キセキ その3 | それでも私は右で打つ

キセキ その3

下手をすると広島まで行ってしまうのぞみ。


思いが通じたのか、のぞみは待っていてくれた。

そう、新大阪駅止まりののぞみだったのだ。



車掌さんに必死の形相で事情を説明し、

座っていた場所周辺を探してもらう。


祈る思いで見守るも、

財布を発見してくれる気配は微塵も無い…



どこかに落としたのでもなく、

荷物に紛れてどこかに入っているのでもなく、

記憶をたどれば確実に、座席の前の小物入れ、

そこにボクの財布はあるはずだった。


てか、そこに入れたまま駅に到着し、

しかもその記憶まで鮮明に残っていたのです。




はい、馬鹿。

この、馬鹿。




絶望に打ちひしがれ、

“とりあえず、窓口で届出だけ出して…”

という、車掌の哀れむような声は、

どこか違う世界から聞こえてくるものに聞こえ…



カード止めなきゃ

現金も魔法のカードもなかなか入ってたのに

財布、気に入ってたのに…




なんてボーっとしながら、

待ってくれていたのぞみには目もくれずホームを去る。


失恋したわけでもないのに、

最愛の人の見送りに間に合わなかったわけでもないのに、

相当くらい顔をしてホームを去っていたであろう、自分。





しかし…

窓口へ行き、そこで奇跡は起こった。




“すみません、新幹線内に財布忘れて、無くなったので、

 届出を出させてください。名前は…藁谷です。”


“あ、届いてるよ!”(おじさん、即答)



えっ!??




そう、見つけた乗客が、

手もつけず、真っ先に届けていてくれたのです…



窃盗で人を信じなくなって2年。

どこの誰かもわからない人が、心を癒してくれました。



やなことばっかあるわけないよ、それでこそマイライフ♪

もちろん、この歌を口ずさみながら、家へとたどり着いたのでした。


普段の行い悪いのに、助かりました。

普段の行いをよくしろってことだな。。。





ちなみに、

窓口で財布を渡してくれた係のおじさんは、

何度か駅内アナウンスで藁谷くんを呼んでくれていたそうです。


気づく余地も無く動転していた、藁谷です。



とりあえず、“藁谷”大阪駅デビュー。



冗談言える結果で、よかった…





おしまい。