毎日新聞社  5月16日(木) 配信

子宮頸がんワクチン:副作用、未報告例も調査 厚労省方針、健康被害を把握

 

 厚生労働省は、4月から定期接種を始めた子宮頸(けい)がんワクチンを巡り、現場の医師が副反応(副作用)だと認めず国に未報告になっているケースについて調査に乗り出す方針を固めた。接種後に重い健康被害に苦しむ中高生らが出ていることを受けた措置で、副反応の範囲についても医療機関や医師向けに症例を詳しく例示して、報告の徹底と接種のリスクを十分説明するよう求める。【桐野耕一】

 ワクチンの接種で発疹やけいれんなどの症状が出ることを薬の副作用と区別し、副反応という。被害女性の保護者らでつくる「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」が先月、接種中止を求める嘆願書を厚労省に提出したのを受け、被害実態を広く調べる必要があると判断した。既に被害者連絡会を通じて未報告の事例を複数確認しており、専門家による16日の検討会の審議を経て調査を始めるとみられる。

 同省によると、子宮頸がんは性交渉によるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染が原因とされる。感染からがんになるまでは数年から十数年間かかるが、年間約2700人が死亡している。近年、発生・死亡率とも若年層で増加傾向にあるため、厚労省は2010年11月から自治体に補助金を出してワクチン接種を推進。予防接種法を改正し、4月から原則無料の定期接種にした。

 薬事法などに基づく医師や製薬会社の報告によれば、子宮頸がんワクチンの副反応は09年12月の販売開始から昨年末まで計約340万人(推計)が接種して1926人。このうち重い障害が残るなど重篤なものは861人に上る。副反応との因果関係は不明とする報告もあるが、重篤の報告数はインフルエンザワクチンの約40倍とされる。重篤な症例も海外の発生頻度に比べ多いという。

 厚労省の幹部は「ワクチン成分による副反応の他に筋肉に注射するため神経が針で傷ついた可能性もある。副反応の情報を見落とさないよう医師にも呼びかけたい」としている。

 ◇「国はしっかり検証を」 不明の痛み残った14歳、やるせない母

 「ワクチンで防げるものなら娘にとっても良いと考えた末の接種でした」。東京都杉並区の主婦、松藤美香さん(46)は、そう2年前を振り返る。

 松藤さんの中学3年生の長女(14)は2011年、ワクチンの「サーバリックス」を自宅近くの診療所で接種した。決められた接種回数は3回。異変が起きたのは同年10月、同じ診療所で2回目の接種をした時だった。

 左腕に注射をしている時、「手がおかしい」と訴え、直後に左腕が痛み出した。夜には腕の腫れや足、肩の痛みを感じた。翌日、同じ診療所を訪れたが「うちでは診られない」と断られた。その後受診した総合病院では10日間の検査入院後、痛みの原因が分からない「慢性疼痛(とうつう)症候群」と診断された。

 その後も薬を服用しながら病院を転々とした。症状が激しい時は足が勝手にばたついたり睡眠中に無意識に起きて歩き回ったりした。1月に症状が改善して登校を再開したが、再び痛み出したため3月中旬から休学。歩行時は車椅子が必要だ。

 全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会代表を務める松藤さんは「治療法を把握できる医師がおらず、患者は病院を転々としている。こうした患者は増える一方であり、国はしっかり検証をしてほしい」と話す。【細川貴代】

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 ■ことば

 ◇子宮頸がんワクチン

 2009年12月発売の「サーバリックス」と11年8月発売の「ガーダシル」の2種類があり、ヒトパピローマウイルス(HPV)のうち発がん性の高い2タイプの感染を防ぐとされる。感染後は接種しても効果がないため、定期接種の対象は小学6年~高校1年。1人計3回接種を受ける。欧米各国でも公的接種として導入されている。