
原作では未来での孫悟空は心臓病で死んでしまうという設定になっています。
彼の死から未来の地獄絵が始まりたくさんの悲しみが訪れます。
当サイトの小説は短編が集まってひとつのストーリーとなっており
この小説が「お帰り、悟飯ちゃん」までの未来編のスタートとなります。
人間は何から出来ているのだろう。
血と肉か。
たくさんの水分なのか。
それとも愛と憎しみか。
たくさんの喜びと悲しみか。
人間は何のために生きていくのだろう。
つらい思いをかみ締めながら
どうして生きているのだろう。
たぶん
それは全ての出会いと
別れのために。
出会えて喜び
別れて悲しむそのことのために
たぶん人は生きている。
そしていつか死ぬために
そのときを迎えるために生きていく。
与えられた命を
燃やし尽くし
果てるために
多分人生は
あるのだと。
死ぬことは怖くない。
死は誰にでも平等に訪れるから。
だから
急いで死ぬことはないのだ。
死ぬまでは
生きていく。
しっかり生きていけば
与えられた命を
しっかりと燃やせば
死ぬことなんて怖くない。
生きて死ぬことは
自然の摂理だ。
始まる物は全て終わる。
永遠の命など必要ない。
消え去るから
全ては美しい。
たとえ死が
愛する者たちの世界を引き裂いたとしても
魂は滅びず
命は繰り返す。
思い出は誰かの心で生き続け
清らかな精神は語り継がれるだろう。
ただし
精一杯生きて燃えたなら…だ。
よく晴れたパオズ山の昼下がりである。
お皿を並べる音がにぎやかに聞こえている。
食卓には
とても昼ご飯と思えない量の料理が並び
いい香りがあたりにいっぱい漂っていた。
悟空はそわそわとテーブルの周りを回っている。
グルグルグルグル回っている。
今日はいつもの道着ではなく
短パン一枚という姿であった。
「悟空さ、
ズボンくらいはいてけろ。」
チチが笑いながら声をかける。
「おう…
だけどおら
腹減っちゃってよ。」
チチの後姿を気にしながら
悟空はさっきから
テーブルの上の皿に
手を伸ばしたり引っ込めたりしているのだった。
「ちっとは我慢できねえのけ?」
チチが悟空の方に振り向いた。
思わず手を後ろに回す悟空。
「へへ…」
気まずそうにぽりぽりと鼻の頭をかいた。
「まあいいべ。
しばらく病院食になるんだからな。
先に食っていいべ。
食えるだけ食ってけ。」
「サンキュー、チチ!」
許しの出た悟空はにっこり笑うと
テーブルに勢いよく腰をかけた。
「ああ、いすがこわれるべ!」
「チチの飯はうめえからなあ。
あの世の飯よりうめぇ。
おらしあわせだ!
「バカなこといってんじゃないべ。
あの世なんていうもんじゃねえ。」
「だって、界王様のとこの飯はまずいんだぞ。
チチの飯が一番さあ!」
ニコニコと食事を続ける悟空。
その姿をチチは満足そうに眺めた。
「うめえか…うんうん」
両手に饅頭を持った状態で
悟空は周りを見渡した。
「あ、そういや悟飯は?」
「今塾に行ってるだ。」
「勉強かぁ」
「んだ。
夕方までかえんねえべ。」
「そっか。
塾ってのは楽しいのかなあ?」
「楽しいとかそういう問題じゃないべ。
これからは力だけじゃダメだ。
頭もよくなんねえとだめだべ。」
「そっかあ。」
悟空はため息をついた。
「今日も修行しようと思ってた。」
「修行は昨日一日やったべ。
それよりも勉強が大事だ。」
「…」
それでも次々と食べ物をほおばりながらも
悟空はチチの話を聞いた。
悟飯の将来のことや
この家の壁紙のことや
裏庭の山菜の出来なんかの話を聞いた。
「珍しいな。
悟空さがこんなにおらの話を聞いてくれるなんて。」
「そか?」
チチは悟空の横に腰をかけた。
「おらうれしいだ。
こうしているとまるで新婚のころみてえだべ。」
「そだな」
「悟空さはすぐどっかにいっちゃうから…
おら寂しかった。」
「…すまねえ」
突然悟空はチチの小さい手をとった。
無骨な固い不器用そうな手のひらが
しっかりと手をとった。
「チチ。
おらはおめえを愛している、
どんなときも
どんなことがあってもだ。
それを忘れねえでくれ。」
目を丸くしたチチ。
「どうしただ、悟空さ?」
「どうもしねえさ」
悟空の腕が
チチの体を引き寄せる。
軽々と抱き上げて
自分のひざの上にのせたまま
背後から抱きしめる。
「やだ
昼間っから。
まだそとはあかるいべ。」
「かまわねえさ…
悟飯もいねえんだろ?」
チチは黙って頬を染めた。
悟空はそんなチチの表情を確かめると
彼女のドレスの裾に手を入れた。
チチはまとめていた髪を
そっと解いた。
「ほんとに
悟空さは甘えん坊だな。
そんなに力を入れなくても
おらはここにいるだ。」
チチの長い髪が
悟空の腕にからみつく。
冷たい感触が
悟空の五感を刺激する。
「変な
悟空さだな。
お医者さんが怖いのけ?
