17時11分
「急な腹痛でいま救急車。
病院に行くけど心配しないで」

17時12分
「やっぱり病院に来て」とLINEが届く。

「ええええ」

いったいなにが起きたんだと心がザワつく。

タオルと歯ブラシを念のため用意し指定された病院へ向かう。

ただの腹痛。
きっとケロッと治っているに違いない。

やきもきする気持ちを抑え案内された救急救命センターへ。

待ちに待ったご対面だ。

しかしそこには点滴の管につながれ苦しそうに痛がり、起きては寝て、寝ては起きてを繰り返している旦那がうずくまっていた。

誰もがその姿を見てただ事ではないと感じるであろう。

が、現実とは思えず実感が湧いてこない。

手術歴なし

持病なし

大きな病気なし

異常なしのこの男の痛々しい姿がしっくりこないのだ。

しかし吐き気は収まらない。

みるみる手が冷たくなっていく。

私のぼやけた思考がこれは現実なんだぞと鞭を打つ。

「ご家族の方ですか?」

ハッと振り向くと一目瞭然。

マツ毛エクステ命の女医が立っていた。

「これから緊急手術になりますね」

マツエク女医がスラスラと話し始める。

手術前の説明だ。

手術の危険性、合併症や輸血など、手術に関する大切な説明だ。

しかしマツエク女医の目やにが黒い。

太くぼやけたアイライン。

そこから流れて黒く染まった黒い目やに。

圧倒的な存在。

気になってじっと見てしまう。

いかん。

いかん、と自分を厳重注意し120%の全集中を注ぐ。

腹腔鏡ではできない。
この場合、開けてみないとわからない。

開腹手術で小腸を切る。
その場合、腸管が腐っているかもしれない。
マツエク女医の説明は15分ほど。

壊死することなんてあるのか。

信じられない。

壊死という言葉は知っている。

マツエク女医は壊死というワードは使わない。

「腐っているかも」と何度も言っていた。