おとつい、おとなりさんからぶっといゴーヤを一本いただきました。5月にゴーヤを植えて、お盆をすぎてもさっぱり実がつかないぼくをかわいそうに思って、もってきてくださったのでしょう。嬉しいやら恥ずかしいやらで、ことばになりませんでした。

 ではありがたく、ゴーヤチャンプルーでも、と思ったものの、といといの肉もお豆腐もありません。冷蔵庫はからっぽのまま、青い空間を冷やしているばかりです。

 

 って、ここでくじけてしまうのはイケマセン。材料がなかったら、あるのもので(残っているもので)なんとかしちゃうっていうのが、Theちゃらんぽらんクッキングの神髄、たましいではありませんか?というわけで、きゅうきょ、メニュー変更、丼にしちゃおうということになりました。

 といといのかわりにうすっぺらいハムを冷蔵庫からひっぱり出してきて、紫玉ねぎににんにく、小松菜、それからいただいたばかりのあおあおとしたゴーヤをめった切りにして、いったんじゃじゃっと炒めます。炒めたほうが、味がひきしまりそうだし、なによりゴーヤがキレイになりそうな予感がしたんです。で、てきとうに?だし汁をこしらえ、そこにさっき炒めたやつらをぶっこんで、とき卵を投入、ひと煮立ちさせたら、ゴーヤチャンプルーにもひけをとらないだろう、他人丼(ハムと玉子だから、親子丼じゃあないべ)のできあがりです。

 

 しょうじき言って、美味でした。ゴーヤも炒めておいたせいでしょう、いっそうほろ苦さがきわだって、こりゃいい感じの味になっておりました。香りもいろどりもバッチリ、これはごま油のおかげです。ああっというまもなく、丼と市販のポテサラをたいらげて、ぼくはすこぶるいい気分です。うっとうしい残暑をひと晩乗りこえられそうです。今夜はおとなりさんに思いっきり感謝しなくてはと思ったぼくの胃袋なのでした。そのうち、うちのゴーヤも実をつけてくれるかもしれません。

 

【笑い仮面】

 

 

蝙蝠をうしろに少女は舌を出し
 

この肩を叩く風あり蚊食鳥
 

赤子かな大蝙蝠の乳をせがめる
 

かはほりの群れて西日を食ひちらし
 

洞ではかはほり闇にぶらさがり         【笑い仮面】

 

 

 

 うちの裏、というかお菓子屋さんの物置小屋のあたりで、4,5にんの友だちと遊んでいた。ルールもあってないような、ようするに夕ご飯の時間までのひまつぶしをしていたんだろう。そこにだれがいたのかさえも、覚えていないし、いまはどうでもいいことだ。

 物置小屋のトタン屋根の向こうがあかぐろく汚れてきたころ、そこに、ひとりの女の子があらわれる。まっ赤なスカートをはいて、ちょっと短めの三つ編みにした髪がしろいブラウスの胸のあたりでゆれている。「あんたら、なにしゆうが?」と、少しとんがった声でぼく(ら)に尋ねる。これは、「あたしがおらんうちに……」という、女士官の詰問だ。ぼく(ら)は、えへへと、お互いの腰をつっつきあいながら、女の子にかえすこたえをさがしあぐねている兵卒のようだった。

 ふいに見た、彼女の三つ編みの髪のうしろに、おそろしい形相をしたけものがひらひらと飛んでいて、それがびっくりするくらい彼女をチャーミングに見せていたのだった。そのことだけは、忘れられない。 

 

 

画像:翠波画廊

 

 

 

 


     「借金のうた」

このお金は今日
支払う借金全部です
年ごとにつのる無念さと後悔
安らぎのない苦しみのかたまりです

耳をそろえてお返しします
お墓もいっしょにーー
友だちはわたしを解放してくれる
ふうっとひと息つける握手をしてくれるでしょうが

それはわたしが買ったもの
そのささいなものが借金にばけて
貧乏だったからお金を借りるしかなかったのです
おお神さま!なんとこっけいなおはなしでしょう。

 

          ★

     THE DEBT

This is the debt I pay
Just for one riotous day,
Years of regret and grief,
Sorrow without relief.

Pay it I will to the end—
Until the grave, my friend,
Gives me a true release—
Gives me the clasp of peace.

Slight was the thing I bought,
Small was the debt I thought,
Poor was the loan at best—
God! but the interest!

 

     ★

 

 非情な、あるいはとことん無情な現実。ダンバーは、大学卒業後は法律関係の職に就きたいと考えていたけれど、母親のわずかな収入しかあてになるものはなかったため、週4ドルで、エレベーター係の仕事に甘んじざるをえなかった。とうに黒人も白人と同等の諸権利が認められていたのにもかかわらず、白人社会で黒人が生き抜いていくには多くの困難が立ちふさがっていたようだ。

 その不条理な現実を、ダンバーは《年ごとにつのる無念さと後悔/安らぎのない苦しみのかたまりです》と言いながらも、それは自分たちのせいなのだからやむをえないとでも言うように、驚くほどあっけらかんと《おお神さま!なんとこっけいなおはなしでしょう》のひとことでカタをつけている。卑屈さはみじんもない。

 この作品を訳しながら、慰めてもらっているような気分になってしまった自分が恥ずかしくなってしまった。

 

 

 

画像:CNBC