医師臨床研修部会

研修医募集定員の「激変緩和措置」、2013年度末廃止へ

2013年5月23日 橋本佳子(m3.com編集長) 

 厚生労働省の医道審議会医師分科会の医師臨床研修部会医師研修部会(部会長:桐野高明・国立病院機構理事長)が5月23日に開催され、都道府県および各研修病院の研修医の「募集定員の上限」に関する「激変緩和措置」を2013年度末で廃止することで合意した(資料は、厚労省のホームページに掲載)。例えば、2011年度実績で見た場合、受入実績が都道府県の募集定員上限を超えている東京都、神奈川県、大阪府、愛知県、兵庫県、京都府の6都府県では、「激変緩和措置」の廃止で募集自体の削減を余儀なくされる見込み。

 「募集定員の上限」は、(1)都道府県別の人口、(2)都道府県別の医学部入学定員数、(3)地理的条件(面積当たりの医師数や離島の人口などの条件)――という要素で設定されるが、今後は、人口当たりの医師数や、高齢者割合なども加味する方針についても、ほぼ合意が得られた。さらに、医師の地域偏在解消のために、新たな仕組みを導入するかについては今後の検討課題となる。桐野部会長は、「激変緩和措置を外すと、相当な影響が出てくる。都市部には我慢してもらわなければいけないことが相当ある」との見通しを示したが、岩手医科大学学長の小川彰氏は、「激変緩和措置の撤廃は従来から決まっていたこと。撤廃するだけでは、医師の地域偏在解消にあまり効果はない」と述べ、見方が分かれており、今後、議論を呼びそうだ。

 また「地域枠」で入学した学生については、マッチングとは別枠で、研修先を決めるべきとの意見も出ていたが、多くの委員は現状通り、マッチング内で研修先を決めるべきと指摘。桐野部会長も、「地域枠の学生が、最初から最後まで“エスカレーター”に乗せることにより、どんな影響が及ぶかが心配。マッチングの段階で、他の学生と同じ土俵の載せる方が健全ではないか」と述べ、別枠にはしない方針で決定。

 医師臨床研修部会は、6月、7月は月1回、8、9月は月2回のペースで開催する予定。厚労省は9月中には最終的な取りまとめを行う方針。

  募集定員と研修希望者数、どこまで近づける?

 「募集定員の上限」は、2004年度の臨床研修必修化が、医師の偏在を招いたとの指摘を受け、2010年度に導入されたもの。基本的には、東京都など都市部で上限が減らされる仕組みだが、都道府県の募集定員の上限は前年度の受入実績の90%を下回らないように、各病院の募集定員も前年度の内定者を下回らないように、それぞれ「激変緩和措置」が導入されている。

 23日の会議で議論になったのが、「激変緩和措置」の撤廃後、募集定員と研修希望者数をどこまで近づけるかという点。両者のかい離が、研修医の地域偏在につながる一因とされている。現在の募集定員は、研修希望者数の1.23倍だ。

 小川氏は、「大都市のマッチ率は80%台後半。一方、地方で人口が少ない地域では当然募集定員も少ないが、マッチ率も50%台。人口が少ない地域は、どんどんマッチ率も低くなってしまう。ここを埋める工夫をしないと、地域偏在は解消しないのではないか」などと述べ、できるだけ募集定員を研修希望者数に近づけるよう提言。2012年度の実績を基に、1.23倍よりも圧縮した場合に、各都道府県の上限がどのくらいになるか、シミュレーションするよう求めた。

 山形大学医学部長の山下英俊氏も、「募集定員と受入実績の差を縮めていくシステムを作る必要がある。今までの仕組みは、どこにも痛みが伴わない制度設計になっているが、完全に公平にするのは難しい」とコメント。また初期の臨床研修だけでなく、後期研修も視野に入れて地域で病院群を設定していくなど、地域に医師が定着する仕組み作りが必要だとした。

 桐野部会長は、2004年度の臨床研修必修化以降、6都府県(東京・神奈川・愛知・京都・大阪・福岡)では研修医の受入実績が減少傾向にある点を挙げ、「大都市部が研修医を独占しているわけではない」と指摘。募集定員と研修希望者数の比については、「1.23から、1.3や1.4にする議論はないが、一方で、1.0(募集定員数と研修希望者数の数を一致させる)には現実的にできない。1.0と1.23のどこか適切なところに置かなければいけない。現状より少し下げた方がいいと思われるが、あまりに低い(1.0近い)とアンマッチ(マッチングで研修先が決まらない例)の数が増えて、(研修希望者数が)右往左往することになる。あらかじめ値を設定するのは難しい」と述べ、諸条件を勘案しながら、慎重に検討していくことが必要だとした。

 小森氏は、桐野氏の意見を支持、「激変緩和措置については、当初の予定通り廃止。また医師数の西高東低を補正するためには、シミュレーションをした上で決定すべき」と述べた。「日医では、偏在解消のために医師の募集定員と研修希望者の数をおおむね一致させることを主張しているが、1.0にすると、アンマッチ数が増えるのは問題なので、その点は考慮すべき」(小森氏)。

 日病と全日病にヒアリング

 23日の臨床研修部会では、日本病院会の臨床研修委員会副委員長で、聖路加国際病院院長の福井次矢氏と、全日本病院協会医療制度・税制委員会委員(医師臨床研修指導医講習会担当)の公益財団法人星総合病院理事長の星北斗氏へのヒアリングも行った。

 福井氏は、(1)基幹型臨床研修病院の指定要件である、「年間入院患者数3000人以上」の根拠は不明であり撤廃すべき、(2)研修プログラムの必修化は、2004年度の制度開始当初の7診療科に戻すべき、(3)到達目標の達成度について、より厳密な第三者評価を行うべき――の三つを提案した。「狭いテーマもしくは臓器別にしか診ない医師であっては困り、できるだけ幅広い研修を受けて、どんな病気でも取りあえず診る医師になってほしい、という声が日病内から出ている」と福井氏は説明。また(2)の提案根拠として、必修化を3診療科に減らした「弾力化プログラム」では、臨床研修プログラムの到達目標を達成していない研修医がいる可能性を挙げた。

 これに対し、日本医師会常任理事の小森貴氏は、多くの大学や臨床研修病院が導入している、EPOC(オンライン臨床研修評価システム)では、弾力化プログラムが必ずしも悪いというデータは出ていないとし、慎重な検討が必要だとした。

 星氏は、星総合病院や福島県全体の臨床研修の現状を説明。星総合病院では、地域の病院、さらには福島県立医科大学とも連携を組み、多様な研修ができる体制を整えているとした。ただし、福島県全体では、2012年度マッチングの場合、募集定員に対する充足率は50%で、前年度比8.2ポイント増だが、全国43位にとどまっている。「地域の病院の多くは、それぞれの個性を生かして、何とかいい研修をすれば、(後期研修で大学に戻っても)いずれは自分のところに戻ってくれるかもしれない、病院のレベルを上げていきたいと考え、必死に研修に取り組んでいることを理解してもらいたい」。星氏は、こう語り、地域の現状を踏まえた臨床研修制度の見直しの必要性を指摘した。