憲法はどうやって勉強するのかという相談を友人から受けたので、自分なりに勉強方法をまとめてみます。


憲法は一番勉強方法に悩む科目だと思います。一つの参考にしていただければと思います。



まず、何をインプットすべきかについて。



憲法(人権)のインプットにおいて意識すべきなのは、

1.違憲審査の作法
2.各権利ごとに固有の考慮要素
3.訴訟論的なトピックス

の3つではないかと考えています。

また、これらインプットするにあたっては、判例をしっかり読み解いて、そのエッセンスを盗み取ることが大事です。



1.憲法論証の「作法」
違憲審査を行うにあたっては、常に、どのような基準で審査を行うのか?という規範を示さなければなりません。受験生はこの違憲審査の規範の立て方を、小山剛先生の「憲法上の権利の作法」にならって「お作法」と呼ばれたりします。

作法を身につけることは、刑法でいう「構成要件該当性、違法性、有責性」という枠組みを知ることにも例えられたりします。これは、それぐらい当然に知っておかなければいけないものであるということと同時に、それだけでは説得力のある論証をすることはできないということも意味します。

そして、憲法の難しさは、この規範を事案に応じてアドホックに定立しなければならないところにあるのではないかと思います。この点、刑法の「構成要件該当性、違法性、有責性」という判断枠組みが一定であるのとは大きく違います。


2.自由権(防御権)と請求権
事案に適した審査基準を定立するためには、まず、自由権(防御権)の侵害が問題となるのか、請求権の問題かを見極めなければなりません。これによって、審査基準の立て方が大きく変わるからです。

ただし、例えば代表的な請求権である「生存権」であっても、過剰な租税賦課によって最低限度の生活を下回るようになったなどといった事案など、自由権の侵害として構成すべき場合があるように、自由権の侵害か請求権の問題かは条文によってきれいに分かれるようなものでもありません。結局これも基本を理解して、事案に応じて考えるしかないですね。

※自由権と請求権について解説した良い資料がおもいあたりません・・。
※自由権/請求権と合わせて、主観的権利/客観法の区別、内在的制約と外在的制約等の概念も理解しておくのがよいと思います。


3.法令違憲と適用違憲(処分違憲)
司法試験の採点実感でも毎度のように言及されているので、もはや受験生の間でこの言葉は浸透していますね。
この2つをちゃんと区別している人は多いように思います。ただ、適用違憲についてはどうやって審査基準を立てたらいいかよく分からないという人は結構多いと思います。

法令違憲/適用違憲の区別は、駒村先生の「現代的転回」第2回~第4回あたりが詳しいです。


ここで、適用違憲の審査基準について、私の整理を紹介しておきます。
私は適用違憲を3パターンに分けて考えていました。

(1)裁量統制パターン
参考:剣道受講拒否事件
処分における考慮要素として侵害利益と被保護利益との憲法的価値を盛り込み、裁量権の逸脱・濫用があるか?という議論に持ち込みます。

(2)違法性阻却パターン
参考:大阪学芸大事件、立川宿舎ビラ投函事件
当該行為によって達成される利益と、被侵害利益との憲法上の価値を比較衡量することにより、後者が軽微で前者の利益が上回るという場合などに、超法規的に違法性を阻却するというものです。

(3)個別法の要件解釈的パターン
参考:泉佐野市民会館事件、博多駅フィルム提出事件など
「被侵害利益と保護利益とを比較考量し、後者が上回る場合に法〇〇条を適用することは憲法〇〇条に違反しない。」など、個別法の解釈適用に比較衡量という要件を盛り込んでしまう。
博多駅事件のように、単純な比較衡量をする場合もあれば、泉佐野市民会館事件や、よど号事件のように、憲法適合的に適用できる保護利益の程度を定義づけする場合もある。

※合憲限定解釈による法令違憲の回避との区別が微妙なところではあるが、ポイントは、法令審査をしているような表現を避けつつ、「被侵害利益の方が大きい場合は、法を適用すると違憲だ」と言い切ってしまうことです。


また、法令違憲/適用違憲の区別に合わせて立法事実と司法事実の区別もちゃんとできるようにしておかなければなりませんね。


※個人的には、芦部本の3つの適用違憲の分類によって、受験生の理解が混乱してしまっているように思います。私の言っている3分類の「適用違憲」は、受験生が一般的にイメージする適用違憲(=処分違憲)だと思うのですが、芦部本の「適用違憲」はこれとは意味が違います。
一旦あの3分類を忘れた上で、上記のように分類してみて、その上で、猿払一審判決のような判断の仕方もあるというように整理したほうがいいかと思います。(ちなみに猿払一審判決は「法令違憲」の判決です。)


4.自由権侵害に対する法令審査 (3段階審査のススメ)
3段階審査という言葉は、受験生であれば少なくとも聞いたことはあると思います。
3段階審査は、一般的に自由権(防御権)の侵害に対する法令違憲の審査において用いられる手順で、「保護範囲、権利侵害の有無・態様、侵害の正当化」という3つのステップを用います。

3段階審査を使わなくても、よい答案は全くかけるとは思うんですが、個人的には一般的に三段階審査を使ったほうが得点は伸びやすいと思います。なぜなら、事案の処理に当って考慮すべき論点や事実を、自然に論証の中に組み込むことができるからです。

