一般医療ニュース
2011年4月4日 提供:共同通信社

 東日本大震災の避難所の多くで、入浴できない不衛生な状態の生活が続き、被災者を悩ませている。水道復旧の見通しが立たず、感染症が広がる懸念が強まっており、専門家は「少しでも清潔に過ごせる環境を」と呼び掛けている。

 「一回もお風呂に入っていない」。水道が復旧していない宮城県気仙沼市の離島・大島。被災から3週間が過ぎてもこんな声が後を絶たない。

 市職員の熊谷正明(くまがい・まさあき)さん(48)は「手や体を拭くウエットティッシュもほとんどない。市内への急患搬送用の船も焼失しているため、感染症の防止が一番の懸案」と言う。沖合に止めた自衛隊の船までヘリコプターで送迎し、風呂に入れるサービスも始まったが、ごく一部にとどまる。

 感染症対策が専門の松本哲哉(まつもと・てつや)・東京医大教授によると、入浴の回数が減り体温が下がると免疫力が低下し、感染症が悪化しやすい。高齢者は特に注意が必要という。「避難所のように多くの人が生活する場所では、雑菌に触れる機会が増える。皮膚に付いた菌を洗い流す点でも、入浴は効果的だ」と話す。

 800人近くが避難する宮城県女川町の総合体育館では、被災から10日が過ぎたころからノロウイルスによる感染性胃腸炎が拡大。多いときは1日約30人が吐き気や下痢などの症状を訴え、突然床に吐いてしまう人も多かった。

 4歳の長女と避難生活を続ける主婦(27)は「具合が悪い人をたくさん見かけたし、トイレに吐いたものが残っていたことも」。

 ノロウイルスは飛沫(ひまつ)感染するため、手袋やマスクをした医療スタッフが清掃。町は、手を消毒する速乾性アルコール製剤や嘔吐(おうと)用のポリ袋を館内中に置き、放送で何度も換気を促した。

 今は体育館の手洗いと水洗トイレが使えるようになり、流行は収まっているが、住宅は断水が続き、医療態勢が元に戻るまでには相当な時間がかかる。

 宮城県によると、県全体の水道復旧率は約83%にまで上がった。だが、津波被害が大きかった女川町や石巻市の沿岸地域については「水道管をどこに引くかということから考えなければならない。年単位の時間が必要」と説明する。

 同じく水道復旧のめどが立たない南三陸町の避難所では、巡回診療でマスク配布や消毒液の設置を徹底している。

 避難所で医療コーディネーターを務める町立志津川病院の西沢匡史(にしざわ・まさし)医師(38)は「仮設風呂を作っても深さや風呂の縁の高さに抵抗を感じ、遠慮して入浴しない高齢者が多い」と感じている。清潔さを保つよう勧めるため、高齢者の入浴介助のボランティアを全国から募る考えだ。

http://www.m3.com/news/GENERAL/2011/04/04/134823/?portalId=mailmag&mm=MD110404_XXX&scd=0000336193