
ノラであっても編集者なので、大型書店の
バーンズ&ノーブルに行ってメシの種を探す。
翻訳に良さそうな本とか、売れ筋チェックとか。
ついでに読みやすそうだったので
上海ベイビーの英語版を買う。
なんでまた、ニューヨークくんだりまで来て、
中国の尻軽娘の小説を読んでいるんだか?
夜中になり、雷が轟く。
ちっぽけな窓から見えるエンパイアステートに
光が反射して、なかなかキレイ。
激しい雨音を聞いているうちに寝てしまう。
翌日は晴天。
SOHOのギャラリーで、目当てのアーティストの資料を貰う。
すごい作品。
売ってもいるけれど、わたしの年収10年ぶんくらいか。
最後に窓ガラス越しにもう一度オブジェを見ようとして、
出口の階段から転げ落ちる。
人がわらわら集まってくる。
「大丈夫です」と必死で言いまくって近くのカフェに逃げ込む。
気を取り直すために赤ワインを注文。
★ハウスワイン赤(イタリアの何か)が、5・5ドル
キレイな店員に「21歳を過ぎてますか?」とまた聞かれる。
「当然。若く見てくれてありがとっ!」
目一杯、強打した顔が痛み、はき捨てるように答える。
半分ほど呑んだところで、店長らしき男が来る。
「やはりIDをチェックさせてください」
いい加減、アタマにきたので、
「わたしの歳を知ったら、あなたの心臓に雷が落ちます」と言い放つ。
「雷」の発音が悪くて通じない(涙)
ブロードウェイを南上し、コリアタウンへ。
CHO DAN GOL(ちょだんごる?)という豆腐チゲの店に入る。
注文を聞きにきた店員に、韓国語でまくしたてられる。
「わかりません」と英語で言う。
料理を運んできた店員に、また韓国語で何か言われる。
「わかりません」と英語で言う。
隣の席の日本人が、
「あの人、アメリカ生まれの韓国人かしら?それとも中国人かしら?」と
わたしを指して言うのが聞こえる。
「さあね。それよりワタシの前世はね、中央ヨーロッパの貴族なの」
もう一人の日本人が答えるのが聞こえる。
OBビールを呑みながら豆腐チゲ、突き出しのキムチや海苔、
ミニ・チヂミを平らげる。
韓国カラオケ屋の前で、韓国語でナンパされる。
ミッドタウン行きのバスに乗ろうとすると、メキシコ人の団体に
「タイムズスクエアへはどう行けばよいか?」とたずねられる。
部屋に帰り、仕事を少しする。
部屋の電話が鳴る。
「仕事をしてたの?」と男の声。英語。
おかしいな、この番号はごく限られた人しか知らないのに。
「仕事をしてましたが、どちらさまで?」とわたしが聞く。
「これから、あなたと知り合う人です」と男が言う。
「言ってることがわかりませんが?」とわたしが聞く。
「わたしのスペシャルな○○があなたの○○を○○○・・・」
・・・いたずらエロ電話だった。
「HERE BUT NOT HERE」
ここにいるけれど、ここにはいない。
それが『ニューヨーカー』の伝説の編集長の口癖だったと、
「ニューヨーカー」とわたし―編集長を愛した四十年
(原題:HERE BUT NOT HERE)
に書いてあったが、わたしはどこにいるんだか?