2012年09月28日09時29分
[ⓒ 中央日報日本語版]


  日本政府の尖閣諸島の「国有化」を巡って、日中両国が真っ正面から衝突している。中国政府は、日本が領土・領海問題に対する「棚上げ合意」を一方的に破棄したとみなし、中国も実効支配強化に乗り出すことを宣言した。そして、反日デモを誘導し、日貨排斥運動を黙認し、対日制裁措置を繰り出している。

  日本政府は、「国有化」を取り下げるわけにはいかない。しかし、これによって尖閣諸島が「領土問題化」し、軍事紛争に発展する危険が高まった。領土問題は排外的民族主義の温床である。それが双方でことあるごとに噴き出すことになれば、日中は「二匹のサソリ」のような関係になる恐れがある。日中の長い、長い、闘争の時代が始まることになるかも知れない。

  領土問題について最善の策は、鄧小平がかつて唱えた「将来の智恵のある世代に解決は委ねよう」という”先送り”策である。日中両国は30年近く、このフォーミュラを基本的に維持してきた。それは鄧小平の平和台頭論の枠組みに巧まずして組み込まれていた。今回、これが音を立てて崩れ始めた。

  2010年9月の尖閣ショックにその兆しは見えていた。中国は、領海侵犯した中国人船長を日本政府が逮捕したのに抗議し、レア・アースの禁輸とフジタ社員の拘束という報復措置を取った。鄧小平の平和台頭論の土台がここで揺らいだ。日本からすれば中国リスク、中国からすれば日本リスクがにわかに高まっている。

  日中はリスクを低減するために何をすべきか。ここでは、日本に絞って、対中戦略に必要な七本柱を提唱したい。

  第一に、日本の対中進出企業が算を乱して中国から引き揚げないことである。過剰反応をしない。中国ビジネスが持続的な利潤を生み、日中双方にプラスになるのであれば、今回のような反日デモも中国リスクの一つと割り切って、リスク管理を本格化することによってしのぐのがよい。そのような沈着冷静な対応が、中国のパートナーと中国人従業員に安心感と敬意を与えるだろう。その一方で、採算が合わず、政治的ハラスメントにさらされる事業からは撤退するべきである。それを粛々と、決然と行う。お互い日中経冷はキツイ。ガマン比べである。ただ、このところ冴えない日本だが、ガマン競争だけはまだ国際競争力がありそうだ。ここはガマンのしどころだ。

  第二に、日米同盟を堅持、強化することである。今回、クリントン国務長官は、日本の施政下にある領域が第三国の攻撃を受けた場合、日米安保条約の防衛義務を順守することを明確にした。これを「クリントン・ドクトリン」と名付けて定着させるべきである。それが軍事紛争を抑止する安定作用となる。そのためにも、日本は自らの領土・領海をしっかり守る意思と能力を持たなければならない。同時に、官邸の外交・安全保障・危機管理機能を抜本的に改革し、ホワイトハウスと官邸の戦略的政策対話を構築する必要がある。

  第三に、韓国との関係を改善することである。政権末期、統治荷崩れ状態の李明博政権が、竹島をめぐる日韓の領土問題を政権浮揚のテコにしたのは不幸な出来事だった。ただ、韓国は民主主義の国であり、大統領選挙と政権交代が間近である。日本も遠からず総選挙と政権交代の可能性が強い。双方とも「前政権時代のまことに不幸な出来事」と受け流して、出直しを図ることができるし、そうするべきである。

   第四に、東南アジアとの関係を再強化するべきである。なかでも、インドネシア、ベトナム、ミャンマーとの戦略的関係を築く時である。この3カ国との経済連携を強化し、「チャイナ・プラス・ワン」(脱中国一国依存・多角化戦略)の主要対象国として位置づけるべきである。ASEANが中国に分割統治されないように、ASEANの統合促進にもこれまで以上に力を貸すべきである。

  第五に、ロシアとの関係改善と領土問題の解決である。現実問題として、領土問題で解決可能なのは日ロ間の北方領土問題だけであろう。世界では、「日本だけが中国、韓国、ロシアのすべてと領土紛争を抱えている」ということをもって、北東アジアの領土問題は「日本問題」なのではないかと見られがちである。日ロの懸案を解決し、日本は戦略的決断ができる国であることを示す。むしろ、その格好の機会ぐらいに受け止めるべきだ。

  第六に、中国との「戦略的意思疎通」を構築することである。日中の権力中枢の間の意思疎通回路をつくることが不可欠である。日中正常化以降、両国の間でもめ事が起こると関係修復のために裏方としてアヒルの水掻きと球拾いをした黒子たちがいた。田川誠一、大来佐武郎、野中広務といった人々である。(中国側ではリョウ承志、王道函、曽慶紅など)現在、そうした存在はほぼ皆無となった。2010年の尖閣ショックの時は、何人もの”密使”が解決の糸口を求めて、舞台裏で北京詣でをしたが、中国共産党中央の奥の院と意思疎通することはできなかった。

  第七。中国との長期的な安定関係を探求するに当たって、歴史認識を少しでも共有する努力を絶やさないことである。日本側の侵略の非を正面から認め、その教訓を踏まえて折り目正しい対中姿勢を保つことが大切である。同時に、歴史和解のプロセスは相手がある話であり、独り相撲はできない。“愛国無罪”のスローガンに象徴される恣意的かつ政治的な「歴史と記憶」を克服してもらう必要がある。共産党統治を正統化するための「歴史と記憶」は、阿片戦争から日中戦争終結までの「国恥」をマグマとした復讐情念を掻き立てかねない。その情念をたぎらせたまま中国が民主化に向かった時が、「二匹のサソリ」の刺し合いになるのではないか。そんな怖さを、いま、感じている。

  船橋洋一(日本再建イニシアティブ理事長)