かぼちゃちゃん。

31日夕刻。
ハロウィン・ナイトである。
抜けない風邪と土日の呑みすぎの
後遺症(簡単に言うと二日酔い)でよろめきつつ、
レジデンスの廊下に出るノラ編集者。

魔女と悪魔のコスプレできゃいきゃい騒いでいる、
韓国ムスメたち(推定19歳&21歳)が陽気にたずねてくる。
「ハッピー・ハロウィン! あなたは何も衣装を着ないの?」
「・・・着ない」
「えー、なぜ?」
「あいむ とぅー おーるど」

いや、たぶん20歳でも着ないだろうなあ・・・。
東洋人のコスプレって、秋葉原のオタクかコミケの病人にしか見えないんだもん。
ましてや、日本でクリスマスも正月も祝うことなく暮らしている30女が、
なぜNYにちょびっと来たからって、毛唐のかぼちゃ祭りに血道を
あげなければならない?
そう、わたしは行事がダイキライな女なのだ。
スーパーにいた子どもたち(4~6歳くらい?)はかわいいかったけど・・・。

・・・なーんて、ひねくれたことばかり言っていても小じわが増えるので、
一応、街にいき、知人と呑む。
いるよいるよ、秋葉原のガイジン版が。でも、コスプレしてる人は(地域によるんでしょうが)二割三割かなあ・・・。

ブラディ・マリーのタバスコ入り(激辛)を注文。クシャミがとまらなくなり、知人と別れて、早めに帰宅。

今日のお買い物はゴシップ誌
『IN TOUCH』(1ドル99セント)
英語は苦手だけど、コレならサクサク読めるから、具合の悪いときの
ベッドのお供に最適なのだ。
なになに、ブリトニーは育児ノイローゼ? 
そんなデリケートな状態なのに、デブのまんまなのね・・・
などと、また意地悪いことを呟くと、なかなか寝付けない。

のどが渇いたので、階下の自販機でコーラでも買おうと廊下に出る。
騒がしい。
さっき会った韓国ムスメたちが、パーティから帰ってきたらしい。

「ハッピー・ハロウィン!」
なかの一人が叫び、わたしに抱きついてきた。
・・・ちっ、酔ってるなこいつら・・???

むっとしているわたしに、魔女に扮したひとりが言う。
「アナタはコスチュームを着ないなんて言ったけど、ちゃんと着てるじゃない!?」
「へっ?」

言われて気づいた。
わたしのパジャマは、黒地に骸骨が実物大でプリントされた
不気味なハロウィン衣装(子供用)なのだ。
まあ、Tシャツ&ジャージみたいな素材ですね。
海外出張のとき、H&Mあたりで間に合わせで買い、
意外に着心地がいいので愛用していたのだ。
あまりに普通に着ていたので、自分でも忘れていた・・・。

「こ、これは、わたしの普段のスタイルで・・・」
説明し始めると、魔女の韓国ムスメが、
「ああ、あなたは一人でハロウィンの衣装を着て、お部屋で一人で祝ってたのね・・・」
としたり顔で呟いた。
・・・おいおいお嬢さん、いくらなんでも、そりゃあ、ヤバすぎじゃないでしょうか・・・。

言い訳をするのに十分な英語が出てこないうちに、
やつらは韓国語に切り替え、何やらキャイキャイ言いつつ、お部屋に帰っていった。

廊下に取り残された骸骨パジャマの30女…。
日韓関係を悪化させては・・・いないでしょ。









こんな処に住むはずだったが。

ノラとはいえ編集者なので、当然、本を編集している。
NYとはいえ日本の本なのは、当然なのか情けないのか?
いずれにしろ、今夜は入稿作業に励まなくてはいけない。
風邪が抜けないこともあり、6時過ぎにはレジデンスに戻る。

・・・というわけで、今日のお買い物は
1ガロン(4リットル弱)のミネラル・ウォーターのみ(2ドル弱)。
よたよた抱えてレジデンスのドアをあけると、
フロントの巨大オヤジ(御茶ノ水博士と同じ髪型の巨大黒人)が
「よしよし、水か。それがもし水じゃなかったら~?わっはっは」
と殴るジェスチャーをして、一人でウケでいる。
わたしは全く面白くもなく、憮然としている。