入院するってたって検査入院だ。
何も怖いことはないべ。」
「そうじゃねえさ」
「じゃあ飯け?
飯だって何食ってもいいんだから
おらがいくらでも差し入れてやるべ。」
「そりゃいいや」
悟空は満面の笑みを浮かべた。
そして彼はわざと彼女の髪を乱暴に掴み
その小さい顔を自分の方に向けさせた。
「は…悟空さ…」
チチは短い叫びをあげた。
「愛してるぜ、チチ。」
「なにいってんだか」
「…おらがチチをすきだって言ったら変か?」
繰り返す悟空の背中をチチは音を立ててたたいた。
「やだ!
悟空さ、はずかしいべ!!!!!」
「チチ…」
悟空は大きい不器用そうな手のひらで
チチの体を抱き上げると
その体をしっかりしっかり抱きしめた。
「愛してるぜ
…チチ…」
はるかかなたで稲妻が光っている。
ベジータは眠れなかった。
ベッドに入ることも出来ず窓辺にたっていた。
彼の記憶にこびりついた臭い。
その臭いが
ベジータの中のさまざまな記憶の扉を
今まさにこじ開けようとしていた。
死臭。
死を迎える人間の臓物から発せられる
肉の腐った臭い。
それはベジータが今まで
何度も何度も嗅いできた臭いであった。
どんな生き物であれ
死は平等に訪れる。
それは避けて通れる物ではない。
ベジータは
屍骸の山の頂上で生きてきた。
腐り行く物体のまさにその隣で
平気で食事が取れる男だ。
いまさら死臭が珍しいわけでもない。
しかしベジータにはわかっていた。
その臭いがどんなに
自分の気持ちを揺さぶっているかということを。
生きている者が死ぬことなど
何の関心もないことの「はず」だった。
だがまるで
子どものように心が乱れる
自分が…いた。
その日
いつも過ごした
北の高地に
とうとう悟空はこなかった。
ベジータは待った。
夕日が暮れて闇になっても。
誰も訪れない荒地で一人待っていた。
正体のわからない不安が
ベジータの気持ちをかき混ぜた。
深夜。
ベジータは自宅のプライベートルームにいた。
食事もとらず
シャワーも浴びず
ブルマにもトランクスにも会わないで
一人そのときを待った。
開け放された窓から雨の匂いが漂う。
徐々に夜空に雲が広がる。
風も強くなってきた。
でも、いまは
窓から差し込む月明かりが
彼の髪を青白く照らしていた。
黒い瞳に
星影が映っている。
今の彼は戦士でも
地球に住むサイヤ人の王子でもない。
ただの男であった。
叫びたい衝動が
彼を何度となく襲う。
今の彼は獣にかえろうとしていた。
全てのしがらみから
全てのものごとから
彼は開放されたいと願っていたのか。
何かが起こる。
それが今夜だ。
それを彼は自分の身体で感じていた。
鳥肌がプツプツと音を立ててたつ。
黒髪が震える。
突然。
ベジータの全身をしびれるような
熱い感じが突き抜ける。
ベジータは目を閉じた。
狂おしいまでの快感と喜びが
一気に彼の下半身から脳髄に向かって突き抜けた。
奴が…来る!
