kiss



一日が終わり
チチは一人ため息をつく
悟飯がピッコロの下に行ってもう10日になる。
チチには何の音沙汰もなかった。
悟天はもうねむっている。
今度起きるのは明け方だ。
少し、楽になった、と思った。
朝までは、自分の時間だ。
チチは、ようやく自分を振り返ることが出来るようになった。

この一年のことを。

自分のことで精一杯だったのかもしれなかった。
悟天のことで精一杯だったのかもしれなかった。
悟飯が余りにいい子だったから、
それに甘えていたのかもしれなかった。
悟飯はピッコロが連れて行った。
またあの時と同じだった。
悟空が、ラディッツに殺されたときと。
チチの心は震える。
冷たい風が吹く。
いずれにせよ、まだ涙は乾いていない。

いくらそれがあふれ出なくても、
チチの胸の奥底には、
深く冷たい涙の
河が流れていた。

なんでオラを一人にするだ・・・。

チチは、サイヤ人を愛したことを間違ったとは思わない。
しかしこの寂しさは埋めようがなかった・・。


チチは、外にでる。
冷たい空気が体を包む。
夜空を見上げる。
このどこかにあの人はいる・・・。
悟空・・・。


「チチ・・・。」

そのとき。
聞き覚えのある声がした。
チチは思わず周りを見回した。

「悟・・・・?」

こうこうと光る月。
それを背景にして一人の男のシルエットが浮かび上がった。

「悟空さ・・・か?」

見覚えのあるその面影。
忘れもしないその瞳。
悟空は黒髪の姿でチチの前に降り立った。

「あいたかった・・・。」
「ほんとに悟空さか・・・」

チチの前にぼんやり浮かぶ淡い姿。
チチの方に手を差し伸べる。
チチは思わず手をつかもうとした。

「あ・・・?」
「すまねぇ・・・」

その手は空を切る。

「おめえを抱いてやりてぇんだが・・・・」
「だめだか・・・・さわれないだか?」

悟空はチチに近寄った。
本来あるはずの肉体は、もうない。
それでも悟空はチチの体を抱こうとした。

「わるかった・・・・オラ、おめぇをひとりにして・・・
ゆるしてくれ。
悟飯の事はピッコロに聞いた。」
「悟空さ・・・」
「おめえは間違ってねえ。
おめえが悟飯を愛しているのはオラが一番判っている。
こんなときにおめえを守れないオラを許してくれ。」
「悟空さ・・・。」

チチも悟空を抱こうとした。
その手はむなしく空を切る。

「すまねえ、すまねえ、チチ・・・」 
「悟空さ・・・もういいだ。」

チチは悟空の頬のあるべきところに手を当てた。

「オラ、こうして会いにきてくれただけで・・・。」
「チチ・・・」

悟空は精神体として現れた。
チチの悲しい心が、悟空を呼んだと言った。

「おめえが好きだ。
この手で抱きてぇ。
抱いてやりてぇ。
あの世に行ってからもおめぇを忘れた事はねえ。
すまない、チチ。」

女なんて、バカだ。
チチは思った。、
苦しかった事も、悲しかった事も大好きな人のたった一言で忘れられる。
悟空さがここにいる。
たとえ、お化けでも幽霊でも。
悟空さは悟空さだ。
たった一人愛した人だ。
子どものときから、ずっと愛していたのだ。
この人のお嫁さんになる事を願って生きてきたのだ。

チチの心に明かりがともった。

・・・オラは、自分の子どもを信じる。
そして守る。
オラはオラのやり方で。

チチ・・・

悟空がささやいた。

悟空さ・・・・感じるだよ。
オラ、悟空さの体温を感じるだよ。
生きていたときよりずっとずっと感じるだよ!

悟空がチチに手を伸ばした。
チチはそれに答えようとした。
悟空がチチを抱きしめた。
チチはそれを間違いなく感じ取ることが出来る。
チチのまとめた髪が・・・解けた。

「悟空さ・・・・幸せだ・・・」
「チチ!!」

悟空が、チチの唇をふさいだ。
激しくチチのそれを求める。
チチも悟空のそれに答えた。
空には満天の星が光る・・・。

死んでしまえば、すべてが終わるのだろうか?
みんな消えてしまうのだろうか?


たとえ肉体が消え去っても、想いは残る。
命が消えても、思い出は裏切らない。
たとえこれがまぼろしであっても、
チチは、悟空との愛情を心のささえにして
多分、これからも、生きていける。

悟飯と、悟天の母として。