松浦弥太郎さんの

サンマーク文庫


軽くなる生き方



正直であること、感情をむき出しにすることも、大いに照れる。
「暮しの手帖」のなかで、僕は折に触れて仕事の方針や理念について話をするが、格好いいスローガンだけ並べても意味がない。


価値観や基本的な考え方を共用したいという根幹に話題がおよぶと、
「なんとかしてわかってほしい」
という気持ちが洪水みたいにあふれてきて、
思わず話しながら涙してしまうこともある。


大人が泣きながら話すなんて、はたから見れば滑稽で恥ずかしいことかもしれない。


だが、生身で真摯に対峙する自分の姿に照れてしまったら、言いたいことなんて、なに一つ相手に伝わらない。
自分の正直な考えについて、感情を押し殺して話すのは不可能だ。


生まれて初めて恋をした相手のことを、思い出してほしい。
気持ちのありったけを伝えようとする姿は、他人事として見れば、ぶざまで照れくさく、恥ずかしいものだったかもしれない。


だが、クールな告白をメールで打っていたら、愛する気持ちなんて伝えられないのではないか。


自分の真剣さに照れず、愛することにひるまず、恥ずかしさを乗り越えてこそ、思いは伝わる。


本当に恋をしたことがある人であれば、その姿を
「滑稽だ」
なんて思わない。
あたふたする姿を
「子どもっぽい」
なんて笑わない。


仕事でもこれは同じだろう。
そして初恋に限らず、すべての人に対して照れくささを超えた愛を示せば、世界はもっと楽しくなる。


だから、僕は照れくささをごくりとのみ込み、
今日も「恥ずかしいふるまい」
をしようと決めている。


スキップしながら、仕事をしよう。


勇気をもって、恥ずかしいことをしよう。


照れくささを胸に秘めた格好悪い姿は、そうそう捨てたもんじゃない。








ここの部分は
何回読んでも素敵です。