医学部長病院長会議調査、学位取得低下の懸念も

2012年6月23日 橋本佳子(m3.com編集長)


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 全国医学部長病院長会議が、2004年度に必修化された卒後臨床研修を受けた医師と、必修化以前の研修を受けた医師に、それぞれ調査したところ、全体で見れば、研修に対する満足度は必修化前後で変わらないことが分かった。6月21日の定例記者会見で調査結果を公表した。

 初期臨床研修について、「満足できる」と回答した医師は旧制度63.8%、新制度62.6%、「満足できない」との回答は旧制度13.3%、新制度12.9%で、新旧両制度で大差はない。

 新制度の特徴は、マッチング方式とスーパーローテーション方式の採用。マッチング方式などにより、全国から研修病院を選べる制度を支持するのは、新制度75.4%で、旧制度55.7%を上回っている。ただ、スーパーローテーション方式については、多くの診療科で研修できることを評価する声がある一方、臨床研修前に精神科、産婦人科、地域保健・医療を志望していた医師では、診療科別の研修を「役に立たない」との回答が2割を超えた。

 そのほか、初期研修と同じ大学病院に勤務しているのは、旧制度76.3%に対し、新制度56.5%にとどまり、初期研修に限らず、それ以降も医師の流動性が高まっていることも示されている。

 調査は、全国医学部長病院長会議が、厚生労働科学特別研究事業「初期臨床研修制度の評価のあり方に関する研究」班〔研究代表者:桐野高明・国立国際医療研究センター総長(当時)〕との共同研究の形で実施。全国の80の大学病院本院と、35の大学病院分院で研修を受けた、新制度(2004年~2008年卒業の医師)と、旧制度医師(1998年~2003年卒業の医師)を対象に実施。調査期間は、2011年2月28日から3月25日、計1万788人から回答を得た(旧制度5753人、新制度5025人、無回答10人)。

 調査を担当した全国医学部長病院長会議の卒後臨床研修調整委員会委員長の山下英俊・山形大学医学部長は、「研修直後に調査したのでは、自らが受けた研修の意味付けが分からない。今回の調査は、新旧両制度を問わず、臨床研修を終え、一定期間が経過した医師を対象に実施したのが特徴」と説明。その上で、「新制度での問題点は、研修する診療科を義務にしたこと。研修の満足度が一部の診療科で低下している。これは将来の専門とは関係なく研修内容を決めた弊害と言える」と指摘する。

 研修で希望進路の実態把握

 本調査では、大学病院以外で研修を受けた医師について調査した桐野班研究との比較も行っている(計628人。旧制度230人、新制度395人、無回答3人)。桐野班研究では、「満足できる」と回答した医師は、旧制度63.0%だったが、新制度は68.6%とやや上昇した一方、「満足できない」のは旧制度15.7%、新制度8.8%に減少している。2004年度の必修化前後で、大学病院以外の方が、大学病院よりも、満足度の上昇率は高い。

 また、「臨床研修でよかった点」を複数回答で聞いたところ、旧制度では、1位「手技を豊富に経験できた」(50.7%)、2位「希望する診療科の実態を把握できた」(48.9%)、3位「研修医一人当たりの症例数が充実していた」(43.9%)。新制度では、1位「希望する診療科の実態を把握できた」(58.5%)、2位「多くの診療科をローテートできた」(46.4%)、3位「熱心な指導医がいた」(44.1%)。

 一方、改善すべき点は、旧制度では、1位「多くの診療科を選択できなかった」(23.5%)、2位「研修プログラムが充実していなかった」(22.3%)、3位「診療科同士の垣根が高かった」(19.9%)。これに対し、新制度では、1位「多くの診療科をローテーションするため深く学べなかった」(27.3%)、2位「手技を豊富に経験できなかった」(21.9%)、3位「シミュレーターや図書など機器や設備が充実していなかった」(18.3%)。

 適切な研修期間については、「2年以上」としたのは、旧制度50.9%、新制度49.1%。「1年以上2年未満」が旧制度28.3%、新制度35.4%、「1年未満」が旧制度9.9%、新制度9.5%と大差はないものの、「臨床研修は不要」としたのは、旧制度9.6%で、新制度5.2%よりやや多かった。

 「学位取得」、3割以上低下

 さらに、本調査では、臨床研修終了後の動向についても調査。

 主たる診療科を見ると、増加しているのは、皮膚科、精神科、形成外科、産婦人科、放射線科、麻酔科、病理診断科、救急科、総合診療科。一方、減少しているのは、小児科、外科、脳神経外科、整形外科、耳鼻咽喉科、臨床検査科。

 「学位取得」あるいは「今後学位の取得」を目指している医師の合計は、旧制度80.6%に対し、新制度では52.6%と、3割以上も低下している。なお、桐野班調査では、旧制度44.3%と以前から低い上に、新制度31.6%になっている。

 医学生でも実施可能な基本的手技多い

 最近、「スチューデントドクター」などという形で、医学生が臨床実習で行う医行為の幅が広がっている。調査では、「指導医のもとでも、医学生には無理と考えられる基本手技20項目」についても質問。

 研修制度の新旧にかかわらず、50%以上の医師が「無理」としたのは、穿刺法(腰椎、胸腔、腹腔)、気管挿管、30%以上が「無理」としたのは、ドレーン・チューブ類の管理、除細動。それ以外の、皮膚縫合、簡単な切開・排膿、胃管の挿入と管理などは、「無理」としたのは30%未満で、大半が指導医のもとであれば医学生にも実施可能としている。

 山下氏は、これらの調査結果を踏まえ、次のように語っている。「全国医学部長病院長会議では従来から、卒前の臨床実習を充実させ、マッチングは専門医取得について導入すべきだと考えてきた。今回の調査でも、基本手技の多くが卒前に実習することができるという回答になっている。今回の調査を通じて、卒前教育、国試、卒後の専門医教育と生涯教育の体系的、継続的な教育システムを、厚生労働省や文部科学省と協力し、構築していく必要性を改めて実感した」。