レポート
「番号制度シンポジウム in 東京」、全47都道府県での開催スタート

2011年5月30日 橋本佳子(m3.com編集長)


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 政府の「番号制度創設推進本部」による、「番号制度に関する全国リレーシンポジウム」の第一弾が、一般から募集した参加者を集めて5月29日、東京都内で開催された。今後、2年間かけて全国47都道府県でシンポジウムを開催する。

 シンポジウムの冒頭の挨拶で、社会保障・税一体改革担当大臣の与謝野馨氏は、1980年代半ばのグリーンカード導入の失敗や、住民基本台帳などを挙げ、「長い間、受給者あるいは役所などの立場から、社会保障番号の必要性が指摘されてきたが、様々な政治的な難所や個人情報保護などの問題があり、なかなか実現しなかった。しかし、現在は番号制度導入に向けた作業が進んでおり、夢のようであり、革命的」と述べ、その上で、「今秋には、番号制度に関する法案を国会に提出したい。シンポジウムを通じて、国民の理解を得るとともに、国民の目から見てこの制度がどうあるべきかについて意見を聞いていく」と意気込みを語った。


シンポジウムの冒頭で挨拶する、社会保障・税一体改革担当大臣の与謝野馨氏。

 基調講演をした国際公共政策研究センター理事長の田中直樹氏は、「番号制度がないために、実効性のある政策が難しい状況にある」と指摘、医療費の効率的利用、東日本大震災などでの活用例を挙げ、番号制度推進の必要性を強調した。続いて行われたパネルディスカッションでも、パネリストは、制度設計の詳細は異なるものの、異口同音に番号制度導入を支持。

 もっとも、一般参加者からは、「共通番号制度の導入のコストと期間はどの程度か。行政の削減コストとのバランスが取れていることが証明されないと導入は難しいのではないか」、「本当にメリットがあるのか。医療や介護などの自己負担を総合合算して上限を設定する制度を導入し、過度な負担にならないようにするとしているが、これは逆の使い方、例えば医療費の管理などに使用することもできるのではないか」など、様々な懸念も呈せられた。菅直人首相は5月25日の「社会保障改革に関する集中検討会議」で、「安心3本柱」を提示、その一つとして自己負担の「合算上限制度」の導入を掲げている。

 番号制度創設推進本部事務局長で内閣官房参与の峰崎直樹氏は、最初の質問に対しては、情報のセキュリティー面など、システムの概要により必要なコストは異なるため、現時点では把握が難しいとし、「導入コストは数千億円」と曖昧な回答にとどまった。また、「ドイツでは法案成立から番号制度導入まで4年近くかかった。日本では現在、2015年1月以降の開始を予定している。もっと早くできないかとの声もあるが、拙速は避けたい」と説明。また後者の質問については、「『逆に使う』かどうかは、番号制度のシステムの問題ではなく、政府が社会保障を充実させるかどうか、その考え方による。したがって、国民が選ぶ政府の価値感による」との考えを示した。

【パネルディスカッション】
パネリスト
田中直樹氏(国際公共政策研究センター理事長)
遠藤紘一氏(経団連電子行政推進委員会電子行政推進部会長、リコージャパン代表取締役会長執行役員)
古賀伸明氏(連合会長)
森外志広氏(日本税理士会連合会情報システム委員会副委員長)
峰崎直樹氏(番号制度創設推進本部事務局長、内閣官房参与)
コーディネーター
須藤修氏(わたくたち生活者のための「共通番号」推進協議会主査、東京大学大学院教授)

 「切れ味のいい医療保険制度の設計必要」、田中氏

 番号制度については、政府・与党社会保障改革検討本部が2011年1月31日にまとめた「社会保障・番号制度に関わる番号制度についての基本方針」で、国民一人ひとりに番号を付与し、医療・介護・年金のほか、税務分野も含め様々な場面で活用できる番号制度の創設を提言(基本方針や検討経緯は、内閣官房のホームページに掲載)。2011年秋以降、可能な限り早期に関係法案を国会に提出、2014年6月に番号の交付を開始、2015年1月以降の活用開始を目指すことが打ち出された。その後、4月28日に、「社会保障・税番号要綱」がまとまり、この6月には、「社会保障・税番号大綱」が公表される予定。


