立て続けに映画の話です。といっても、あっという間にひと月近く経ってしまいました。
ご紹介するのは、ろう者のクルド人少年ラワンが家族とイラクからイギリスへ亡命し、手話を学んで言葉を獲得する姿を追ったドキュメンタリー『ぼくの名前はラワン』。
劇場公開は1月と少し前ですが、今回はわけあってバリアフリー日本語字幕版を観てきました。
わけあって、というのは、某コミュニティの映画の会のお仲間が、この映画の音声ガイドの台本制作に参加したのです。
どちらかというと音声ガイド目当てで気軽に観に行ったのですが、これがもうすばらしい内容で、ガツンとやられました!
ラワンがイラクで暮らしていくのは難しいと判断した両親は、ラワンの兄と幼い弟を連れて亡命を決意。難民キャンプで過ごしていた時に、ろう者のボランティアの尽力で、ラワンをイギリスの王立ダービーろう学校に通わせる機会を得ます。ラワンにとって、自分以外のろう者はそのボランティアが初めて。さらに学校で、ろう者の先生や生徒たちと出会い、手話を学び、「言葉」を獲得し、自分を表現して他者とコミュニケーションを取れるようになっていく……。
この過程でラワンの表情がどんどん変わっていき、目が輝いて自信に満ちてくるのが、手に取るように分かります。
映画のキャッチコピーにある「僕にとって〈言葉〉は〈自由〉を意味するんだ」が、ストンと腑に落ちました。
お兄ちゃんだけが頼りだったラワンが、「言葉」を習得し、選択する自由を得る。どんどん解き放たれていくラワンを見て、家族も変わっていく。
『ハムネット』もそうですが、私は人が他者との関わりの中で変わっていく様子を見るのが好きなのだと、つくづく思います。
映画の中で、何度かラワンが「自分はBADだと思っていた」と表現するのですが、字幕ではBADを「ポンコツ」と訳していました。(初出は「ポンコツ」の上にBADのルビ。)
「ポンコツ」。
いくらでもキツく訳せるBADという単語を、柔らかめに、でも少年らしさのある言葉で、いいなぁと思いました。
ろう者が多く出る映画なので、いわゆる口話のセリフは少なくて静か。だけど、だからこそ、口話以外で語られる言葉が雄弁で豊かで、ダイレクトに見る者に伝わってくる。
音声ガイドを片耳で聴きながら観る体験も、とても新鮮! セリフと被らないように情景を説明しながら語られていて、字幕に通じるものを感じ、勉強になりました。台本制作にも、がぜん興味が湧いています。
字幕はベテランの杉山緑さん。バリアフリー字幕は戸田紗耶香さん。バリアフリー字幕の監修もつき、さらに音声ガイドの台本を作る人たちもいて、多くの人のおかげでこの上映が実現したことが分かります。
今回お邪魔した映画館はシネマ・チュプキ・タバタという小さな映画館。日本初のユニバーサルシアターで、あらゆる人が映画を楽しめるよう創られています。全席に音声ガイド用のイヤホンジャックがあり、車いすスペースや親子鑑賞室も設置。20席のアットホームな雰囲気で観る映画は、格別でした。
映画のあとは谷中銀座のほうまで足を延ばして昼飲み! これまた最高♡
ちょっと遠いけど、お気に入りの映画館になりそうです。