ICUにいる旦那。
手術後もお互いマスクはしたままだ。
身震いはおさまらない。
見るに見かねて看護婦に声をかける。
「もうすぐ温かくなりますので」
まだあだ名を持たない看護婦は言った。
ちなみに彼女はおかっぱヘアーだ。
旦那はミノムシのように布団に包まれている。
触れる場所はどこかないかと視線をゆっくり下に動かすと足がちょこんと出ていた。
しかも謎の白い靴下を履かされている。
たぶん手術後の着圧ソックスだろう。
後日、着圧ソックスは飛行機に乗る際エコノミー症候群を防ぐのに便利ですと渡された。
飛行機で長距離旅行ができるのはいつになるのだろうか。
布団から顔を出した足を手のひらで覆うがマッサージはよくなのでは、と思いとどまる。
髪をかきあげおでこを撫でながら彼を見つめる。
お腹を15cmも切ったのだ。ましてや小腸を1.5m切り吻合(ふんごう)した身。
しばらく痛みはあるだろうなと思いを巡らせていると
「キュルルルル」
小さい音だが確かにお腹が鳴った。
かわいい音だ。
あんな大手術を終えたばかりなのに内臓は一生懸命に動いているんだ。
よかった。
生きてて。
「奥さんそろそろ」
おかっぱ看護婦からの帰宅合図だ。
「はい」と返事はするものの、なかなかそこを離れることができなかった。