背後に誰かが現れた。
ベジータは向きもせず
窓の外を見ている。
その気は静かに
ベジータの背後に近づいてきた。
太い腕が彼の背中から
胸のほうにまわされる。
覆い被さるように大きな影がベジータをつつんでいく。
背中から伝わる無邪気で大きな気。
それがベジータの気持ちをぐさぐさと揺さぶる。
「今日はおこんねえのか。」
声の主は悟空だった。
ベジータに背後から腕をまわしたまま
悟空はどんどん体重をかけてくる。
「いいのか?」
ベジータがつつまれて生きてきたその臭い。
それが彼からベジータのほうに流れてくる。
奴の体内から匂ってくるのだとベジータにはわかる。
ベジータが静かに口を開く。
「貴様の変化に俺が気づかないとでも思うのか。」
「まあな。」
「いやな野郎だ。」
「…おら、おめえには隠し事をする気はねえさ。
だからきたんだ。」
「ふん」
ベジータはゆっくり目をあけた。
「入院すると聞いた。」
「ああ、ブルマに聞いたのか。」
「そうだ。」
悟空は
ベジータのうなじに顔を摺り寄せた。
悟空のいかにも頑丈そうな皮膚が
ベジータの白く滑らかな肌を刺激した。
ベジータは黙ってこぶしを握った。
「明日入院だと聞いたが。」
「ああ
…みんなに心配かけたくねえからな。
チチの言うことを聞くさ。」
「…だが」
「ん?」
「入院しても意味はないんじゃないのか?」
悟空は一瞬黙り込んだ。
「ねえよ。」
「やはりな」
「…仙豆もきかなかったんだ。
ドラゴンボールもまにあわねえ。
もうカリン様のとこにもいったし
神様にも逢って来た。
…かんげえてたとおりのことだったさ。」
「そうか」
ベジータは振り向けなかった。
彼の記憶にこびりついたこの臭い。
死を迎える人間の
臓物から発せられる腐った臭い。
何度も何度も戦場で嗅いできた臭いであった。
その臭いが
間違いなく悟空の腹の中から漂っている。
それが事実だ。
死んでしまうのか
カカロット。
やはり貴様は。
窓から差し込む月明かり。
その青い光に照らされて
悟空はベジータの体温を確かめる。
何をするでもなく
ただ背後からベジータの身体を抱きしめる。
ベジータは自分の心臓の上におかれた彼の左手の上に
そっと自分の手のひらを重ねてみた。
乱れて不規則な悟空の脈がベジータの身体に伝わってくる。
「ベジータ。
…おめえのことが心残りだ。」
「大きなお世話だ。」
ようやくベジータは口を開いた。
「貴様がどうなろうと俺の知ったことか。」
「…」
「俺様に慰めて欲しかったのか?
残念だったな。
強ければ生き弱ければ死ぬ。
ただそれだけのことだ。
貴様など…さっさとしんじまえ。」
「ベジータ
…おらは…おらはずっとおめえが気になっていた。」
急に悟空の腕に力が入る。
後ろ向けだったベジータの身体が引き寄せられ
悟空と向かい合った形になった。
ベジータの瞳が大きく開いた。
「馬鹿野郎!
俺の顔を見るな!」
ベジータが悟空を突き放そうとした。
「ベジータ!」
「やめろっ!
みるな!」
ベジータの両手首を捉えるカカロット。
一気に壁に彼を押し付けた。
ベジータは必死で悟空から顔をそむけようとする。
スタンドが音を立てて倒れ明かりが消えた。
闇が二人を包んだ。
悟空は突然映像を見た。
それはベジータの記憶が
悟空に流れ込んだのか…。
薄暗い部屋の中で
ベジータがただ座っていた。
窓もなく明かりもない狭い部屋。
いす代わりの便座の上で
ベジータは一人座っていた。
顔は腫上がり
戦闘服はぼろぼろで
髪が血のりで固まっていた。
周囲には
食べ物らしい物も
飲み物らしい物も
何ひとつ見当たらなかった。
ベジータ?
おめぇベジータか?
こんなとこで
何やってんだ?
幻影としりつつ悟空は語りかける。
悟空ははっとする。
顔をあげたのは
まだ息子の悟飯よりも
はるかに幼いベジータだった。
あまりの残酷な姿に
悟空は思わず声をあげた。
誰にやられたんだ、
ひでぇけがじゃねえか。
誰も助けてくれねえのか?
おめぇは一人なのか?
