□ world .government 〔世界政府…WG 〕
「ココがジャングルだったとは…とても想えん…」砂漠から帰ってからまだ間もないジョン.マックロードは5メートル先も見渡せない大雪原を、驚きと憂鬱を重ねながら眺めていた。
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そこここに野生動物が存在していた風景は昔語りの地球の姿。
かつて南米奥地だったこの陸地はこの2日間でマイナス60℃を記録する極寒地獄になっていた。
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この南米を同盟国政府の本拠地に選んだのはジョンの祖父にあたるケント.マックロードであった。
ケント.マックロードは米国大統領だった時、あの理不尽な政策をスタートさせた張本人でもある。
当事、世界は人類絶滅の危機に瀕していた。加速する人口減少、最も危惧すべきは女児の出世率が低くなったことだった。あのまま放っておけば確実に地球から人類が消えてゆくであろう。初代同盟国大統領ケント・マックロードはあの苦肉の政策を打ち出した。
焦った各国の政界人はすぐさまケント.マックロードの政策に共鳴し、民間人の了承も得ぬまま強制執行することとなった。
それが憎しみの引き金を弾かせ、ボタンのかけ間違いを招いた。
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そして…2118年、世界同盟国政府〔WG = ダブジ〕は奇しくもケントの孫であるジョン.マックロードを同盟国大統領に任命した。
彼は元の南フランスに位置する地区の政府軍総統として活躍していた。
依然として進まないゼブリン委託交渉の万策も使い果たした政府閣僚達はジョン.マックロードを鳴り物入りで政界へと担ぎ上げたのだ。
マックロード家は西部開拓史から代々続く、由緒ある軍人貴族の家系だ。
残念ながら祖父ケント在任中の2095年、あの大クーデター事件で父親のジェイドは命を落とした。
その頃のジョンは特時戦術隊〔セフス〕の部隊長の任務にあたっていた為に父親の死亡を後に聞かされた。
2096年…あの地球規模の地殻変動で戦線離脱を余儀なくされて以来、総統としての立場からエヴァーダ間との交渉を進め、その傍ら暗躍するテロリストの制圧にも力を注いでいた。
………
「どうやら…気候の安定は望めそうですね…閣下」大統領補佐官の朴(パク)が言った。
「この極寒が安定してもらっても困るんだがね」マックロードは少しだけ苛立っているようだった。
「残念ながら閣下、元の日本エリアを含めヨーロッパエリアのheatwaveによる被害は甚大です。人類以外8割の生物は絶滅しました。もはやこの南米エリアは地獄ではなく天国と呼ぶに相応しいかもしれません・・・・」朴は続けて話そうとしたが、ジョンの何か言いたげな表情を汲みとると静かに口をつぐんだ。
「…………朴補佐官」ジョンは鋭く野太い声で朴を呼んだ。
「はっ」朴は背筋を正した。
「急な話だが・君はハシバという学者を知っているかね」ジョンは緊張する朴の気持ちもよそにして話題をすり替えてきた。
「え、ええ・・・その学者の助手は・・同じプラントの出身ですから」朴は一瞬戸惑いつつ、その問いかけに訝しげな顔になった。
「そうか、それは好都合だ」滅多に歯を見せて笑わないジョンが目論見通りの答えに出くわせ微妙なしたり顔になった。
「……閣下、その学者がどうかなさいましたか?」
「エヴァーダとの強い関わりがあったことは前から判明していた。だが大事な交渉するのに、どんな所からも煙を出すワケにはいかなかった。だから放っておいたのだが、しかし・・最近、噂レベルだが、ロボットを開発したらしい。わざわざ戦争を始める積りではなさそうだが・・あえてロボットを開発しなければならない理由が判らない。それに・ゼブリンが発するエナジー反応数値が単体域なのに対して出力が大きいらしい・・少なくともたった一体あるだけだ、あっても過去に壊れたロボットの残骸しかないはず、そんな大量のエナジーが果たして必要なのか・・・」
「つまり・・・その情報を詳しく知りたいとおっしゃるのですね?」
「簡単に言えばそんなところだが」
「わかりました。イワクモへ潜入します」
「くれぐれも君のお友達には知られないように」
「大丈夫です。彼の頭脳は先端科学と・・幼稚な情熱のみで出来ています。他人に疑念を抱く余白などありません」
「裏を返せば純粋だということだよ、君には純粋な友達を裏切る冷静さ・・あるのかね?」ジョンは矛盾した質問をした。
朴は少し笑みを浮かべてから気持ちをかみ砕くように口を開いた。
「私は友人に対して、裏切り行為をする考えはございません」
「・・・うん、そうだな。世界平和の為だ。ゆくゆくは元の世界に戻さなくてはならない。このまま意味もない食い違いを長引かせるワケにはいかないのだからな・・」
「ではさっそく・・」朴が踵をかえす。
「あ、待ちたまえ」
「は、何でしょう」
「ついでに聴くが・・アンドリュウ・ボイド。彼を知っているかね」
「は・・・」聞かされたその名前はプラントチルドレンの中でも特殊な存在だったことを覚えている。
知力体力ともに平均数値を上回っていた。
表情をピクリとも動かさない蝋人形のようだった。目つき暗く他のチルドレンが誰も寄りつかなかった。アンドリュウの印象といえば箇条書きにしてそんなものだった。
アンドリュウという名前は卵子提供者と精子提供者の名前からコンピュータがランダムに構築した独自の名前である。当然・・プラントから出生したチルドレンは皆、同様に名前を与えられていた。
「アンドリュウ・ボイド・・・がどうかしましたか?」
「君にはあまりいい報告ではないが・・彼はテロリストの主犯格らしい」ジョンはどこか感傷的な面持ちだ。
思い返せば昔・・誰の意図かは知れないが、プラントチルドレン達には人間らしさを構築するプログラムが原始的な教育によって行われていた。
教育によって人間が完成するのだと、傲慢な先駆者達は言った。
だがそれは大きな間違いで・・・だから。
同情を感じさせるジョンの表情に一瞬冷めたように朴が・・「閣下」
「・・・・なんだね」
「私達チルドレンを・・・誤解されてるようですね?」
「・・・どういう意味、かね」
「元々、私達は単なる実験材料です。同じ場所で出生し、僅かな時間を共に過ごしたからといって・・・家族などではありません。愛情や友情などという感情は微塵もございませんので」
朴はそういって再び踵を返した。
continued