広島8人殺傷 「もう外国人雇えない」カキ産地の苦悩深まる 支援不備の指摘も
産経新聞 3月16日(土)10時50分配信
 広島県江田島市は国内有数のカキ産地として知られる。近年は人口の4割近くを高齢者が占め、カキ生産の後継者不足が深刻化。中国や東南アジアから来日する研修・技能実習生らが労働力を担って生産量を維持してきただけに、事件は現地に深い影を落とした。地元関係者からは「今後は外国人を雇うのも難しくなる」と不安の声が上がる。

 「日本人で担い手がいないなら、働きに来てくれる中国人に頼るしかない」

 江田島市内でカキの養殖を営む男性(61)は率直な心情を吐露した。男性の会社では、これまでに計10人の中国人を雇ったことがあるという。男性は「日本人で働いているのは高齢者しかいない。若者は実の娘すら手伝ってくれないのが実情だ」と嘆く。

 江田島市はカキの生産量が全国でもトップクラスの自治体だ。ただ、実態は高齢化や後継者不足が進み、最近では中国人実習生らの労働力で維持されてきた。

 数年前まで実習生を受け入れていた市内の水産加工会社の社長(46)は「寒くてけんしょう炎になるなどつらい仕事だが、中国人はまじめでよく働いてくれる」と話す。

 しかし事件以降、中国人をカキの殻を取る「打ち子」などに雇ってきた漁業関係者から「今後、外国人を雇えるのか」との声が上がり始めた。それでもカキ生産の現場は「中国人実習生がいなければ立ちゆかない」(関係者)というのが実情だ。

 水産会社のある経営者は「中国人実習生が事件を起こしても、見方が変わるわけではない。働きに来てくれるだけで非常にありがたい。利益を出すためには、これからも中国人を頼っていくよりほかない」と複雑な胸中を吐露した。

■支援不備の指摘も

 陳双喜容疑者は「人間関係にトラブルがあった」と供述。流暢(りゅうちょう)な日本語を話せずに孤立した存在となり、悩みを抱え込んだ末の凶行だった可能性があり、実習生の支援団体は「十分なケアがされていなかったのでは」と指摘する。

 「中国にいる家族のために一生懸命働いている。帰りたくても帰れない」。ある水産会社で実習する中国人男性(29)はこう明かす。来日時に支払う保証金は中国で数年分の収入が相場とされ、途中帰国やトラブルを起こすと没収される。日本語も勉強していたが、「言葉には苦労する。力仕事で、終わるとくたくたになる」。

 実習生の生活支援は来日時の窓口となり、各企業へ橋渡しをする仲介組合などの役割。ある漁業関係者は「組合によって熱心さに差がある」と語る。

 市民団体「スクラムユニオンひろしま」の土屋信三さんは、受け入れ企業側の問題も指摘する。実習生を低賃金の便利な労働者とみる経営者もおり「気に入らなければ解雇し帰国させることもできる。奴隷制度そのもの」と批判する。

 陳容疑者は江田島市の日中友好経済協同組合を通じ紹介された。組合の代表理事は陳容疑者について「組合の女性通訳が月に1回、悩みなどを聞いていた。自分の知る限り、賃金の支払い滞納やパワハラはなかった。事件を知りあぜんとしている」と語った。