
ベジータは待っていた。
北の高地で。
約束の時間ははるかに過ぎていたが
例の男はいつまでたっても現れなかった。
ベジータは腕を組み指先を小刻みに動かしてはいたが
その動作にも飽きたのかとつぜんとびあがると
周囲の岩山をぼこばこと殴り始めた。
「くっそぉー、
何で俺様があいつを待たないといけないんだ!
俺は戦闘民族サイヤ人の王子
ベジータだぞー!」
そうだ。
彼は王子である。
いくつになっても王子である。
誇り高いサイヤ人の王子である。
子どもがどんなに大きくなっても
実年齢がおっさんになっていても王子である。
「パパ。そのユニフォームはやめてよ。」
ふとでがけに言われた娘の一言が思い出された。
「・・・ユ・ユニフォームだと?」
ベジータは思わず娘の顔をみた。
「そうよ。
その青い総タイツ。
それってダサいと思う。」
「な、なにおっ」
「今コスプレにいってもそんなかっこした奴いないわ。
今のヒーローもっとファッショナブルなのよ。
青いタイツに白いブーツと手袋なんて
歯磨きチューブじゃあるまいし。」
思い出すとどんどん腹が立ってくる。
これがトランクスなら、いや悟飯なら
地球の裏側までぶっ飛ばすベジータだが
なぜか娘には返す言葉がないのだった。
この肉体美があるからこそ
この戦闘服は着こなせるんだ。
なぜそれがわからん・・・・!!
「よぉっ、ベジータ♪」
「貴、貴様!」
後ろにとつぜん奴の気配。
グッドタイミングX100!
ベジータはまってましたとばかり
ふっとからだの向きを変えると
大きな一発をカカロットの腹に打ち込んだ。
「いてててて!」
「き、貴様、待たせやがって!
おそいじゃないか!」
「ひでーな、ベジータ。」
「悪いのは貴様だ。
俺をこんなに待たせるなんて
貴様どういう了見だ!」
「なんだよ。
1時間遅れただけじゃねえか。」
「貴様時計のみかたもわからんのか!
目を開けてしっかり見ろ。」
「・・・っておめえがいきなり殴るから
壊れちゃったぜ。
またチチに怒られる。」
「はっは!
ざまあみろ」
カカロットは普段の胴着姿であった。
「わリィ、
ちっと腹減っちまっててよ。」
「腹がへってただと?
それが遅れた理由か?
まさか飯を食ってたというのか?
おれさまがきっちり時間通りに
ここに来ていたというのに!!」
「だってさ。
チチの飯はうめえから
…ついな。」
良く見れば道着の胸の辺りに
無数の米粒がついている。
…がきか、こいつは!
無性にむかつくベジータであった。
「何杯食ってたんだ?」
「え」
「飯だ」
カカロットは指を折りながら数えるふりをした。
「…わかんねえ!」
「やっぱり貴様はくそやろうだ。」
「おめえにかかった誰だってくそやろうだぜ。」
カカロットはげらげら笑った。
ベジータはいらいらしながら手を出した。
「…さっさと渡せ。」
「え?」
「例のものだ」
「あ」
カカロットは一瞬目を白黒した。
明らかに何か思い出そうとしている様子に見えた。
「まさか忘れたとはいわないだろうな」
「へへ」
「貴、貴様…」
「おっ?」
カカロットはなんだか嬉しそうににやつく。
狙ったわけではないが
どうも期待通りの流れになりそうな気配がした。
「忘れてた!」
その明るい返事にベジータの青筋が反応した。
「まあいいじゃねえか、
わりぃわりぃ」
「このくそったれ!」
ベジータは怒りを爆発させる。
迷わずカカロットの顔面に拳をぶち込んだ。
カカロットはよけなかった。
明らかに色々とさそっている。
「いてて!」
そういいながらなんだか嬉しいカカロットの顔である。
それがベジータの癪にさわりまくる。
「さっさととりにもどりやがれ!」
「なんだよ、せっかくおめえと会えたのに。」
「バカやろう!
用がなければ貴様と会うわけないだろう!」
「なんだよー、酷い言い方だなー」
「きさまの顔なんてみたくない!」
「なんでだよー
あいたかったくせにー」
「かってにきめるな!」
「…ほんとはおめえ、おらのこと好きなんだろう?
一緒にいたいんだろう」
「ば、ば、バカな事を言うんじゃねえっ!」
「ブルマとおらとどっちが好きだ?」
「どういう比較だ!」
「カカロットは俺のものだー!
っていったこともあったじゃねえか?」
「覚えてない!」
「死んだらあの世でおらと会えるかって
ピッコロに聞いたらしいじゃねえか?」
「・・・・・・でまかせだ、ピッコロの。」
一寸赤くなったベジータ。
心当たりがあるらしかった。
「冷たくすんなよ、ベジータ。
おらとおめえは2人っきりの純粋なサイヤ人じゃねえか。」
カカロットはにやりと笑った。
漆黒の瞳。
ベジータは背筋が冷たくなるのを
感じた。
こいつの目は不思議だ。
暖かいかと思ったら
急にこんなに残酷な光を放つ。
こいつの目は
獣の目だ。
俺の魂は
この視線に吸い込まれそうになる。
ベジータは思わず体をカカロットから離した。
全身鳥肌が立っていた。
「俺と闘いたいのか、カカロット。」
「そうだ。」
「…その手には乗らん。
今日の俺はいそがしいんだ。」
「・・・嫌だ」
「くそっ」
「・・・顔が赤いぜ
ベジータ。
おめえは正直だな。」
カカロットの手が伸びる。
「抵抗するならしたらいいさ。
おらは超3にならなくても
おめえに負けないと思うぜ。」
「・・・」
「おめえはおらからはなれられねえさ。」
カカロットは
ベジータの右腕をしっかり絡めとって
その身体を引き寄せようとした。
「やめろ。」
「おめえだってこれを望んでいるはずだ。」
ベジータは抵抗する。
しかしカカロットの力は強く
ベジータはそのまま岩壁に押し付けられた。
背中にごつごつした突起が食い込み
ベジータは眉をしかめた。
「…やめろ、カカロット。」
「やめねえ」
カカロットは唇を少し開くと
それをベジータの首筋に近づけようとした。
ベジータより二周りは大きいたくましい肉体が
ベジータの身体を包み込むように覆い被さってくる。
身動きが取れない。
悔しさのあまりベジータは思わず叫んだ。
「ちっくしょう!」
ベジータはドンという音を立てて超化した。
「貴様という奴はいつもいつもいつもいつも同じ手を使いやがって!
