科学者の中に大統領をそそのかした人物がいます。立証は困難ですが…今でも数名いる中の科学者陣に首謀者が存在し、世界を牛耳ろうと暗躍していると想われます…。アナタをここへ送り込んだ現世界連合国大統領はその解決策をずっと探してました」
朴は想い出していた…。
そういえば、あの豪雪を眺めていた時の大統領には微塵の悪意も感じなかった。むしろ、その目にはそこはかとない大望に胸躍らせる若者のような輝きを感じていた。
「このミッションに辿り着いた…というワケか」
「実はこの潜入を入れ知恵をしたのが科学者のマイク.サンダーと言われる人物」
「マイク.サンダー?」
「大統領からのコンタクトでは彼の名前を聞いただけです。人物像は明らかでは…」
「もしかすると、潜入ルートを…」海道が誰に語るでもなく呟いた。
一瞬、朴は落ち着きが無くなった。
「どうかしました?」
「あ、いや」朴の心拍数や脳神経が発する電気信号はAI がキャッチしていた。
朴の記憶の中をAI は分析し、イワクモから全パーツに戦闘エマージェンシーコードがはられた。
「大統領も私達と同様の意見をお持ちになっています。これは私達と大統領との間で交わされたミッションなんです」
「………ということは」
「アナタはどちらも裏切ってはいないということです」
「……」
「ごめんよ…パク」
「………」言葉を失った。
「でも」
「謝らなくてもいい」
「こうするしかなかったんだよ」
「……もういい」
「このミッションにはアナタが必要なのです」
「…わかった…。だから、」言い終わらぬうちに…。
イワクモが大きく揺れた。
朴も海道も立って居られず壁に身を預ける。
エマージェンシーコールが鳴り響いた。ずんずん下から突き上げてくる振動は益々力を増していってる気がした。
continued