眼前には白い砂浜があった。
まだ開けきらぬ藍色の空は、水平線を十文字に切り裂く夜明けを待っている。濃紺の海は岩肌に打ち砕け白濁の波を泡にする。
潮の香りも波の音も…目の当たりにする全部が自分の記憶から生み出された幻想などとは想えないくらい生々しい。
そこには鯛我肇(タイガハジメ)ただひとり居るだけだ。
実際に広がるのは過去に砂浜だった場所。ここが…亡き妻との想い出の場所だ。
鋭く深く刻まれた地割れと容赦ない太陽熱は地球の表面から海を奪い。
焦土にしてしまっていたが、今はその僅かなクールゾーンだった。
過去の季節感覚はあてにならず、現在がいったい夏なのか、それとも冬なのか1日が24時間で365日が1年という常識もいつか覆されるかも知れないだろう…肇はふと想った。
地軸が傾き磁場が乱れてからは昔の日本のように四季を感じることが出来なくなっていたのだ。
風や打ち寄せる波音ですら無音になるくらい肇はどこか虚ろだ。
淡々と移ろう空の色は、まるで肇の気丈さを消し去っていく大きな不安の塊が心の隅々まで侵食していく様に感じる。
「オヤジぃ」意識の中に、息子である武光の声がした。
そして「ナニ、ボケッとしてんだよ、早く家に戻んないと焼け焦げちまうぜ」武光の声には不安と呆れが混じっていた。
「あぁ…そうだな」肇はためらいがちにそう言うと、思念で呼び寄せた左手首のセキュリティアに触れた。
肇のエーテル(意思媒体)を一瞬で防護シールドの膜が覆った。
58℃を超す超熱波の夜明けは、一気に身体の水分を蒸発させる。
たとえ半物資のエーテルであったとしても、水分を含むモノである以上蒸発からは免れない。
もう昼間の地上では空気さえ吸えないのだ。
…………
セキュリティアは人口が闇雲に減少するのを抑える為、反政府エヴァーダが考案したハンドベルト型の退避装置を言う。セキュリティアGシステムに寄って管理されており、鯛我家を含め2500人全ての住民を網羅している。
エヴァーダは世界同盟政府が2093年に施行したX遺伝子保有政策に反旗を翻した人間たちの集合体であり単なる反政府軍に過ぎなかったが、2110年にはごく少数を除いた名だたる科学者から技術者までが賛同し、現在のハイテクシティーを形成するまでに至った。
反政府軍でありながら、科学力も政治力も世界同盟政府に勝るとも劣らない。その盾となったのは宇宙鉱石ゼブリンとそのエネルギー変換技術だった。
ゼブリンとは、およそ4800年前に衝突した隕石のことだ。
直径約2メートル半の小さな星が、地層に眠っていた数千年の間に未知の科学反応を発生させていた。
その事実を発見したのはエヴァーダ科学者チームの主要メンバーだ。
かつてはそれを巡り戦争すら仕掛けてきた政府軍だったが、エヴァーダとの科学力の差は歴然だった。
無限の可能性を秘めたその隕石は、日1日と加速するエヴァーダの科学力そのものを指していた。
continued
イメージソングは moumoon の EVERGREEN 。
壮大な楽曲の世界がこのhumanity.sense という殺伐とした未来の世界を懸命に生きる人々の”愛とヒトとしての力”に未来を見出そうとする健気さに合致するだけでなく思いがけなく融合している。
もちろんこの曲との出会いは偶然の発見。とはいえ最初耳にした時は身震いがするほどでした。
ぜひ物語の進行とともにこの楽曲の世界観に浸って欲しい。
きっと何かを感じ取って頂けると想う。
作者 伊波禮まこと