そう、ここは
★酒を持ち込んだら即刻退去
★男子禁制(スタッフはOK)

という厳しい、いや摩訶不思議なルールがある、修道院のような住まいなのである。

救世軍が運営している「働く・学ぶ女性のためのレジデンス」というのが
謳い文句。
「マンハッタンの真ん中に、50年前にタイムトリップしたような不思議な施設がある」
とこちらのニュース番組で取り上げられたというシロモノで、すべてがレトロ。
(つまりボロボロ)

入居者はだいたいが長期滞在の学生なのだが、驚くほどヨボヨボのお婆さんも
結構いる。
婆さんたちは部屋を自分なりに勝手に改装したり
(婆さんに限り、ドアを開けて暮らしてる人多数)、
なにやらグループを作ったり、
(たまに喧嘩したのか、仲間はずれにされてる婆さんがいる)
長期滞在というより、明らかに住み着いているようだ。

たまたまカフェテリアで、ヨボ婆さんの一人と、お天気の話をした。
名前を尋ねられたので、わたしも尋ねかえすと「インゲ」だと言う。
「インゲって、ドイツのお名前ですよね?」
「そう。両親がドイツ系なの」
「ここには長くお住まいなんですか?」
「そう。長く。
でも、あまりに長すぎて、はっきり答えたくないわ。
よそから来る外国の若い子は、来たと思うと帰るけど、
わたしはずーっとここにいる。これからも、ずっとずっと」

救世軍が運営しているのだから、何らかの補助を受けている人であろうし、
ここで終末を迎えようとしているのであれば、何らかの事情があるのだろう。
若い頃はおそらく輝くブロンドで、結構キレイだったんだろーなーと
思わせる面差し。
着ているのはヨレヨレの部屋着だが、皺だらけの手には、
ローズピンクの口紅とあわせたマニキュアがきちんと施されている。
下世話な詮索はきっぱり拒否するムードが漂っていて、話題はまた
お天気に戻った。

その昔、黒メガネがトレードマークの有名な映画評論家は
六本木のPホテルに住んでいると聞いて憧れた。
(知人(男性)がトイレでナンパされたそうだ)
マレーネ・デートリッヒもたしか、パリのホテルで亡くなったのでは
なかったか。

カーポティの『ティファニーで朝食を』(映画は甘いだけだが本は甘さも苦さもあり1000倍面白い)で、
主人公の住所は「旅行中」だというくだりが、今もイケテルと思っている。
(そうでなければ、あてどなくノラ編集者になんてならないだろう)
だけれど、当然ながら、リアルワールドはそうロマンチックとは限らない。

部屋に戻り、御茶ノ水博士オヤジに見つからないようにこっそり
持ち込んだワインを呑みつつ、仕事を始める。
今心配すべきは老後より、目の前の仕事と、クローゼットに隠してある
酒の空き瓶の始末だ・・・。


カポーティ, 竜口 直太郎
ティファニーで朝食を
コニーアイランド&サウスベイのNY牡蠣

NYは冷たい雨が降りつづき、
「そろそろ冬だな~」なんて、ダイナーで
デブおやじたちが語らっている。

寒暖のはげしさにやられ、買い物に行く元気も
ないほど、ヒドイ風邪を引いてしまった。
ドラッグストアでティッシュペーパーとビタミンC、
オレンジジュースを買い込む。
風邪っぴきの必需品である。

しかし風邪を引いたときは、なんてったってアレです。
そう…
「キュッと一杯!」である。だが、ここはNY。
自販機でワンカップ大関は買えないのだ。

日本酒は日本人向けの居酒屋や和食屋にあるけれど、風邪で
よれよれのときに誰かを誘って呑みに
いくのも気が進まない。
気取った店でカクテル飲む気力もない。
一人でさくっと呑める場所はないものか・・・。

そこでふと閃いた。
「駅」である。
グランド・セントラル・ターミナル(略してグラセン)の
有名オイスター・バーがある。http://www.oysterbartokyo.com/

「あれは観光客用の店だから、一人でちょっと寄るくらいでちょうど良いよ」
と在住の知人たちは言っていたけれど、さていかに?

