配信元:IZA

2012/09/06 09:43更新

「電車を並んで待っているのに、割り込んで席を奪うようなもの」。政府が尖閣諸島を購入することで地権者と合意したことに対し、東京都の猪瀬直樹副知事は9月5日、そう批判した。

 ■「根拠は不明」

 「都は価格算定のために現地調査するなど、民主主義のルールに基づいて購入しようとしているが、政府の20億5000万円の根拠は不明だ。納税者に説明ができない」と語った。

 海洋政策が専門で都専門委員を務め、(9月)2日の現地調査にも参加した山田吉彦東海大教授も「最終的には国有化すべきだが、国には島を活用する方針がなく、このままでは現状と何も変わらない。都の動きを待つべきだ」と指摘する。

 地元・沖縄県石垣市でも、都ではなく国が購入することによって実効支配が後退するとの不安が広がった。中山義隆市長は、維持・管理が現状のままになるとみられることから「実効支配を強める意味で進展はなく、納得できない」と批判した。

 地元の漁業者は長年、石垣島から約170キロ離れた尖閣諸島で安全に操業するため、避難港や気象関係の施設の設置を要望してきた。

 ■「理解に苦しむ」

 中山市長は「都の購入方針に横やりを入れて、ただ国有化して港も造らないというのは理解に苦しむ」と述べ、引き続き都と連携していく考えを表明した。


 地元の民間団体「八重山防衛協会」の三木巌会長(70)は「何もしないのでは実効支配などできない」と指摘。「施設整備や人が住むことをはじめとして、さまざまな行動を通じた実効支配が大切だ。国は『領土問題は存在しない』と言っているのに何を恐れているのか」と批判した。

 八重山漁協の上原亀一組合長(50)は「退避港など安全のための施設整備をしていただけるのなら、都が買おうが国が買おうが構わない」と話す。それでも、「組合員はみな『尖閣で安心して漁をしたい』と異口同音に言うが、われわれは見守ることしかできない。国の方針が変わり、施設整備を受け入れてくれることを期待している」と訴えた。

 (SANKEI EXPRESS)

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 ≪米国 事態の沈静化目指す≫

 中国訪問中のヒラリー・クリントン米国務長官は9月5日、胡錦濤国家主席らと会談後に北京で記者会見し、南シナ海問題に絡む発言の中で、尖閣諸島も念頭に「(米国は領土問題で特定の)立場を取らない」との考えを中国側との会談で伝えたことを明らかにした。

 クリントン氏は4日夜に楊潔●(=簾の广を厂に、兼を虎に、よう・けつち)外相と、5日午後は温家宝首相とも会談した。米中の前向きな協力関係を訴え事態の沈静化を目指す。

 中国では、尖閣諸島の領有権問題について特定の立場は取らないとする一方で日米安全保障条約が基本的に適用されるという米国の姿勢に対し、反発が強まっている。

 米国にとって、国際社会で重要性を増す中国と、同盟国の日本が対立する尖閣問題への対処は、外交政策上の優先地域であるアジアの安定に向けた課題の一つ。クリントン氏は5日、次期国家主席に内定している習近平国家副主席と会談する予定だったが、急遽(きゅうきょ)取り消された。中国外務省は「正常な日程調整」と答え、理由を明らかにしなかった。

 (北京 共同/SANKEI EXPRESS)