悟空が聞くと
まだ幼児のベジータが
静かに顔を上げた。
そしてわずかに
唇をゆがませた。
そうだ。
俺は一人だ。
これまでも
これから先も。
おめぇはそうして生きてきたのか。
そうだ。
誰も信じず
誰にも信じられないで
生きてきたのさ。
そしてこれからも
こうだ…。
痛い
ねじ切れるように痛い。
ベジータの痛みが
悟空にも伝わる。
「ベジータ…お前、泣いてるのか?」
「うるさい」
ベジータは必至で顔をそむけた。
「俺の顔を見るんじゃねえ!」
「わかんねえよ。」
「黙れ…」
「暗くてさ、よくわかんねえよ。
…見えねえさ。」
ベジータは悔しそうに
歯軋りを続けた。
「なあ、ベジータ。
おらはもう長くねえ。」
ベジータが顔をあげた。
そのときはじめて悟空とベジータは向かい合った。
「ベジータ」
「…」
「このことがはっきりわかってからは
おら、できる限りのことはした。
チチにも悟飯にも後で後悔しねえようにさ。
おらが出来ることは済ませてきた。」
「…」
「おら死ぬのは怖くねえ。
一回死んでッからな。」
「もういうな、カカロット…。」
「最後はおめえだ、ベジータ。
おめえは
地獄に連れて行く。」
ベジータは悟空の顔を思わず見た。
とても冗談とはいえない表情だ。
黒髪でありながら
悟空には明らかに
殺意があった。
いきなり悟空はベジータの首に両手をかけた。
頚動脈を抑えられて
ベジータは全身がしびれた。
「がっ!」
ベジータはその手をはずそうとした。
「おめえはおらがいなくなったら
又悪い奴に戻っちまうかもしんねえからな。
おめえだけはこの手で殺しておくさ。」
「くそっ…!」
「超化できねえおめえなんて
おらにとっちゃあ子どもみたいなもんだ。」
ベジータは悟空の腹を何度も蹴り上げた。
「無駄だってベジータ。
おめえはできるだけいてえ思いをさせて
殺してやるさ。」
左腕一本でベジータをつるし上げた悟空。
そのまま右の人差し指を額に当てた。
「おめえに見せてやるよ
宇宙一強いサイヤ人の姿をな。」
「やめろ!!
カカロット、超サイヤ人になるんじゃない!!!」
「なぜ?」
「俺にはわかるんだ
超化は貴様の死期をはやめる。」
「いいさ」
「やめろぉお!」
ベジータはいつか叫んでいた。
孫悟空は反吐が出るほど嫌いだ。
カカロットは殺したいほど憎い。
だが
超サイヤ人になったあいつは
どうなんだ。
ガラスのような碧眼の
金糸のような髪を持つ
大理石のように輝く
白い肌を持つ男。
とてつもないパワーを誇り
不可能を可能にした戦士
あいつはどうだ。
あいつの瞳は
俺をどうかさせる
視線が全身に突き刺さって
動けない。
俺は、俺は!
死ぬな
死ぬな、カカロット!!!
悟空は北の高地に移動していた。
誰にも邪魔されずに
最後の時間をすごしたかった。
頭上には薄黒い雨雲が広がっており
遠くから雨の匂いが漂ってきていた。
生臭い風が吹き渡り
これからの嵐の時代を予告するようだ。
はるかかなたで光る稲妻が
彼らに夏の終わりを告げていた。
彼はベジータと向かい合っていた。
もうほとんど全裸のベジータは
黒髪のままで
全身を真っ赤に血で染めながらも
それでも
燃えるような光る瞳で
悟空をにらみつけていた。
いいぜ、ベジータ。
その顔
最高だ。
どんなに離れていても悟空にはわかる。
この冷たくて
突き放すような
それでいて
さびしく痛い
ベジータの気。
手を伸ばせば逃げていき
つかむと指の間からこぼれてしまう
ベジータの気。
それが
最後のサイヤ人
ベジータの気だ。
「勝手に死ぬな、カカロット!
貴様を殺すのはこの俺様だ。」
ベジータはうわごとのように繰り返した。
超サイヤ人に目覚めることが出来ず
いつも悟空に組み伏せられるベジータ。
絶対的な力の差がそこにあった。
しかし
それでも彼は喰いついてくる。
肉が裂けても
骨がへし折れても
ベジータは喰らいついてくる。
「貴様を殺す、
貴様が憎い!