行ってみると有名なU字型のカウンター、赤白チェックのテーブル席以外に、
牡蠣剥きオトコたちの仕事が眺められる、長いカウンターがある。
一人で新聞を読みながら、白ワインを呑んでいる人もいる。
さっそく席に着いて、シャルドネを注文。6ドルちょっと。
ほぼ同時に入ってきた30代くらいの通勤帰りっぽい女性も、
わたしの右隣でメニューを検分し始めた。

名物のクラムチャウダーをこしたり、牡蠣を並べてレモンを添えたり、
持ち帰り客に応対したりする「牡蠣剥きオトコ」は数人いるのだが、
カウンター客に応対するのは、ちょび髭を蓄えたキャップ姿の爺さん一人。
この爺さんが注文を受け、牡蠣の説明をし、オーダーを伝え、サーブし、
お勘定もする。
当然、くるくる働いても手が回らず、なかなか注文を取りに来ない。

右隣の女性も、メニューを手に、ちょっとため息混じりにちょび髭爺さんを
目で追っている。
するとその女性の隣に、男性客がこれまた一人でやってきて腰を下ろした。
同じくトレンチコート姿。通勤かばん&新聞。
しばしメニューを眺め、注文しようとして爺さんに「ちょっと待て!」
を繰り返され、彼もまた、ため息混じりになってきた。

「混んでますね」
「混んでます」
「仕事帰り?」
「仕事帰り」

二人はいつしか、言葉を交わし始めた。
風邪引き&英語オンチのわたしにも盗み聞き可能な、超簡単な会話。
だけど、なにやら、いい感じ。
ようやく注文をとりに来たちょび髭爺さんが、
「ああ?二人はお連れさん?注文一緒でいいの?」と聞く。
二人はちょっと顔を見合わせてから、
「別々」と答える。
でも、頼んだ品は、偶然なのか、同じクラムチャウダーと赤ワインのグラス。
うう、なんかいい感じ。

・・・人の恋路(?)を盗み見していても仕方ないので、わたしもすかさず
爺さんを捕まえて牡蠣を注文。
「NY産って書いてある、コレとコレ」
「コレとコレ?えっ!?二つ?たった二つでいいのかい?」
ちょび髭爺さんが大声で念を押す。
「二つでいいから、ワインもう一杯」
心もとなく答える。
ちなみに、牡蠣はひとつ2ドル前後である。
「ええ? 二つしか食べないのに、ワインは二杯呑むの!?」ちょび髭爺さんがまた声を張り上げる。
隣の二人のひそやかないい感じも、爺さんとわたしのやりとりでムード
ブチ壊れである。

左隣に目をやれば、男性が一人、1ダースの牡蠣をサーブされたところだ。
「おひとついかが?オリエンタルフラワー(←?)」
とか話しかけられたりして・・・と、横目で観察。

だが、よくよく見ると左男は樽級のデブで50代後半、やたら顔が赤い。
「いちばんデカイ牡蠣をくれって言ったけど、あまりデカくないなあ!あはは」と、
全く聞いていないチョビ髭爺さんに向かって大声で話しかけ、一人で大笑いしている。
しかも、呑んでいるのはなんとコーラ!!
・・・おいおい、おやじ、生牡蠣をコーラで食うから、味オンチのくせにデブ
なんだよ君は・・・。

だが、突っ込みをいれているわたしの姿は、もしかして、新橋のSL広場の
立ち飲み屋にいるおやじと全く同じ・・・?
カッコ良いニューヨーカーへの道は、遠く険しい。












魅惑のプッチ。ジャージーでないシルク

女友だちと和めば、「傷心をいやそうと古い仲間と・・・」
新しい男と遊べば、「やけになって安い男と・・・」
一人で過ごせば、「哀愁漂ってイタイ・・・」
なんだかんだと書き立てられて、
「そんじゃ、どーすればいいの!?」って感じのジェニファー・アニストン。
ゴシップ誌はこぞって、小じわが目立つ写真ばっかりアップにしてるしなー。
・・・なーんてもの思いにふけりつつ歩く秋のNY。

セレブとは対極にあるわたしだが、
某出版社を辞めてNYに来ることになって、まわりの反応は3つ。
①心機一転 (男と別れたの?)
②新天地開拓 (あっちに男ができたの?)
③遁世 (お疲れなのね・・・)

・・・残念ながらこのなかに正解はないのだが、
東京のマンションを引き払い、会社を辞め、所持品はパスポートと
カードと現金とパソコン、スーツケースひとつぶんの着替えだけ。
気楽といえば気楽、寄る辺ないと言えば、寄る辺ないことは確か。
だったらいっそ、とことん、寄る辺ない暮らしをしてみよう!

