前日までの異様な暑さに「もう秋分なのに」と噂していたからか
その秋分の日には急拵えで、すっかり涼しくなりました。
急も急、大雨と雷を伴う荒療治です。
どうやら南の空には台風12号がきているとのことでした。
阿佐ヶ谷駅のホームから見える空には
南へ、南へと駆ける雲たちが‥
あるいは引きちぎられながら、さらわれてゆく雲たちがありました。
雨はまだ降っています。
前日まで暑くて、急に冷え込んでこのお天気。
いったい誰が元気にメキシコ料理を食うだろう?
と思いながら電車に乗り込みました。
果たしてあまり人のみえない日となりました。
休日だから、念のため私もバイトに入ったのでありますが。
空いているスキに、お店で作るカクテルなどについて
ヨシオカさんに色々訊きました。
レシピはどこから集めてきたのか?
そもそもヨシオカさんはカクテルを好きなのか?
以前お酒について話したときヨシオカさんは、普段はあまり飲まず
若い頃は人と一緒に居る時に飲まないわけにもいかず
仕方なくではないけど、つきあいで飲んでいたという感じを受けました。
お酒について詳しいことに関しても
「仕事だから覚えたんだよ」と本人が言っていました。
あまり酒が好きじゃないのかなあ。
なんて思っておりました。
でもいくつかのカクテルについて「これ、おいしいんですか?」と
疑念丸出しで私が訊くと
「うまいよ。」
とその疑念を否定するように言うのです。
それなりに酒への愛のある人らしいです。
そしてカクテルに関しても
自分でレシピを開発するのは、楽しいと思っているそうです。
エル キシコにもオリジナルで出しているカクテルがあります。
「Frozen Nuevo Nube」‥フローズンヌエボヌーベ。
私が初めてエル キシコに
その時はお客さん兼、バイトの面接としてじょーさんと行った時
デザート代わりに飲みました。
この白いのがぞうです。
いや、そうです。左がぞう。右のがそうです。
バタースコッチ風味のリキュールや生クリーム等を材料に
フローズンスタイルに仕上げた甘いカクテル。
カクテルというかデザートというか、悩むところです。
濃い食事にも合いそうですし、カクテルでしょうか。
これはとても美味しいと思うのですが‥
いまのところ、私はオーダーをいただいたことがありません。
Frozen Nuevo Nube。
お客様のお目にとまっていない
どころか視界に入っていないのかも知れません。
だってなんか、よく分からない言葉ですもんね(;'ー')
私もこの横文字からは何も想像できません。
実物は見たことがあるけれど、言葉の意味が気になってきて
先日少し調べてみました。
どうやら「Nube」は雲のことらしいです。
Nuevoが「新しい」とかだから、実態をふまえて意訳すると‥
「わきたての甘い雲」みたいな感じでしょうか。
ヨシオカさんに確認すると、単語それぞれの意味は合っていました。
が。
これは予想していませんでした。
実は「Nuevo Nube」自体が間違った言い方らしいのです。
「知らなくてつけちゃったけど、Nubeって女性名詞なんだよな。」
(*'ー')?
「だからほんとはNuevoじゃなくてNuevaなんだ。」
私にはよく分からないけれど違うらしく
しかもヨシオカさんは全然違う名前を考え直そうとしているとのこと。
(*'ー')でも、イメージは合ってると思うんです!
と、ひとまず止めに入ってしまったのですが‥
女性名詞に「Nuevo」とつけるのは、どれくらい奇異な事なのでしょう?
あまりにヘンなら変えねばならないのでしょうか。
でも「Nueva Nube」だと何か質感が違う気がするのです。
食感が軽くなるっていうか‥
じゃあ他の名前?
でもあれは、わきたての雲だと思うんです。
我が愛しの「Nuevo Nube」の運命やいかに!
というところで、まかないです。
コロモ付きのアジたちがいっぱい入った袋を持って
ヨシオカさんが言いました。
「アジフライ、何匹食べる?」
(*'ー')あじふらい‥
(*'ー')ふつう何匹食べるものですか?
「食ったことないか?アジフライ。」
(;'ー')いや!ありますよ!!
たぶんちょっと疑われています‥
結局一匹だけ揚げてもらいましたが
ふつうは何匹食べるものなんでしょうか。
私の家は、あまり自宅で、家族で食卓を囲む家ではありませんでした。
母が凝り性すぎて、毎日毎日家で作ると
彼女はノイローゼみたいになってしまうし
食費も異様にかさんでしまうという事態に陥るのです。
たとえばものすごくいい平目を買ってきて
刺身に合う副菜や汁物を、数時間かけて作ったりなんかするものだから‥
「おまえさんが毎日作ると、うちはかえって滅茶苦茶になる( ;ー;)!」
と父が母を止め
一家は食事の多くを外でするようになりました。
父も母もよく食べ、よく飲む人でしたので
我々の食事のメインは、小料理屋と居酒屋の間くらいの店でした。
アジフライは無かったのでしょうか。
他の魚の唐揚げの方が縁がありました。
あるいはフランス料理や、お刺身の美味しい店へ
普段の食事で行きました。
私はいたって存在感の無い子供でした。
幸い酒場やレストランで迷惑がられることはなかったようで
幼少期から二十歳ごろまで
いつも(なぜだか母と姉だけ他で食べる日もあって)
父の隣でしずかに、酒の近くでこの身を育まれてきました。
なかなか幸せなことでした。
でも、一家そろってテーブル囲んで「いただきます」というのは
私にはだいぶ遠い世界です。
そんな「揃っていただきます一家」なんて
全世帯の5パーセントくらいでは?
いやもっと少ないか?