※これは、受験テクニックといった領域を超えて、三段階審査が優れた審査手順であることを端的に示していると思います。


三段階審査については、「作法」でも、「急所」でも、「現代的転回」でも説明してありますが、個人的には「現代的転回」の1回~11回(法学セミナー連載)がおすすめです(なかなか難解ですが・・)。


5.自由権侵害以外の法令審査
自由権侵害以外の法令審査については、3段階審査の手順は適合しません。そこで、別の審査基準を立ててやる必要があります。
しかし、請求権についての違憲審査には3段階審査のように統一的な基準導出の手順がありません。

また、問題となる権利によって、あるいは原告の請求の内容によって、その判断枠組みも変わってきます。同じ生存権が問題になるにしても、ある法令の定める要件が平等原則に違反すると主張する場合と、生存権保障のための必要な法令がないために立法不作為による国賠請求をする場合では、論証の枠組みは全然違います。また、同じ国賠請求をするにしても、立法不作為の場合と、特別法の定める免責規定が違憲だと主張する場合では別の枠組みが必要になります。

結局、判例を丁寧に見ていって、「こういう権利のこういうタイプの侵害が問題になって、こういう請求を原告が立てた場合に、判例はこういう枠組みで違憲審査をした」というのを、一つ一つ拾い集めていくしかないと思います。
財産権の制約なら森林法判決、行政処分における手続保障なら川崎民商や成田新法事件、国賠請求における免責規定が問題になるなら郵便法違憲判決といったように、手本になる判例はあります。これらの判例が用いた違憲審査の枠組みを抽出するとともに、どういった点を考慮してその基準を導いたのかを理解しておかなければなりません。前にも述べたように、審査の基準が事案の特徴に影響を受けるというのが憲法の大きな特徴なのです。


6.各権利毎に固有の考慮事項
以上に見たように、作法を身につけるだけでも大変です。なので、「自由権の侵害に対する法令審査」以外の場合、つまり請求権の問題や、客観法違反、あるいは適用違憲が問題となる場面では、判例を意識しながら、適切な違憲審査の枠組みを用い、自分なりに事実を使って論証することができれば、合格圏内に入るということも十分にあると思います。

一方で、「自由権の侵害に対する法令審査」については、三段階審査を使ったというだけでは、十分な差別化はできないでしょう。論証に説得力を持たせるためには、まず、その権利を保障する意義や、その権利の保護範囲、あるいはその権利の中での中核的なものと周縁的なものが何なのか、どのような制約が問題となり、どのような請求を立てることができるか等について、基本書・判例をしっかり読み込んでポイントを抽出しておくことが必要です。また、単に知識の整理にとどまらず、各権利が何を保障しているのか、あるいはその権利はなぜ重要なのか?といったことについて、自分でじっくり考えてみることも必要なのだろうと思います。

例えば、平成25年の司法試験では、学生による大学の施設利用申請に対する大学側の不許可処分が問題となりました。
原告の主張として、私はさんざん悩んだ挙句に、学問の自由(23条)ではなく、学習権(26条1項)の侵害でいくことにしました。なぜなら、東大ポポロ事件に関する議論を前提にすると、学問の自由から学生の施設利用権を導くためには、、(ア)学問の自由は大学の自治を保障する(イ)大学の自治には施設管理権が含まれる、(ウ)学生も大学の自治の担い手である、ということを前提しなければならないのではないか。そうすると、大学の自治権の一環としての施設利用権を大学に対して主張することはいかにも分が悪いんではないかと考えたからです。そこで、大学の自治とは異なるところから、学生の施設利用権を導かなければならないと思ったのです。
しかし今では、学問の自由から直接、学生の施設利用権を導くことも十分可能で、そっちの方が適切だったなあと思います。大学の自治とは、大学での学問研究に対する国家の干渉を排除するための制度的保障であって、大学が学生の学問の自由を不当に制約することを許容するものではないからです。

ともあれ、こうした議論を短時間のうちに思いつくためには、まず、東大ポポロ事件の事案と判旨、それに関して大学の自治と学生との関係についての議論を頭にしっかり入れておく必要があります。また、それにとどまらず、大学の自治や学問の自由を保障する意義について、基本書の記述を噛み締めて、自分でしっかり考えておく必要があるのだろうと思います。


7.訴訟論的なトピックス
第三者による違憲の主張適格等、訴訟論的な事項は、授業などでは関連する判例を勉強するときについでに扱うという程度であることが多いと思います。ですが、訴訟論的なテーマは、ちゃんと「憲法訴訟」と名のついた基本書で、ある程度体系的に理解しておいたほうがいいと思います。
とはいえ、基本書1冊を通読する必要はないし、時間もないと思います。目次を見て、憲法訴訟論の全体像をなんとなく把握しておくとともに、論文試験でも問われそうな点(第三者の主張適格、法律上の争訟性、違憲判決の効果など)をちゃんと読み、関連する判例を理解しておくという程度で十分なのではないでしょうか。




次は、以上を踏まえてどう勉強を進めるかです。
憲法(人権)の勉強(2)