2月8日金曜
診察を一通り終え、外泊の為に病院を後にした。戻るのは11日夕方だ。
9日10日はホテルと駅の間をチョロチョロする観光客として過ごした。


11日昼、大学の友人酒田が大阪からわざわざ見舞いに来てくれることになった。酒田は岐阜大学病院にも見舞いに来てくれていた。金沢駅にて待ち合わせだ。


「J、元気そうだな」

「何とかここまで来れたよ。わざわざありがとう。子供とか大丈夫なの?」

「嫁さんが実家に連れてってるから大丈夫。羽も伸ばせる」

お腹が空いているという事だったので、3日ぶりにFORUSのもりもり寿司に行った。幸いテーブル席に通された。


「脳の方はホント良かったね。岐大病院に名医がいてくれて」

「いや、もう吉村先生様様だよ」

「結構被曝しちゃったな」

「まあ、しょうがない。不可避の血管造影検査1回でそのまま治療までして頂いたから、これは最上だよ。凄まじいスピードだった。麻痺もないし。実際開頭術だと、寒い日は傷痕が痛んだり結構色々あるみたい。本当にありがたいよ」

「ついてたな。まあ、まあ大丈夫みたいだよ医療被曝の方は。俺の母さんが亡くなった頃に、近所のおばさんがくも膜下出血で亡くなってさ」

酒田は数年前母親を亡くしている。実際にわざわざこうやって出張ってきてくれたのはそういう経験も影響しているだろう。他の都合がつかなかった友人より、きっと僕の痛みが分かるのだ。

「そのおばさん、亡くなる3年前位に脳動脈瘤が見つかって、最初の医者に治療できない場所にあるって言われたみたいでさ。そのまま普通に生活してて破裂しちゃったらしくて。多分Jみたいに必死に探したりはしなかったと思う。してたら助かったかもしんない」

「かわいそうに。情報に受動的な人と能動的な人の受ける恩恵の差は大きいよ。ただ世代的な難しさはあるよね。今回も家族は凄く心配してくれたけど、親父はPCダメだし、母親も具体的に考えるのは難しい。全部自分で考えて自分でジャッジしたよ」

「うちの親父も同じだよ。ただ、あれだけ無条件で心から心配してくれるっていうのは家族というものを置いて他にないよ。確かに具体的な判断とか頭使うのは安心できないんだけど、無条件で心配してくれるって部分だけでいいんじゃないかって思う」

「なるほど。確かにありがたい存在だね。あんなに心配してくれるのはいないもんなあ。脳梗塞起こした時おかん泣いてたし」

「そりゃ泣くだろ」

「ダ・ヴィンチ受けられるのも親が貸してくれるからだし」

「J、それで今日みんなから見舞い金を預かってきててさ」



薄々来るかなとは思っていた。ダ・ヴィンチは高額だというのを友人みんなが心配してくれていた。


「今回は金も掛かるって事で、俺と三鷹と濱尻、爺、小橋の5人で1人5万だ。」

酒田は御見舞と書かれた分厚い封筒を差し出した。

「うーん」

「山木は12日に自分で見舞いに行くって言ってたよ」

「アイツも来てくれるのか」

「みんなで話して決めたから。爺はどうせJは結婚しない可能性あるし、結婚祝いって事でいーだろって言ってたよ」

「爺のヤロー、てきとーな事言いやがって。まあでも気持ちは嬉しいけどこれは受け取れないよ」

「なんで?」

「これを受け取るって事は、俺は生活を改めたりやらなきゃいけない事が出てくる。ダ・ヴィンチは全部分かった上で俺のエゴで選んだ選択肢だし。それは俺が背負わなきゃ駄目でしょ。足りない分は親から借りる事で話はついてるし。これを受け取るならもっと家賃の安い家に引っ越したり、年末に買って触ってないWiiUを売ったりとか、先にしなきゃいけない事があると思うんだよ」