シンポジウムは日本学術会議の講堂で開催。定員300人の会場は、一般参加者などで7割程度埋まっていた。

 シンポジウムでは、まず田中氏が基調講演を約40分間行い、その後、パネルディスカッションが約50分、一般参加者との質疑・応答という形で展開された。

 国際公共政策研究センターでは2010年7月、政策提言「共通番号制度の早期実現に向けて」を公表している(同センターのホームページを参照)。田中氏は、「番号制度は、自己統治の観点から導入すべき」と指摘。これは、自己情報は自ら管理すべきものであり、国民が自ら番号を持ち、それを使いこなすことにより、統治をするという考え方。この場合、個人情報保護を前提に、国が個々人に代わり、番号の付与を行う。

 「一人ひとりが番号を持っていないことによる弊害は明らか。番号制度がなかったために、社会インフラが整備されていない」と田中氏は指摘する。例として挙げたのは、今回の東日本大震災。「番号があれば、カルテ等が流されても病歴、投薬内容などを把握することができた」(田中氏)。

 さらに、田中氏は、医療の効率的給付のためにも、番号制度の必要性を強調した。「国の予算の約半分は社会保障関連。少し前までは公共事業が歳出合理化の対象だったが、そう多くは合理化の余地は残っていない。けじめの効いた、切れ味のいい医療保険制度を設計しないと、非常に厳しい状況になる」。こう述べた田中氏は、政府の「社会保障に関する集中検討会議」で、外来患者に100円などの定額負担を求める議論があることを支持、「風邪などで受診する場合と、いざという時に頼れる医療保険制度とは切り離した方がいいのではないか」との考えを示した。


国際公共政策研究センター理事長の田中直樹氏は、「番号制度がないために、社会インフラが整備されていない」と指摘。

番号制度のメリットや個人情報保護が問題

 パネルディスカッションで、議論されたテーマの一つが、番号制度のメリット。年金分野について、峰崎氏は、年金制度の信頼性向上のため、さらには現在民主党政権が導入を検討している最低保障年金の実施には、所得捕捉などが必要なことから、番号制度が必要だとした。さらに、「現行の社会保障制度は、権利を主張しないと、権利が発生しない“申請主義”。番号制度を導入すれば、行政が情報を把握することにより、“プッシュ型”のサービスが可能になる」(峰崎氏)こともメリットとして挙げた。また、前述の「合算上限制度」については、自己負担の軽減になるとした。

 さらに、4月の「社会保障・税番号要綱」では、東日本大震災を受け、「大災害時における真に手を差し伸べるべき者に対する積極的な支援」が加わった。その具体的な内容は、6月の「社会保障・税番号大綱」に盛り込む予定だと峰崎氏は説明。災害対策における番号制度の活用は、前述のように田中氏なども言及したが、一般参加者からは、「番号制度は、脆弱なシステムではないか」との指摘もあった。現在検討されている番号制度は、医療をはじめ各分野で使う番号は個別のものを使用、それを「紐付け可能」になるよう、連携できる仕組みを想定している。この指摘に対し、峰崎氏は、「バックアップをいかに行うかの問題」であると答えた。

 そのほか、国に情報を管理されることへの懸念から、田中氏の「自己統治」についての質問もあった。「自己統治の実現の観点からすれば、『自分には番号を付与してもらわなくてもいい』という立場もあっていいのではないか」という内容だ。これに対し、田中氏は、「付番に対して、不安を持つ人はある程度の比率で生じる。まず全員に番号を付与し、どうしても気になる、嫌だと言う人については、カギを開ける時(番号を使う時)は立ち会うような仕組みにすればいいのではないか」と回答。峰崎氏も、「国民全員に番号を付与することが必要。国民が自己の情報がどんな形で管理されているか、それをコントロールできる形にすればいい。もし番号制度がなければ、自己情報がどんな形で使われているのか、ということも把握ができない」とし、あくまで全国民に付与することが番号制度の前提であるとした。

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