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超氷河期世代の臥薪嘗胆2010年11月23日10時23分
「能力主義・成果主義に基づく公平公正な評価で、活力のある職場を形成する」
広告関連会社に勤務する女性マネジャーNさん(37)は、自社のホームページに載っている会社の人事方針を読むたびにため息をつく。公平公正どころではない「上司」の存在が頭をよぎるからだ。
10年前に通信会社から転職し、その4年後にマネジャーに昇進した時は、頑張りを認めてもらったと素直に喜んだ。だが、3年前、親会社から「上司」がやってきて、能力主義への信頼はあっという間に崩れ去った。部長とNさんの間に設けられたエグゼクティブマネジャーが、彼の肩書だった。
1990年前後に社会人になった人々はバブル世代と呼ばれる。会社員としては苦労知らずだったせいか、不平不満やへ理屈が多い割に、他者に依存しがちだとされる。40代前半の「上司」は、まさにその典型だった。
予算の決定権を握り、「オレの最終ジャッジで決めるから」が口癖。そのくせ責任感は薄く、ことあるごとに「オレは聞いてないぞ」を繰り返した。「ちゃんと報告しましたよ」と記憶を促すよう一から説明しても、「確かにそこまでは聞いたが、その後の話は聞いていない」。話をするだけでどっと疲れた。
企画運営を担当したイベント会場には、ちゃっかり個人的な知り合いを招待し、「規模がでかいと大変だよ」などと自慢するのが常だった。ところがトラブルが起きるや、見て見ぬふりをしてその場からさっといなくなった。
そもそも会社にいないことも多かった。伝言ボードに「新宿」「渋谷」などと書き残して外出し、後は「NR(ノーリターン)」がいつものパターン。そのたびにスタッフは「場所だけじゃなくて、何をしてるか書いてほしいよね」とこぼしあった。
実は「上司」の具体的な業務について、誰も把握していなかった。はっきりしていたのは、年収が「エグゼクティブ」なことだけだ。
この秋、ようやく「上司」が親会社に帰る人事が発表された。喜びに浸る暇もなく、後任が送り込まれてきた。新しい「上司」とあいさつを交わして、Nさんは目の前が真っ暗になった。
「名字じゃなくて、下の名前で呼んでくれよ。今までもそう呼ばれてたからさ」
軽いノリと公私混同は、バブル世代のもう一つの特徴である。損な役回りばかり押しつけられてきた超氷河期世代の臥薪嘗胆(がしんしょうたん)の日々が、またしても始まった。
