レポート


“事故調”、大筋で一致も各論では差異◆Vol.7

目的は「原因究明と再発防止」、処分との分離が課題

2012年6月15日 橋本佳子(m3.com編集長)


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 厚生労働省の「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」(座長:山本 和彦・一橋大学大学院法学研究科教授)の第4回会議が6月14日開催され、医療事故調査の仕組みのあり方のうち、(1)調査を行う目的、(2)調査を行う対象や範囲、(3)調査を行う組織――について議論した(資料は、厚労省のホームページに掲載)。

 (1)の目的は、「原因分析と再発防止」であり、(2)の対象と範囲については、死亡事例をメーンにし、医療機関と患者のいずれの依頼も受け付けるという点でほぼ一致。ただし、(3)の調査を行う組織は、院内調査を基本とし、第三者機関による調査を行う構造にするという大枠についてはおおむね理解が得られたものの、第三者組織を公的な機関にするか否かなども含め、その詳細については意見が分かれた。

 同検討部会の親会議に当たる「医療の質の向上に関する無過失補償制度等のあり方に関する検討会」の座長を務める東北大学総長の里見進氏は、この日の議論を次のように総括した。「調査の目的と何を対象にするかは決まった。また、まず院内事故調査を重視する点でも一致。第三者機関も設置しないことには、公平性が担保されず、納得が得られにくいという点でも一致していると思う。あとは、社会が納得するよう、第三者機関をどこに置き、どんな役割を果たすかなどを議論していけばいい」。

 とはいえ、「やはり微妙な差異がある。例えば、院内事故調査にこだわる人と、第三者機関にこだわる人の両方がいる」(東京大学大学院法学政治学研究科教授の樋口範雄氏)といった意見が出るなど、大枠では意見が一致していても、具体的な制度設計には意見の差異は多々ある。

 今後も月1回のペースで開催、調査に必要な権限、当該医療機関が行った調査結果の取り扱い、調査の実務、「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」との関係、医療安全支援センターとの関係、調査に必要な費用の負担のあり方、捜査機関との関係などについて、順次、議論していく。「これらの検討課題は相互に関連している。行きつ戻りつしながら議論していく。現時点では、いつまでに議論を取りまとめるかは決定していない」(厚労省医政局総務課医療安全推進室長の宮本哲也氏)。


会議の冒頭で挨拶した、藤田一枝・厚生労働大臣政務官

  「再発防止と処分、切り離すべき」、中沢氏

 調査の目的について、弁護士の宮沢潤氏は、「本来の目的、目的から派生する効果、目的を達成するための手段に分けて考えるべき」と指摘、その上で、「原因究明と再発防止、これら二つを目的とすべき。事実関係が明らかになれば、補償ができ、また刑事司法の後退もある」とした。南山大学大学院法務研究科教授で、弁護士の加藤良夫氏も宮沢氏の意見を支持、「原因究明と再発防止を行い、医療の質を高めることを目的とすべき。その結果として、様々な効果が生じ、そのためにどんな施策を実施すべきかが出てくる」と述べた。

 樋口氏は、宮沢氏の発言について、「原因究明と再発防止をやっても、刑事の介入は排除できない。そうではなく、警察ではなく、第三者機関に事故を届け出ることにより、刑事司法の介入が少なくなるべき」との考えを示した。

 これに対し、原因究明と再発防止が重要だとしながらも、医師らの処分を目的としないようクギを刺したのが、秋田労災病院第二内科部長の中沢堅次氏。「再発防止の場合は、善し悪しは低いところで判断する。そうしないと、医療機関の改善につながらないからだ。一方、法的責任を問う場合には、厳しく判断する必要があり、高いところで線を引く必要がある。一つの組織に、二つの目的を持たせるとうまくいかない」(中沢氏)。

 調査を行う対象や範囲について、昭和大学病院長の有賀徹氏は、「院内では、多少不自然な臨床経過をたどった事例については、調査を行っている。したがって、第三者機関でも、死亡事例以外も、有害事象まで含めるというのが筋。しかし、できることとできないことがある。社会の仕組みとして議論する際には、まず死亡例から出発するのが一つの見識だろう」とした。おおむね他の構成員もこの考え方に同意、また第三者機関の調査は、医療機関と患者のいずれも依頼できる形が妥当であるとされた。


次回は、第三者機関の権限や、調査結果の取り扱いなどについて議論する予定。

  「刑事介入避けるには、公的組織が必要」、宮沢氏

 一方、前述のように意見が分かれたのが、「調査を行う組織」。ただ、2008年に厚労省がまとめた“医療事故調”の第三次試案、大綱案のように、届出基準に合致した事故は全例届ける仕組みを主張する意見はなかった。「第三者機関を作り、そこですべてをやることは誰も考えていない」(樋口氏)、「すべての医療事故を第三者機関で調査するのは現実的に無理」(宮沢氏)。

 中澤氏は、院内事故調査を重視する重要性を強調、第三者機関の設置は否定しないものの、現実的に各事故の分野に精通している医師を集めて調査すること自体、現実的ではないとし、患者と医療機関の対話をコーディネートする役割などを担う組織であれば、あり得るとした。「原因分析が重視されているが、後追いで調査を行うのは容易ではない。また医療事故の原因は個別的で、どんなスタッフが関わっていたかなど、個々の医療機関によって異なる」などとし、第三者機関が調査を行い、再発防止策を検討することにも限界があるとした。さらに、第三者機関はあくまで過失があったか否かなどの「判断」は行わず、何があったのかという事実を伝えるだけにとどめ、それをどう解釈するかは、患者側の判断に委ねるべきだと主張。「原因究明と再発防止と、行為の善し悪しを判断する機能は分けることが必要」(中澤氏)。

