「家庭教育支援条例案」の不適切表現に、学会が見解示す

2012年5月30日 日本小児神経学会 カテゴリ: 小児科疾患・精神科疾患・神経内科疾患

 日本小児神経学会の大野耕策理事長は、「大阪維新の会・大阪市会議員団が提案した『家庭教育支援条例案』には認めがたい内容が含まれる」との見解を5月25日付けで公表した。

 学会が問題視したのは、発達障害と愛着、子育てに関する第15条と第18条の表現。第15条の「乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害またはそれに似た症状を誘発する」、第18条の「わが国の伝統的子育てによって発達障害は予防、防止できる」といった表現は条文として不適切と指摘している。学会は、乳幼児期の愛着形成の重要性は認めながらも、「発達障害は子育てが原因」との誤解を与えかねないとの考え方を示した。

 なお、この条例案は患者家族や専門家などからの反発を受け、5月7日に撤回されている。大野氏は、「今回の問題は、発達障害に対する誤った考えが社会に蔓延している現状を浮き彫りにした。政治に携わる人は発達障害に関する科学的な知識や考え方を学んでほしい。条例案の撤回後ではあるものの、あえて学会として提言した」と強調した。

【関連リンク】
発達障害を正しく理解するために―大阪維新の会・大阪市会議員団が提案した「家庭教育支援条例案」に関する日本小児神経学会の見解―

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発達障害を正しく理解するために
―大阪維新の会・大阪市会議員団が提案した「家庭教育支援条例案」に関する
日本小児神経学会の見解―

 日本小児神経学会は、発育期に神経系の障害をおこす疾患を専門的に診療・研究し、日常診療では多くの発達障害のある子どもたちと家族を支援している学術団体として、2012年5月1日大阪維新の会・大阪市会議員団が提案を予定していた「家庭教育支援条例」案は、認めがたい条例案であると考えます。

 特に、発達障害と愛着・子育ての関連に関する表現について大きな問題があると考えます。第15条の表現の中に、「乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害の大きな要因である」と解釈できる部分があります。発達障害の多くは、生来の要因が関係しているものです。乳幼児期の愛着形成の状況が発達障害の状態に影響することはあり得ますので、愛着形成が大切であることはいうまでもありませ ん。しかし、育った環境の影響だけで発達障害が生じると受け取れる表現は条例として適切なものとは思われません。また、第18条の表現では、「伝統的子育てで発達障害が予防できる」と解釈できます。この表現は、第 15条と同様に「発達障害は子育てが原因で生じている」との誤解を与えかねず、発達障害のある子どもたちを育てている保護者の方々をさらに厳しい状況へと追い込むことになりかねません。また、「伝統的子育て」の表現も曖昧なものと考えます。

 大阪市の議員条例案は、ご家族、専門家などからの同様の批判により5月7日に撤回されました。しかし、今回の条例案問題からは、発達障害に対する誤った考えが通用している社会状況が示唆されます。今後、同様の混乱が生じないよう、政治に携わる方々には発達障害に関する科学的で適切な知識や考え方を是非とも学んでいただきたいと考え、条例案撤回後のこの時点ではありますが、あえて提言させていただく次第です。

 日本小児神経学会は、発育期に神経系に障害をおこす疾患の診療や研究を通じて、また、身近な専門的相談役として、発達障害のある子どもたちとご家族をこれからも支援し続けていくとともに、子どもたちと家族を支援できる専門家の養成を続けていく所存です。

 2012年5月25日 


一般社団法人 日本小児神経学会
理事長 大野耕策