家族待合室にはテレビがあった。

有料だった。

無料でも見る気にならない。

ソファーに座る気にもなれない。

そうだ電話をしなければと家族に電話を入れる。

こんな時でも予約していた焼肉屋にキャンセルの電話。

シリアスにもなりたくないがサクサクとやるべき現実を思い出す自分にも少々複雑な心境だ。

焼肉はしばらく食べに行けないだろうな。

「基本何を食べても大丈夫ですね、なんなら明日焼肉でも問題ないですよ」

退院する時にこんな度肝を抜く事をマツエクに言われるとはこの時は知るよしもなかった。

誰もいない部屋をひとりウロウロする。

漫画や雑誌、小説などが並んでる。
「新型コロナ 第2波は来ない」
そんな本も置いてあった。

「あら、暖房付いてないですね。寒かったんじゃないですか」

桜餅のような柔らかい雰囲気の看護婦が声をかけてきた。

入院に必要な説明と患者の病歴などを記入するために不可欠な書類の作成だ。

入院同意書には第三者の同意も必要になる。

名前、住所、職業欄に記入しハンコを押さねばならない。サインではダメだ。

コロナ禍で気軽に会いに行けぬ今、郵送で送るのも相手に手間をかける。

ただでさえ心穏やかではないのに。

なんといういらないストレス。

ハンコはスピード廃止するとドヤ顔で政治家太郎が言っていたではないか。

しかしハンコ文化は嫌いではない。

サインとハンコの併用可能な条例を失敗恐れず出してくれ。

そんなことをブツクサ心の中でボヤきながら次の質問に答える。

「旦那さんはどんな性格ですか?好きなものはなんですか?」

そんな事まで聞くのかイマドキの入院時。

性格を改めて聞かれると考えてしまう。

言葉を慎重に選ぶ。

さすがにお尻好きだとは言える筈があるまい。