 これに対し、宮沢氏は、「公的な第三者機関の設置が望ましい」とし、刑事司法の介入を軽減する観点からも、公的な組織であることが必要だとした。加藤氏も、「医療事故の調査は、いろいろな段階で階層化されて実施すればいい。院内事故調査を実施し、安全文化を醸成してほしい。院内調査ができない医療機関の場合は、地域で連携を取りながら、学会や医師会などが調査することもあり得るだろう。第三者機関について、公的な国の組織にすべき」とコメント。また院内調査について、加藤氏は、「責任回避的に院内事故調査が行われる場合もあるとし、外部委員を入れるべき」と主張、宮沢氏も外部委員を入れることを支持。

  産科医療補償制度の評価分かれる

 議論はさらに、産科医療補償制度にも発展。同制度は、補償だけでなく、原因究明と再発防止を行う仕組みになっている。しかし、中澤氏は、その原因究明と再発防止を行う課程で、「医療機関の行為の善し悪しを判断する方向になっている」と指摘。これは目的が原因究明と再発防止であっても、制度の運用次第で処分などにもつながり得るという趣旨の発言だ。産科医療補償制度の運営委員会の委員を務める、全日本病院協会常任理事の飯田修平氏も、「目的と中身がかなりずれている。目的を設定しても、途中で中身がずれてくることもある。原因分析報告書は、医療の質向上には役立っているが、中澤氏が指摘した懸念もある」と支持。

 これに対し、加藤氏は「それは事実誤認。産科医療補償制度が、過失か無過失かを反対する仕組みであるとは誰も考えていない。医療安全にとって大変重要な営みである」と反論。産科医療補償制度運営委員会の委員である宮沢氏も、本制度の準備段階で議論になったものの、「過失の有無は判定をせず、医学的な側面だけの検討を行うことにした。法的な責任を問うことは一切、やらない」と説明。産科医療補償制度運営委員会の委員の間でも認識の相違が見られた。

  「訴えたい」との相談、1999年から5年間がピーク

 14日の会議では、そのほか、NPO法人ささえあい医療人権センターCOML理事長である、山口育子氏へのヒアリングも行われた。

 COMLは、1990年9月に患者・家族からの電話相談を開始。特に、1999年から約5年間、「医療不信」のピークに達し、「訴えたい」「納得いかない」との相談が急増した。現在は、法的解決を求める相談はかなり減少したが、それでも相談のメーンは、「医療者への苦情」。

 「納得いかない」と訴える場合、相談者の要求は、(1)真実を知りたい、(2)医療者に非があるなら謝罪してほしい、(3)賠償してほしい、(4)処分してほしい(免許取り消しなど)、(5)再発防止、に分けることができるという。山口氏は、「納得いかない」結果に陥った場合に、実際に何が起きたのかを知りたいと考えても、現在は知り合いに協力してくれる医療者がいる場合を除いては、弁護士を介して第三者の意見を求めるしかないのが現状であると指摘。このような場合に、調査などを行う第三者機関が必要だとした。ただその際、「納得いかないという相談者は、その人が期待する回答が得られなければさらに不信感が増す」という難しさもあり、医療機関と患者の間に入り、コーディネートする役割なども必要になるという考えを述べた。

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6/14号 延命中止、「医師免責すべき」が7割
2012年06月14日 (m3ポイントとは)

 超党派の議連、「尊厳死法制化を考える議員連盟」が6月6日の総会で、「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」について、二つの案を公表したのを受け、m3.com意識調査では、尊厳死についてお聞きしました(『延命措置の「中止」でも医師免責』を参照)。

 二つの案は、終末期にある患者の「延命措置」の「不開始」(開始しない)のみを対象とするか、「中止」も対象とするかの相違。いずれも、一定の条件を満たした場合に、延命措置の「不開始」あるいは「中止」を行った医師を免責するとしています。

 延命措置について日常診療で困る場面を聞いたところ、最も多かったのは、「不開始と中止のいずれも」という回答で、医師会員の場合は38%(Q1、詳細な結果はこちら)。また、その対象患者も、「救急の患者と、末期がんなどの患者のいずれも」が多いという結果です(Q2)。

 議連の尊厳死法案は、「患者の書面による同意」により対応した場合に、医師を免責するとしていますが、今回の回答では、「患者と家族の書面による同意」を必要とする回答が最も多く、医師会員の53%、医師以外の会員の60%に上りました(Q3)。

 では患者の同意をはじめ、一定の条件を満たした延命措置の「不開始」あるいは「中止」の場合に、医師を免責(刑事、民事、行政責任を問わない)すべきか。医師会員では71%が「免責すべき」と回答したのに対し、医師以外の会員でも「免責すべき」との回答が多かったものの、47%にとどまり、両者の回答にやや相違が見られる結果に(Q4)。

 もっとも、医師を免責するか否かを問わず、延命措置に関するルールの何らかの法制化が必要と考える人は、医師会員、医師以外の会員いずれも7割を超えています(Q5)。「人工呼吸器外し」などが問題視され、ニュースとして時々報道される中、終末期医療における延命措置について医療者が安心できる環境作りが求められています。

 さて、今週は趣向を変えて、「医療者のIT生活」をテーマにお聞きします。