そんな紛らわしい手がいつまでも通じると思うのか!
バカにするなーーーー!!」
ベジータは顔を真っ赤にしてカカロットに気弾を発射した。
「やったー!!!」
カカロットは大喜びである。
「な、な。
やりてえだろ
おらと修行がやりたかったんだろ?
おら、
そんなベジータが大好きなんだ!」
「俺は貴様なんか
大嫌いだ!!」
笑いながら自分も超化したカカロット。
らんらんらんとベジータに立ち向かっていく。
らんらんらんが気に入らなくて
ベジータは更に気を高めた。
「くそったれがー!!」
地響きが響き渡り岩山が崩れる。
砂嵐が舞い起こり熱風が吹き荒れる。
拳と拳のぶつかる鈍い音がこだまする。
光る稲妻
燃える太陽。
然し。
これで良いのか、ベジータ。
最初の用はどうなった。
日もどっぷりくれてしまった。
一面穴ぼこだらけの岩壁。
これ以上壊れないくらいに破壊されていた。
北の高地は静まり返っている。
不気味なくらい静まり返っていた。
そこにやってきたのは悟飯だった。
スーツ姿でなにやら紙袋を抱えていた。
あたりを見回す悟飯。
神経を集中させた悟飯は
めぼしをつけたところに舞い降りた。
「よいしょ」
悟飯は一枚の大岩をめくる。
その下には予想通り
父親とベジータが仲良く瓦礫に埋もれていた。
仲がいいんだろうな、多分。
良く判らないが
そうなんだろうと思うことにしている。
あれから。
悟飯は強くなりたいとは思わなくなった。
平和な世界での悟飯は
家庭をもち仕事もこなす学者である。
だがこの世に戦士はもう必要ないのに
この2人は相変わらず
毎日ぼろぼろになるまで修行している。
外見の若さもさることながら
戦闘民族としての習慣も
悟飯が物心ついたときから
全く変わっていなかった。
「あーあ、もう・・・」
悟飯は埋もれている父親に声をかけた。
「お父さん、晩御飯が出来ましたよ。
それと忘れ物ですよ。」
高いびきをかいていたカカロットであったが
目を覚ましむっくり起き上がる。
「あ、やべえ、
遅くなるとチチが怒るもんなあ」
そして隣で気を失っているベジータの身体を揺さぶった。
「ベジータ、おきろって。」
ベジータはなかなか目をさまさなかった。
「よくねてらあ」
「お父さん、どう見ても気絶してますよ。」
「キスでもすりゃおきるんだけどな。」
「おとうさん、冗談はやめてください。」
「そだな、王子様がキスしておきるのはお姫さまだもんな。」
「なにをいってるんですか、もう。」
悟飯は父親をいさめると
ベジータに近づき耳元でそっとささやいた。
「…ベジータさん。
ほらほら
ブルマさんの誕生日が終わってしまいますよ。」
はっと目を覚ますベジータ。
体の上の岩を跳ね除ける。
「悟飯!
今何時だ!」
「はい。
夜の8時50分ですけど?」
「まずい!
まずいぞ!!」
「・・・はい、ベジータさん。」
悟飯はにっこりと笑うと
ベジータにリボンのかかった大きな包みを渡した。
「ちゃんとビーデルさんに見立ててもらいました
きっと喜んでもらえますよ。」
「初めから悟飯に頼むべきだったな。
ベジータは一言の礼を言うでもなく
当然のごとく
その包みを受け取った。
ガラガラと岩を押しのけてたちあがる。
ひどい砂埃に悟飯はおもわず目をつぶった。
「俺は行くぞ。
カカロット。
貴様にはもう二度と会わん!!」
ベジータはブルマの誕生日に
プレゼントを贈ろうとしたのだった。
生まれながらの王子の彼は
もらうことや横取りすることには慣れているが、
物を贈ることはしたことがない。
それでカカロットに相談したのだ。
カカロットもカカロットで安うけあいしたものの
「やっぱ、わかんねえ」
…だったので結局悟飯に任せたのである。
その上プレゼントを家に忘れてくるというおまけつきであった。
「カカロット・・・
本当に貴様はだめな奴だ。」
ベジータが飛び去ろうとしたとき
悟飯が遠慮がちにそろりと声をかけた。
「あ、あの・・・」
「・・・」
「すみません、ベジータさん。」
「なんだ」
「僕、
そのプレゼントのお金を
立て替えてるんですけど。」
「金か」
「はい、すみません。」
「悪いな。
俺は金など使ったことがない。」
ベジータは答えた。
「誇り高いサイヤ人の王子が財布を持って歩くと思うか?」
固まる悟飯。
その堂々とした答えように
どう反応していいか見当がつかないらしかった。
ベジータはふっと笑うと一言いった。
「代金はブルマに請求しておけ。」
「・・それじゃプレゼントにならないですよ。」
思わずつぶやく
所帯持ちの悟飯であった。
