レポート
中央社会保険医療協議会

今年度後半に中間整理、実態調査も近く実施

2012年6月20日 橋本佳子(m3.com編集長)


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 中央社会保険医療協議会・診療報酬調査専門組織の「医療機関等における消費税負担に関する分科会」の第1回会議が6月20日に開催され、今後の検討方針やスケジュールについて了承が得られた(資料は、厚労省のホームページに掲載)。

 分科会長には、慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授の田中滋氏が、分科会長代理には日本対がん協会常務理事の関原健夫氏がそれぞれ選任された。委員は、診療側6人、支払側6人、公益側4人のほか、医薬品・材料などの業界団体代表2人で構成。診療側委員6人には、日本医師会副会長の今村聡氏、日本医療法人協会副会長の伊藤伸一氏、日本薬剤師会常務理事の森昌平氏という、中医協総会委員以外の3人が入っている。

 消費税の取り扱いは、次期診療報酬改定に向けた四つの基本的課題のうちの一つ( 『次期改定に向け、「四つの基本課題」を重点的に議論』を参照)。2012年2月17日に、消費税率を2014年4月から8%、2015年10月から10%にそれぞれ引き上げることが閣議決定され、今通常国会に消費税法改正法案が提出されている。

 これらを踏まえ、厚労省は、調査専門チームを設置し、医療機関における消費税負担の実態などを調査するとともに、(1)8%への引き上げ時の診療報酬上での対応の検討、(2)医療機関における高額の投資に係る消費税の負担の取り扱い――について議論する方針。2012年度後半には「議論の中間整理」を行い、2013年度に8%引き上げ時の対応を取りまとめ、さらに2014年度から10%への引き上げ時に対応を検討するスケジュールを提示している。

 医療は消費税非課税であるため、医療機関は薬などの購入の際に支払った消費税について「仕入税額控除」ができないことから、その消費税額を負担するという「損税問題」が生じている。1989年の消費税導入時、および1997年の消費税率引き上げ時は、それぞれ診療報酬と薬価の改定を行い、消費税分を上乗せする形で対応。消費税率8%引き上げ時も、「診療報酬等の医療保険制度で対応する」とされている。従来と異なるのは、前述の(2)の高額投資の取り扱いが別建てで検討される点だ。

  10%時も「非課税」か否かは今後の検討課題

 第1回会議の議論は、医療における消費税に関する基本的な考え方や、検討に必要な資料の要望などが中心だった。

 議題になった一つが、閣議決定で「医療に係る消費税の課税の在り方について引き続き検討する」とされている点。健康保険組合連合会専務理事の白川修二氏は、「8%、10%引き上げ時に限らず、今後の消費税の在り方に関する議論を制限するものではない、との理解でいいか」と質した。これに対し、厚労省保険局医療課保険医療企画調査室長の屋敷次郎氏は、「議論を制限するものではない」と回答。全日本病院協会会長の西澤寛俊氏も、「税制を決定するのは中医協ではないが、『制限するものではない』ではなく、今後の消費税の在り方について積極的な議論をお願いしたい」と要望した。

 今村氏は、「日医は、税制改正に対する要望で、これまで消費税の取り扱いを、(診療報酬ではなく)税の中で対応するよう求めてきた」と述べた上で、「法案に消費税率8%までは診療報酬で対応することが書かれているので、無視するわけにはいかないが、その後の在り方は税制調査会に任せるなどの対応も必要」との考えを示した。

 なお、中医協総会では、10%引き上げ時の対応に関する解釈が分かれ、厚労省は4月11日の総会で、「消費税非課税のまま対応する」と説明したのに対し、診療側が異論を呈していた( 『消費税の「唐沢発言」に異議あり』を参照)。20日の会議後、今村氏は、6月15日の社会保障と税の一体改革関連法案の修正協議における民主、自民、公明3党合意で、「軽減税率」などが議論されることになったため、「10%引き上げ時の取り扱いは、今後の検討次第」との見通しを示した。

 「非課税は国民をだます仕組み」、白川氏

 「消費税非課税」という現在の取り扱いについては、診療側と支払側の両方から問題視する声が上がった。

 今村氏は、「診療報酬が非課税なのは、患者に消費税負担を負わせないため。しかし、診療報酬の引き上げなどにより補てんするのは、結局は患者、国民が負担していることを意味する。現状ではこの点を理解している人は少なく、また医療機関にとっても現状には不満が多い。今後も診療報酬で消費税問題を対応していくのであれば、相当工夫しないと、医療機関と患者のいずれも納得する仕組みにはならない」と述べ、診療報酬で対応することの限界を示唆した。

 白川氏も今村氏の考えを支持、「『診療報酬で手当する』とされれば、その制限の中で議論しなければならない。また、非課税と言いながら、診療報酬で対応する、つまり国民に診療報酬で消費税を負担するという仕組みがあること自体問題がある」と述べ、「現状の仕組みは国民に理解されていない。にもかかわらず、非課税をうたうのは、国民をだます仕組みではないか」と指摘した。

 もっとも、そもそも1989年の消費税導入時、診療報酬の非課税を主張したのは日医だった。今村氏は、「ゼロ税率や非課税など、消費税の仕組みが分からない中で、患者に負担を負わせないために、医師会として非課税を主張したと聞いている。この点については一定の責任がある。今後、税率が上がっていく中で、今の複雑な仕組みの中で工夫をしていくのは、彌縫(びぼう)策のようで、よくない。反省の意味も含めて、根本から議論していくべき」と弁明した。

 「高額の投資」の消費税取り扱いも焦点

 今村氏は、(1)諸外国の医療における消費税の取り扱い、(2)日本の消費税導入時と消費税率引き上げ時における対応の詳細(どんなデータを基に診療報酬と薬価の改定を実施したのか、どの程度の財源が必要だったのか、また診療報酬上ではどの点数が引き上げになり、その後にその点数がどう推移したかなど)――などのデータの提出を要望。

 全国健康保険協会理事長の小林剛氏は、「医療機関における高額の投資に係る消費税の負担の取り扱い」について、「新たに一定の基準に該当するものに対し、区分して措置を講ずることを検討する」とされている点を質問、「これまでとは異なる対応をする理由は何か。どんな背景からこの議論が出てきたのか。診療報酬以外にどんな対応策が考えられるのか」と質問。そのほか、複数の委員から、「高額の投資の対象範囲」に関する質問も出された。次回会議で、厚労省は要望が上がった資料などを提出、議論を深める予定。