薬事日報  4月10日(水) 配信


 ベルランド総合病院(堺市、477床)の薬剤師は医師と協働で「薬剤適正使用のためのプロトコール」を策定し、昨年4月から実施している。医師に疑義照会せずに薬剤師がオーダ内容を変更できる項目を設定。薬剤師の裁量で、経管投与時に最適な剤形に変更したり、配合変化を起こす可能性がある注射薬溶解液を変更したりしている。その内容はまだ限定されてはいるものの、第一歩を踏み出した意味は大きい。業務負担軽減につながると医師からの評価は高く、今後は薬剤の用量調節などにも同プロトコールを拡大させたい考えだ。

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 同院は大阪府南部の堺市を中心とした地域の救急医療、がん医療や周産期医療などを担う拠点病院。平均在院日数は約11日と短い。病床数は477床。薬剤師数は今年4月から3人増え26人になった。昨年春から病棟薬剤業務実施加算の算定を開始している。

 同プロトコール策定のきっかけは、2010年に厚生労働省医政局長から「医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について」とする通知が発出されたことだ。この中で、現行法下でも可能な業務として「薬剤の種類、投与量、投与方法、投与期間等の変更や検査のオーダについて、医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき、専門的知見の活用を通じて、医師等と協働して実施すること」などが例示された。

 薬剤部副部長の中井由佳氏は「これを読み、なんとか業務に反映できないだろうかと考えた。そこで、日頃薬剤師が医師によく疑義照会する内容のうち、医師にとってはその都度了承するまでもなく、疑義照会への応答が手間だと思うような内容について、薬剤師がオーダ内容の変更を行いたいと考えた」と振り返る。

 院内の医師と協議の上、プロトコールを策定。実施エラーに対する責任は薬剤師が負うこととし、院内各種委員会の承認を得て、昨年4月中旬から運用を開始した。

 プロトコールには、医師に疑義照会せずに薬剤師がオーダ内容を変更できる項目として、以前から実施していた2項目を含めて計8項目を盛り込んだ。

 注射薬については、[1]配合変化によるルート閉塞予防のためのフラッシュ用生理食塩水の処方追加[2]配合変化防止などを目的にした溶解液の変更[3]安価になる場合などの規格変更[4]点滴ルートの変更――の4項目を策定した。

 経口剤については、以前から行っていた▽一包化への変更(抗血小板剤を除く処方)▽院外処方箋の疑義照会に基づく残薬調整のための日数変更――の2項目に加えて、▽食直前に服用すべきα‐グルコシダーゼ阻害剤などの服用(使用)時間の変更▽散剤を錠剤に変更するなど経管投与時に適した剤形への変更――の2項目を策定した。

 さらに、医師への疑義照会後に薬剤師がオーダ内容を変更できる項目として3項目を設けた。以前から実施していた▽抗血小板剤を含む処方の一包化への変更――に加えて、▽用量と用法の不一致の修正▽バンコマイシン内服時の単シロップ追加――の2項目を明記した。

 このほか、このプロトコールによって、抗メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)薬の血中薬物濃度測定(TDM)検査をオーダする権限が薬剤師に委譲された。「医師は、血中濃度が定常状態になる前に検査オーダを出すことがある。薬剤師はどのタイミングで検査オーダを出すのが最適なのか判断できるため、そのオーダを出す権限をほしいと要望した」と中井氏は話す。当初は認められなかったが、医政局長通知などを材料に院長を1年がかりで説得。昨年春に認可されたという。

 薬剤師は、このプロトコールに合致する場合、医師に疑義照会することなく電子カルテ上で処方オーダを変更したり、疑義照会を経て処方に手を加えたり、TDMの検査オーダを薬剤師の裁量で出したりすることが可能だ。これらの入力フォームは標準化されている。処方変更は主治医の名前で行うが、電子カルテ上にはどの薬剤師が何を実施したのか、統一した書式で記載される。

項目の拡大、医師からも要望

 このプロトコールの実施件数は昨年4月から12月までの9カ月間で950件。ルート閉塞予防のためのフラッシュ用生理食塩水の処方追加が140件と最も多かった。

 このような薬剤師の業務について「現場の医師は諸手を挙げて賛成してくれる。そこまで薬剤師がしてくれるのは助かると言われる」と中井氏は語る。

 薬剤部科長の星育子氏も「医師からの反対はなく、プロトコールの範囲を拡大してほしいという意見が多い。処方に不備があったとしても、細かい調整は薬剤師がちゃんとやってくれているという安心感が医師にはあるようだ。現在、薬剤師が担当している範囲は小さいが、医師からはあれもしてほしい、これもしてほしいという要望がある」と話す。

 この業務には、医師の業務負担軽減だけでなく、現場の業務がスムーズになるという効果も生まれた。これまでは、医師に疑義照会を行って実際に処方オーダが変更されるまでに、タイムラグが生じることがあった。今回、疑義照会不要とされた項目については、薬剤師の裁量によって必要な措置が直ちにオーダに反映されるようになった。

 昨年4月から12月までに実施したプロトコールでアクシデントに至ったものはなかった。ただ、精神神経科医師より、「こちらから指定する患者については残薬調整をせず、次回受診時に主治医に相談するよう指導してほしい」との申し入れがあったため、プロトコール内容を一部改訂した。

 今後、薬剤部はこのプロトコールに盛り込む項目を増やしたい考えだ。中井氏は「例えば、病棟業務を通じて薬剤師が処方提案し、了承された時に医師から『そのオーダを入力しておいてほしい』と言われることが少なくない。新規処方の入力は時期尚早だと思うが、投与量の調整は薬剤師でも対応できるし、医師からも要望がある。そのような業務は拡大したいと思っている」と話す。

病棟業務、全薬剤師が担当

 同院の薬剤師は、05年の院外処方箋発行を契機に病棟での業務を拡充。昨年4月から病棟薬剤業務実施加算の算定を開始した。病棟での業務は全薬剤師が担当。午前、午後の半日ずつ、入れ替わりながら病棟に上がり、業務を行っている。

 「現場で必要性を感じた業務に次々に取り組んでいった。それが結果的に算定につながった」と中井氏。「他の医療職種から『こういうことをやってほしい』と言われる前に、薬剤師が先に準備し業務に取り組むのが当院の文化。病棟で、これは危なかったという事例に遭遇すると、薬剤師の関与によってそれをなんとかできるかもしれないと考えて、業務を提案する」と説明する。

 このほか、業務の手順書を策定したり、汎用ソフトを活用して独自にデータベースを構築したりし、薬剤師の各種業務を標準化していることも特徴だ。

 どの薬剤師でも、一定の質以上の業務が実施可能になり、見落としや転記ミスなども生じにくくなるという。

 医師への処方提案にも積極的に取り組んでいる。医師の依頼を受けて一昨年から、薬剤師の処方提案を電子カルテ上に分かりやすく表示するようにした。

 薬剤師がどんな処方提案を行い、それが医師に受け入れられたのか、実際に患者の容態が改善したのかなど、その効果を追跡している。

 今後もさらに病棟での業務を拡充したい考え。配薬カートへのセット、配薬業務、一般注射薬の混合調製などを段階的に手がける計画だ。