トリイ大津わにセンターにお通いの生徒様から心に沁みるお話をうかがいました。

クラシックギター教室にお通いの男性の生徒様です。

 

 

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92歳の兄が他界した。
葬式に向かう車中で兄との記憶がよみがえる。


 

 


兄は、音楽をたしなむ人ではなかった。
ただ「同期の桜」は大好きで、よく歌っていたものだった。


兄の娘は3人いて、それぞれに家族を持っている。
葬式後、久しぶりに顔を合わせた親族はそれ相応の人数だった。




位牌の傍らに、ハーモニカが置いてあるのを見つけた。


「これは兄のハーモニカですか?」


兄は音楽をするような人ではなかった。ましてやハーモニカが晩年の趣味だとは考えにくかった。


「肺が弱っていたので、医者にハーモニカをすすめられたようです。真面目な父だったので毎日かかさず吹いていました。」


棺桶に一緒に入れてあげようとしたが金属だからと断られ、兄とはともに逝けなかったようだ。


私は、ふいにそれを手にした。


ギターを習っているし、ハーモニカも子供の頃にやったので、なぜか、なんとなく吹けそうな気がしたのだ。


「同期の桜」を吹いてみたら、どうにか最後まで鳴らすことができた。ほっとした。




 

 

気が付くと、式の最後まで気丈にふるまっていた兄の娘たちが、ボロボロと涙をこぼし、おいおいと声をあげ泣いていた。
それをみて、親族が皆泣いた。私も泣いた。



私のつたないハーモニカで、心を揺さぶられたのだろうか。兄への想いがあふれ出たのだろうか。



私は、一緒に泣きながら、同時に音楽の力はすごいものだなと感じざるを得なかった。