「まあ、そういうのもあるかもしんないけど。こういう困ってる時はお互い様って事で受け取ってくれ」


過去友人と金銭トラブルになった事が細かいのを含めて何度かある。結果友人関係は終了している。復活させる気もない。やはり金というのは非常にデリケートでシビアなものであり、それでいいのだ。逆に金銭面で信用できる人間とは良好な人間関係を築ける。仮にトラブルが起こっても最後の一線を越えないから修復が可能という認識である。

今回初めて見舞い金を受ける立場になってしまったが、親類ではない他人からの安易な医療費援助はどうかと思う。少なくとも、真に金に困ったら自助努力『家賃安い家に引っ越す、持ち家があれば売る、嗜好品を金に換える、職を変える/副業の伺いを会社にする(治療対象が自分以外の親類)、返済可能な範囲で借金をする、など』を経なければならない。他所様にねだる前に先にやる事がある。

そして関係者に自助努力含む全ての金の出入りは当たり前にopenにしなければならない。

もしも援助を受け、援助者とのこれまで以上の良好な関係継続を望むなら、時間をかけても全額返済しなければならない。「あの時はありがとう。本当に助かった」という言葉を添えて。それが真の友情じゃないか。

今回の僕はそこまで追い込まれていない。親に借りて数年かければ間違いなく返済できる金額だ。


誰にも言われてないけど、「僕が1日も早く元気になって笑顔を見せる事が恩返しだ」なんていうのは詭弁だと思う。

















だって汚ねえもん
僕の笑顔。


自覚してるもん。











そして1人あたり5万もめぐんで貰って回復して半年くらいして、ヘラヘラしながら女子とちょっと高級店でデートしてたら、「その分返せよ」って言われるんじゃないか。言わなくても思われるんじゃないか。













ただ僕が渡す側なら、そうは言わない。
















見舞い金なかったら
その女子の相手
僕だったかもしんなくない?







冗談はさておき、重病だから、大変だからを免罪符にお金くれくれ無条件OKは駄目だ。健康を害していない人も毎日を何らかの困難と大変さを抱え生きている。今の僕と、若くして母を亡くし娘も育てている酒田とで、僕の方が大変だなんて証明できない。庇護されるべき未成年なら別だが僕は独立した30代のオッサンなのだ。





本当に困ったら必ず返す約束をして僕は借りる。
でも今回は大丈夫だ。








だから、僕は気持ちだけを全て受け取った。


僕は貴重な3連休の最終日に、大阪から金沢まで一人来てくれた酒田の好意と友情を死ぬまで忘れない。

僕は無条件に5万円を出そうとしてくれた、名古屋の友人達の好意と友情を死ぬまで忘れない。





そして僕は2日後の全身麻酔にあたって、頼もしい友人の好意と友情を胸の隅に、金沢の色白で可愛い女子とデートしていたいという夢を胸の中央に抱く。



渡さないこの夢だけは。



















渡さない!






【天声素人語 第四十五回】 金を法印法印ねだってはいけません。

貴様たちは金をほいほいねだってしまう事があるでしょう。

私にはわかります。

そうではなく限度額ギリギリまで借りるのはどうでしょう。

その場合、困ったら弁護士に相談になるでしょう。

やはりお金の事は慎重にしましょう。


ラッキーブッダボーイJ





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皆様 いつもありがとうございます。花粉症で鼻水が完全にダム決壊状態、Jでございます。水田が引く位、鼻水が出続けております。スイデンではなく友人のミズタでございます。スイデンなら溢れるって申し上げます、Jでございます。大阪から見舞いに来てくれた酒田君にはその後御礼をさせてと、食べログ評価高い金沢駅の不室屋カフェなる店でパフェを2人で食べました。僕たち以外の客全員が女子でした。おシャンティスポットで局地的に加齢臭を放ってしまいました。今回、かなり持論を述べてしまいました。ただどうしても書いておきたかった事であります。後ほど調べたら見舞い金相場を遥かに超える金額でした。自分では正しい事をしたと思っているんです。叩かないでやって下さい、見逃してやって下さい、弱者でございます、J者でございます。