著者：小川糸

内容：ラブレター、絶縁状、天国からの手紙…。鎌倉で代書屋を営む鳩子の元には、今日も風変わりな依頼が舞い込む。伝えられなかった大切な人への想い。あなたに代わって、お届けします。（「BOOK」データベースより）

　小川糸さんの作品は初めて読みました。人気作家さんだと思いますね。代表作もたくさんありますし、割と実写化もされているのが多い印象も受けます。こちらの作品もまた、ドラマ化されているみたいですね。ドラマの方は見た事がありませんけども。自分は正直、良さがよくわからなかった口であります。と言うのも、まあ、はっきり言いまして、「子供騙し」という印象を抱いてしまいました。内容紹介の通り、「代書屋」を営む鳩子という女性が主人公でありますが、この「代書屋」という職業の実情が、果たしてどこまでリアリティがあるのか、疑問であります。どうも、この小説を読んでいますと、この店が流行っているようには思えないんですよね。そもそも、まあ今のご時世、「代書屋」という仕事のニーズが相当限られてきているというのは、何となく想像が誰でも付くと思うんですよね。実際そうであると、小説の中でも語られています。しかし、主人公が生活に困っていたり、あるいは悩んでいるような素振りがほとんどない。寧ろ、その辺の心配は特になさそうなくらいなわけですね。とあるお客さんには、「代金は今度通りがかった時で結構です」なんて感じで、驚きの人情味っぷりを発揮していますし笑。ですから、どこまでがガチで、どこまでが嘘なのか、いまいちわからない世界観なんですよね。その辺が非常に自分は気になります。結構この、「リアリティ」という点において、自分はこの作品は詰めが甘いのではないかと思いましたね。

　例えば、主人公の店の隣に住むバーバラ婦人と呼ばれる人物が現れますが、彼女も最後の最後まで何者なのかよくわかりませんでした。彼女もまた何を仕事にしているのか、あるいはどうやって生活しているのかわからない。その割に、よく外国へ旅行へ行ったり、恋人も絶えない生活をしているとか。また、「パンティー」という綽名が付けられた女性教師も登場しますけども、この綽名も如何なものかと笑。いや、小説の中ではあくまで「ギャグ」として描いているとは思いますが、普通に考えて失礼だと思いますよね笑。でも、当の本人も「まあ、別に」といった風で特に気にしていないわけです笑。何と言いますか、これらの登場人物らの「リアリティ」というのが大きく欠けていると思います。あくまでこれは作者の想像の中でできた人物だとは思いますけども、実際にいるように思わせるという努力は怠っているのではないでしょうか。考え付いたキャラクターをそのまま登場させているだけ。まず、この時点で「子供騙し」ではないかと。一事が万事、都合のいい世界観で成り立っていると思います。主人公にとって都合よく世界が回っている。つまり、これと言った「葛藤」や「障害」がそれほど用意されていないわけですね。となると、普通に考えてどこで面白がればいいのか不明なんですよね笑。まあ、例えば「手紙」に纏わるルールや文化、雑学が色々と書かれた本になっておりますので、ちょっとその、お勉強にはなるとは思いますよ。それこそ、今となっては知らない人も大勢いるでしょうし、確かに自分も「へぇ、そうなんだ」と為になる部分はありました。でも、小説自体が、あまり楽しめない笑。

　また、この小説の特徴として、実際の作中の「手紙」がそのまま見せられるという手法を取っていました。ですからそこだけ、字も手書きのようになって、「これが、実際の手紙です」と言うかの如く、見せられるわけですね。まあこれも、確かにわかり易いと言えばわかり易いです。それこそ、書いた本人の字面が目で見てわかるわけですし、仕掛けとしては個性と言って良いと思いますね。ただこれも、意地悪な言い方をすれば、狡い手法にも感じられます笑。本来、この作品が小説なのですから、やっぱり「どういった字面なのか」とか、そういう描写こそ、「文章」で描き上げるべきなのではないかなと。皮肉にもこの小説がその「文章」や「字」についてプロ意識を持つ「代書屋」というものを描いている小説なわけですから、尚更、作者自身が「文章」で描き上げるべきのような気がします。そうでなければ、格好がつかないと言いましょうかね。作者自身がそもそも「文章」へどれくらいの信頼度を置いているのかという、その疑問にすら繋がってきてしまいます。「字を読むより、目で見た方が早いでしょ？」と小説家に言われてしまったら、それほど悲しい話もないと思いますがね笑。さらに言えば、妙にこの小説に蔓延っている、謎の「潔癖」も気になりますね。主人公の出生の話なんかは、何故か煙に巻いている感じがありますし、何故そこまで触れようとしないのかが、よくわからない。主人公には母親はおらず、祖母に育てられたという設定がありますけども、まあこのバックボーンが主人公にとって暗いものなのかもしれません。ただ、その描きたくないリアルや、見せたくないリアルというのを、描いてあげてこそ、作家だと思うんですがね。それほどまでに男女の関係性というのは、汚らしいものでしょうか。結局、最初から最後まで、漂白された世界観なんですよね。都合のいいイメージや理屈だけでまとめあげてしまって、都合が悪い情報やイメージは極力、描かないという。何だか、作品全体の信頼度に影響を及ぼす作りだと思うんです。

　まあ、表面だけ見れば、確かに優しい物語でありまして、如何にもハートウォーミングで牧歌的な世界に映る事でしょう。しかし、実際はこうではないですよね。本当に「代書屋」を営んでいたり、あるいはそれに近い事を生業としている人がこれを読むと、「まあ、所詮は作り話ですから…」と、そういったリアクションになるのではないでしょうか。もちろん、全てが何でもかんでもリアルであったり、事実に基づく必要は無いかもしれませんが、人物描写の何から何まで曖昧でありますし、尚且つ、都合がいいように話が進む始末で、正直どうでもよくなってきてしまう自分がいました笑。まあ、「現実逃避」をしたい人は、これくらいのが丁度良いのでしょうかね。

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