生きている人間の内臓が腐るなんて

そんなバカなことがあるのかとタカを括っていた・・・

腐っていた。

いや腐りかけていた。

血流がねじれた腸のその部分に滞り、流れが止まり内臓が腐り始めてしまうのだ。

絞扼性(こうやくせい)イレウスだった。

「1.5m切りました」

い、いってん
ごめーとる。

1.5mって

1m50cmって

150cmって

小柄女性の身長ではないか。
そんなに切って大丈夫なんだろうか。

マツエクが膿盆と呼ばれるそら豆のような形をしたトレイを持ってオペ室からさっそうと出てきた。

「小腸の全長は5mくらいありました。なので3分の1ほど切ったことになりますね」

プラスチック製の白いそら豆を左手に持ち丁寧に説明し始める。

「やっぱり腐りかけていましたね。んーほぼ腐っていたかな」

腐りかけと腐っているとでは心の持ちようが違う。

「5段階が腐りmaxだとすると、これは何段階ですか」

私は腐りかけ目安にこだわった。

いったいどれくらい腐っている内臓と戦っていたのか知りたかったのだ。

「4段階くらいかな。5かな、4かな」

マツエクもまさかの5段階評価で要請されるとは思いもよらなかっただろう。
しかし真摯に答えようとしていた。

小さく縮んだ小腸はそら豆の中に収まっている。

綺麗なガーゼがふわりとかぶさって。

隙間から見えるそれはまるでシマチョウ。

コロナ禍でマスクをしていてもその匂いを感じた。

旦那のシマチョウは腐った肉の匂いというよりも

むしろカレーの匂いがした。