下請け中小企業が大勝負! 起死回生のヒット商品 ~バーミキュラ・胡粉ネイル・空気の器 商品開発ストーリー
プレジデント 2月4日(月)9時30分配信
写真を拡大

愛知ドビーの鋳物ホーロー無水鍋「バーミキュラ」。
 料理がおいしくなる鋳物ホーロー無水鍋、自然派マニキュア、お洒落な紙雑貨……。下請けからの脱却を目指し、または老舗メーカーが新機軸を築くために、既存の技術や設備など“自社のバリュー”を生かして名物商品を開発した事例を紹介する。

■依頼を待つばかりの下請け企業が生き残る道とは

 国内の景気が悪いからといって闇雲にグローバル化を推進するのではなく、自分の会社の技術や強みは何か、足元から徹底的に見直す。そして、設備や技術など自社がすでに持っている?バリュー.を生かし、見事ヒット商品を生みだした中小企業がいま、元気だ。

 たとえば、2010年の発売直後から注文が殺到し、現在も「納品まで15カ月待ち」というほど人気の鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」。愛知県名古屋市の「愛知ドビー」の商品である。鋳物ホーローの保温性および遠赤外線効果と、水を加えず食材の水分だけでうま味を引き出す「無水調理鍋」の機能を併せ持つため、「他の鍋より格段においしく作れる」と大ヒットした。

 愛知ドビーは創業76年と歴史は長いが、社員とパート合わせて数十人の、いわゆる「町工場」。かつて愛知県は繊維産業が盛んだったため、社名通り「ドビー織り」という模様を作る繊維機械のメーカーだった。しかし繊維産業の衰退とともに、建設機械などの部品を鋳造して、それに機械加工(削る・穴を開ける等)を施して仕上げる、鋳物部品の加工に社業の軸足を移す。

 「要するに、依頼がなければ仕事はない下請けです。景気のよかった時代はそれでいいですが、近年は厳しい状況でした。ですから、大手企業に頼らなくても生き残っていけるよう、弊社はもう一度、商品を自分たちでイチから企画して製造販売できる“メーカー”になる、と決意したんです」と同社社長・土方邦裕氏は語る。豊田通商の財務部門で為替ディーラーとして働いていた邦裕氏が「半ば父に騙されて」家業を継いだのが01年。傾いた会社を立て直すために、まずは自社の技術をきっちり把握しようと技術者として基本から学んだ。

 「技術書の本を舐めるように読みつくし、社外の諸先輩方にも教えてもらって勉強しました。そのうちに、弊社に特別な技術はないけれど、最大の特徴は、鋳造と機械加工の両方ができることだということがわかってきました」

 07年にはトヨタ自動車の経理部門に勤めていた弟の智晴氏が入社し、邦裕氏の「メーカーに再挑戦プロジェクト」を一気にスタートさせた。社運を懸けて開発する商品を「鍋」にしたのは、智晴氏がル・クルーゼというフランス製の鋳物ホーロー鍋を友人からもらったのがきっかけだ。

 「当時、世界的に定評があったのは、ビタクラフトなど、気密性が高く無水調理ができるステンレス製の鍋でした。でも、ル・クルーゼを試してみると、ステンレス鍋よりも確かにおいしく作れる。ただ、鋳物ホーロー鍋はどれも蓋と鍋の間に隙間があり、少しガタガタするのです。では、弊社の機械加工の技術で縁を削り、鍋と蓋が隙間なくピッタリ合うようにすればどうか?  鋳造と機械加工、両方の技術を使って、もっとすごい世界一の鋳物ホーロー無水鍋を開発しようと決意したのです」

 鍋の形状は比較的すぐに完成した。だが、思わぬところで壁にぶちあたる。

 「ホーローにきれいに色を吹き付けることが、実はとても難しかったんです」

 ル・クルーゼをはじめとした、フランス製の鋳物ホーロー鍋人気の理由のひとつにカラフルさがあった。ピンク、オレンジ、グリーン、白など、キッチンを彩る、かわいい雑貨としての魅力を備えるのは絶対条件だった。

 「黒の釉薬は簡単ですが、さまざまな色を吹き付ける技術を持っているのがフランスだけだった。それでカラフルな鋳物ホーロー鍋はすべてフランス製だったんですね」

 トライ&エラーを1年半粘り強く繰り返し、ついに色を吹き付ける技術を開発する。さらに鍋の気密性を高めるための機械加工の試行錯誤も重ね、最初に掲げたコンセプト通りの商品ができたのが09年。開発に3年かかった。

 「そこからは半年間、ブランディングの構築と売り方の研究に時間を費やしました。世界一の鍋を作った自負と商品力には絶対の自信があったので、料理ブロガーといった第三者に実際に使っていただき、その評価を口コミで広めることにしました」

 サービス面でも工夫を凝らした。「注文から使い方まで、購入した方を一生にわたってサポートする」フリーダイヤルの相談窓口を設けたのだ。

 「修理は何度でもします。バーミキュラで作れるレシピ相談も多く、毎日、夕飯の前に電話してくださるお客様もいらっしゃいます(笑)」

 販売価格は幅22センチ、18センチで異なるが、いずれも2万円台で値引きは一切しない。他社の鋳物ホーロー鍋とほぼ同じ値段設定だが、実はかなり頑張った価格だ。

 「百貨店に通常の条件でおろしたら、何万円も高くなってしまう。さすがにそれではなかなか売れませんから、直接販売に限定しました。百貨店でイベントを行うこともありますが、こちらの条件に合わせていただいています」

 現在フル稼働で年間2500個を製造。それでも15カ月待ちが続く。

 「今年中には3500個作れる設備を整える予定です(※2012年当時)。しかし、メードインジャパンのものづくりを死守したいので、海外での大量生産などは考えず、この工場で作れる範囲内でいくつもりです。下請け仕事をいまも続けているのは、会社を存続させるために、メーカーと下請けの両輪でありたいから。規模の拡大は慎重にやっていきます」