それが俺の全てだ!」
ベジータのガラスのようなプライドに
身も心も切り裂かれながらも
悟空は感じていた。
違うぜ、
違うぜ、ベジータ。
おめぇはおらが
好きなんだ。
おめぇはそうやって生きてきたんだな。
好きだなんて感情を
認めないで生きてきたんだな。
弱い自分を見せた相手を
殺しながら
多分今まで生きてきたんだな。
違うぜ、ベジータ。
弱いってことは
恥ずかしいことじゃねぇんだ…。
人を好きになってもいいし
心を許してもいいんだぜ。
もちろんそんな言葉がベジータに届くはずもない。
わかっているけれど
ベジータの攻撃を受け止めながら
やはり悟空は思うのだった。
過去にとらわれるな、ベジータ
おめぇはすげぇ奴なんだから・・・。
そのとき。
輝くベジータのエネルギー波が
悟空の左の頬を
ざっと音を立てて掠めていった。
悟空の頬がわれ
ピンクの肉が剥き出しになり
真っ赤な血しぶきが上がった。
にやりと笑うベジータ。
「ざまあみろ」
しかし
ベジータは力尽き
そのまま
はるかな地上に落下していったのだった。
硬く冷たい
岩盤の上に
血の気のない顔のベジータが
ぼろぼろで倒れていた。
全身の皮膚がずたずたに裂けて
色鮮やかなあらゆる物が体からはみ出ていた。
それでも胸がわずかに動いている。
「さすがだなベジータ。
こんな状態でも息があるなんてさ。」
悟空は静かに下りてくると
満足そうに微笑んで
小さい身体をしっかり抱き上げた。
「…だが超化は無理だったか。」
悟空はベジータの黒髪をそっとなでてみた。
「おめえはまだ失っていないんだな。
命より大事な物を。」
「…うるさい奴だ」
「…ほら、仙豆を食わせてやるさ。
おらたちゃ死にかける度に強くなるんだろ?」
ベジータが
ふっと笑った気がした。
そしてそのまま
ベジータは意識を失った。
東の空に
大きな稲妻が走った。
そして
終わりは突然やってきた。
悟空は思わず左胸を抑えた。
一瞬息が止まったのだ。
いよいよか、と思った。
苦しい。
あまりの息苦しさに
悟空は顔を上げることが出来ない。
(やべ…!!!
胸が…)
ただ必死に帯の隙間に指を入れ
仙豆を探る。
(ベジータに食わせねえと…
しっかりしろ、悟空。
ベジータだけが頼みの綱なんだ…)
震える指でつかんだ
一粒の仙豆。
そして彼はかすかな未来への希望を持って
何とかそれをベジータの口におしこんだ。
そして悟空は次にもう一粒の仙豆を
自分の口にも入れようとした。
だが指が震えて
冷や汗ばかりが出る。
(あっ…)
そのときちいさな仙豆は
音を立てて岩の間に転がり落ちた。
(しまった。
だめだ…くそっ)
視界にベジータの姿が映る。
が次第にそれもかすんで消えていく。
冷たい汗をにじませた彼は
額に指を当てると
とにかくどこかへ消えようとした。
ベジータにこの姿を見せたくないと思った。
しかし何度も突然意識が飛んで
瞬間移動が出来ない。
何とか力を振り絞り
悟空はベジータの身体の上に覆い被さった。
ガードの壊れた精神から
ベジータの心が
悟空の中に流れ込んで来る。
みたこともない
惑星ベジータの景色や
王宮の内部の様子が「カカロット」の中に流れ込んでくる。
多くのサイヤ人の姿が
洪水のように流れ込む。
中には
ラディッツの姿もあった。
(へへ…じゃあ、あの隣の奴が親父なのかな?
なんだかおらにそっくりだ)
映像とともに
流れ込む
ベジータの激しい感情が
悟空の
魂を掴んで掴んでかき回す。
いいぜ
ベジータ!
もっと
来いよ…。
おらに
おめぇの全てを見せてみろ!!!
悟空はもう一度ベジータの身体を抱きしめたいと
何とか立ち上がろうとした。
しかしそれはかなわず
彼は四つん這いになるのが精一杯であった。
次第に雲が重くたれ
遠くの方で雷のなる音が聞こえ始めた。
悟空は雨雲の間からかすかに覗く
二つの星の光を仰いだ。
(最後のサイヤ人・・・)
ポツリ、ポツリと雨のしずくが落ち始め、
山吹色の道着をぬらし始める。
その雨粒は次第に大きくなり
音を立てて
彼らに降り注ぐ。
悟空は守る
ベジータの体を。
冷たい雨から
王子を守る。
ついに黒髪に戻る悟空。
そのとき
ベジータの頬に
暖かい水の雫が
ひとつ
落ちた。
悟空の身体が
どんどん
冷えていく。
(バイバイ、ベジータ…。)