思えば都内某所のマンションは、一人暮らしにもかかわらず、
モノがあふれまくっていた。
2LDKにどっちゃり詰まった大量の服と靴とバッグ。
あちこちで雪崩をおこしていた本とCD。
ソファにテーブルにテレビにライティングディスクにサイドテーブル。

買いだめした安ワインと、もらい物のお高いワイン。
傘なんて、色のバラエティがあったほうがお洒落だからと5本、
つい買うビニ傘が5本、なんとなく予備があったほうが…と折り畳みが3本。
あの家を処分するだけで、3歳老けたほどだ。

実は、なんでNYに来たかは自分でも不明だが、なんかいいじゃん~
秋のNYで寄る辺ない暮らし♪
子猫のぉ~おひげよ~♪by『今日の猫村さん』さっそく、友人にメールで決意表明。
「・・・失業者となったわたくしは、買い物もやめ、だらだら朝まで飲みもせず、
1人2万もする寿司やイタリアンを食わず、タクシーもバンバカ乗らず、
目に付いた本をドカ買いもせず、毎日キャラメルマッキアートも飲まず、
あえて物価が高く誘惑の多いNYで、煩悩を絶った節約生活を試みる
つもりです・・・」

修道院のような女子レジデンス(激安!ワンルーム、バストイレ共有)で、
その晩は、清らかな眠りについた。

あけて日曜日。
知人との夕食の約束まで、ちょっと間がある。
グリニッチ・ヴィレッジをぶらぶら散歩し、足を伸ばしてアルファベット・アベニューの
お気に入りの古着屋「ラ レイナ」へ。
見るだけならタダだし、これも秋のNYで思索にふける散歩のうちである。
マスコット犬になつかれつつ、店内を散策。
見るだけならタダだし、これも編集者の使命(?)である。

今年のラインナップはちょっと80年ぽいかなー、などと思っていたら
エミリオ・プッチのドレスが、値札なしでふわりとかかっている。
サイズ8、色柄、デザインとも好み!

「見るだけだ、見るだけならタダ」
懸命に自分に呪文をかける。
京都の古着屋で15万円のプッチを買ってしまったのは、退職前。
あれで辞表をだすのが一か月遅れたのだ・・・。

しかし7、8年前、ファースト・ヴィンテージ・プッチに出会ったのもNYでは
なかったか。
当時まだロウワーイーストにあった「チェリー」(www.dherryboutique.com)で、明白にゲイと思しき店員が、
「こんなに小さいサイズが着られるなんてずるい~」
と身をよじりながら売ってくれたのだ。
これは、何かの宿命ではないか。

行きの飛行機で読んだ、S潮社のKさんから餞別がわりにいただいた
『桐野夏生スペシャル THE COOL!』
あれにも桐野氏私有のプッチ・コレクションが掲載されていた。
桐野ファンとしては、ここで買わないとモグリといえないか。

会社員として最後の海外出張だったロンドンブックフェア。
あのとき立ち寄った市内の古着屋で、プッチは日本円で18万だった。
サイズも馬鹿でかくて、手が出なかった。
ヤフー・オークションでも青山のヴィンテージ店でも高値だ。
これは値段によっては、買い物ではなく投資といえないか?

・・・あらゆる想念を抑えつつ、キュートなバイトちゃんに値を聞くと、490ドル。
むむ、相場よりかな~り安い。
投資とはいえ、サイズが合わないと仕方ない(?)から試着。
ぴぴぴ、ピッタリ!
すそにわずかなホツレ。
「これが直せるか、心配・・・」とつぶやくと、バイトちゃんがオーナーに
電話し、95ドル値引きしてくれるという。

そう、「この汚れを落とせるか、心配・・・」
「この破れを直せるか、自信がないけど・・・」
このつぶやきが古着を値切るコツだと教えてくれたのはベルリンの
古着屋の女主人。
無意識に、人に教わったことを実行する律儀な編集者の性(さが)が
わたしを買い物へと走らせる・・・。

♪♪♪
買い物は~楽しいな~♪
早くもカードを酷使しそうな気配を感じつつ、タイ料理に舌鼓。