□イワクモ



ATI はオタツのエーテル体が機内から去ると、セキュリティアG システムとイワクモAI の相互監理下に置かれた。


クルーズコントロールされたATI は、海流も無く淀んでしまった海底に誘導されレベル5の緊急措置が取られたイワクモへ前進する。


目まぐるしく切り替わるモニターの画像は意味不明な数値や機内のサーモグラフィックなど、ATI が関与した有りとあらゆるものが相互システムに解析されている。




「……なるほど、これが自慢のシステムか」すました表情だったが、徹底した防御テクノロジーに唖然としていたのは事実だった。


あのオタツと呼ばれた女のエーテル体(意思媒体)は反政府組織エヴァーダの持つテクノロジーのひとつに過ぎない。


世界連合国などと称して結局は仲間外れにされているかつての大国とその要人は、全てにおいて取り残されているだけではないのか。
朴は時が経つだけ惨めな気分になっていった。



「どうしたの?」海道は朴の動揺にわざと無頓着だった。


「驚いたよ」朴は素直だった。


「エ?」海道は知らぬフリを通す。


「エヴァーダを甘く見てた」


「……どういう意味?」



「どんなに俺の嘘が上手くたって…どうせ、お前らのテクノロジーが、俺の心の中までお見通しってワケだろ?」と、言ってから海道を見返し「いや………もう、知っててもおかしくない」


「スパイする積もりだったって…言いたいの?」海道は敢えてストレートに聞き返した。


「あぁ……そうだ」直ぐ様返った言葉で逆にたじろぐ朴。


すると海道は朴の目をじっと見返し「ふぅん」と、他人事みたいに呟いただけで、責めようとはしない。





(ほぉ?なかなか潔いやないか)その声が聞こえると同時に前面モニターに映し出されたのは老人と呼ぶにふさわしい橋場のシミだらけの顔だった。



朴は笑いかけながらも自分を凝視する橋場の様子からすぐに覚った。


「騙されていたのは…俺のほうか」朴は小声で言うと、浮きかけた腰をもう一回重く落とし力無く息を吐いた。




………………


□イワクモ


朴は個人セキュリティアを持たない部外者として初めてイワクモへ通された。


現在までどんなに透過性の高い高精度の衛星カメラを使用しても覗くことが不可能だった謎の牙城に入り込んだのだ。



迷路としか言いようのない通路を何度も曲がりくねって朴が通されたのは何も無いガランとした空間だ。




「パクは誰かに頼まれて…仕方なくスパイをする積もりになったんでしょ?」海道は朴と肩を並べ、つっかえていた気持ちを口にした。


「もう調べているだろうが…俺はWG (ダブルジー)の大統領補佐官に任命された、イワクモへなエヴァーダの情報収集が目的だ」


海道は黙って聞いている。


ワケもなく時が流れた。


「カイドウ………?」急に押し黙った海道に、朴が心細さを感じた。



「………………プッ」何故か海道が吹き出す。



朴は海道の突飛な笑い声に首を傾げた「どういうワケだ。なぁ……惨めだから魂胆を教えろ」朴は堪らずに言う。



(君は正直者やな)今度は声だけの橋場が口を挟んできた。


「ハカセ!もういいんじゃないですか!?」それこそ喉元で押し殺していた感情を海道は徐に張り上げた。


(まぁ、ええやろ…85%良性遺伝と出とるし、この分析は正しいはず)



「勝手に俺を分析してたのか?!」振り返った朴の声が少し上擦った。



(君の質問はちぃとばかし矛盾しとるなぁ、せやけど…はしょって言うたらその通りや)


「確かに!分析されていたとしても、反論する権利は無いが…せめて理由を教えてください」朴は橋場に対して敬意を示した。




「理由は私が」「ウワッ!!」オタツの時のように仰け反るほど驚いて、朴はハイメタル=ゾーニアで作られた壁に背中をぶつけた。


「シツレイ…」早瀬マリがエーテル体で現れたのである。


「早瀬さんも突然なんだから…」海道が苦虫を噛んだ。


「だから、謝るわ」


「いや、ダイジョウブです、まだ慣れてないだけだから」


「そ?」


「はい」


(ほな、早瀬くん…頼まれてくれるか)橋場は何かと首を突っ込んでくる早瀬マリを海道と朴のサポートとして考えていた。


「かしこまりました」言ったか言わないうちに早瀬は朴に向き直る。
朴は透明でも美しい早瀬マリに釘付けになっていた。








continued