とずっと思っていましたが、違うんですね。
もう少しはいるそうですね。
(*'ー')家庭の味は知らないけど、おいしいものいっぱい食べました!
と誇らしげに言うと、たまに不憫そうにする女の人がいたりします。
騙されてはいけません!
この人はかなり幸せだったんですから。
でなきゃこんな阿呆には育ちませんよ(*'ー')
そんな話を、雑談の中でヨシオカさんにもしました。
ヨシオカさんはなんかウケていました(笑)
さて酒場で育った私でしたが
あいにく、主に酒場に連れていってくれた父は
私が飲める年になる前に肝臓を壊してしまいました。
だから酒を教えてもらう暇がありませんでした。
それにそもそも彼が好んだのはビールと日本酒。
あるいは、行く店によってはウイスキーやブランデーなどの蒸留酒。
私は「酒」と酒の周りのものを、よく知らないまま愛していますが
「カクテル」というものがさっぱり分からない人に育ちました。
そんな人がカクテルを作る立場になってしまったものですから
密かに困惑しておりました。
できれば作りたくない‥
カクテルが身近でなかっただけではなくて
実は、つきあいで外で飲んでも、何度かしか感動できなかったからです。
あんなハイカラなもん作らなきゃいかんのか‥
しかも美味しく?
ええ~(;ФωФ)
と、思っていたのは
予想外に短い期間でした。
ちょうど、これまであまり縁の無かった
「BAR」らしいBARを知った時期でもあり‥
そこのBARのマスターは訊けば何でも教えてくれる人でもあって
聞いた中にはすぐに実行できることもありました。
そうして、ほんの数回気合いを入れてカクテルを作ってお出ししただけで
お客さんがそれを飲みながら楽しそうなのを見ただけで、もう
すっかり自分も楽しくなってきました。
それとともに、メニューに載っているカクテルのことを
全く知らない自分が辛くなりました。
急拵えの秋のように、私はカクテルのことを調べ始めました。
いささか四角いやり方ですが、気にしちゃおれません。
単語カードの表にカクテルの名前、裏に材料と作り方
分かれば名前の由来や味のイメージも書きました。
移動中に覚えるために作ったカードでしたが
なかなか覚えられず‥そして意外と便利なものに仕上がったので
木曜日、店にもこのカードを持ち込んでしまいました(;'ー')
ちょっと情けないかなあ、と気後れしました。
でもこれも予想外。
逆に、意欲の表れっぽく受け止めてもらえたみたいでした(*'ー')
もちろんお客様には見えない場所に置いていますが(笑)
とここで書いては仕方がない気もしますが、どうか見て見ぬフリを‥
美味しく作りますから!
さてカード片手にヨシオカさんに、カクテルについてあれこれ訊いた翌日
金曜日もバイトの日です。
木曜に話題にしたカクテル「ガルフストリーム」が
お店に置いてあるレシピブックに載っていなくてもどかしかったので
私が図書館で借りた本を持ち込みました。
話が昨日の今日なので、では続きという感じに切り出せました
さて問題の「ガルフストリーム」。
エル キシコの今のレシピは少し計量しづらいのです。細かすぎて‥
それからグラスや氷の有無にも違いがありました。
よほどこだわりがあるのかも知れない。
触れてはいけないところかも知れないと思いつつ
「この本で写真見て、作ってみたくなったんですよ~(*'ー')」
と本を見せたら
「それうまそうだな。」
と、興味を抱いたらしいヨシオカさん。
「そのカード(NORAの単語カード)にもう書いてあるのか?」
(*'ー')いえ、カードのはお店の方のレシピで‥
「そっちの本のも書いといて。」
(*'ー') はい!
(*'ー')じゃあ、メモして置いていきます。
「そうしてくれる。」
なんか今ならいける気がする‥( ФωФ)
実は、カードにはお店にないカクテルのレシピも
いくつか書き出してあるのです。
メニューにはなくても、お客さんに言われたもので材料があれば
何でも作って良さそうな気配なので
「もしもそういうことがあったら」と
最初はメジャーなもの(サイドカーとかキールとか)だけ
そのうち「これ、うちの料理に合いそうだ」というものも
自己満足でピックアップしていたのです。
その中でも特にエル キシコに合いそうなカクテル、二種類の
レシピと写真をヨシオカさんに見てもらいました。
無事に二つとも気に入ってもらえました(*'ー')ノ
「カリブ」と「エル ディアブロ(スペイン語で、悪魔!)」
こちらもお店のグラスの容量に計算し直して
レシピを書いて置いてきました。
採用されたら、うれしいですねえ(*'ー')~゚
なんてカクテルに意識が行っているせいか
ここ数回、バイトに入ると一度は必ず
マルガリータのオーダーをいただいています。
他のカクテルもちらほら。
入り始めの頃はカクテルの注文がほとんど無かったのですが‥
あれは暑かったせいでしょうか。なんでしょうね?
とにかくカクテルを作ろうではありませんか!
と、あるお客様にピニャコラーダをお出ししたところ‥
「なんだこれ(笑)!」
という反応が( ФωФ)
びっくりしかけましたが、どうやら
お連れ様が選んでオーダーされたご様子。
「かわいいでしょう!」と。
それで安心したものの、なんとなく気にかかり
時々そのお客様を見てしまいます。
見れば見るほど‥
カクテルを飲むペースが相当ゆっくりです。
もっとおいしく作れたら、話は違ったのでは( ;ー;)
しばらくして、メニューを片手にしたそのお客様に呼ばれました。
店員に微笑みかけるタイプではなさそうな、クールな雰囲気の方で
直接呼ばれて少し緊張してしまいました。
「はーい(*'ー')」
はい。今度は何を差し上げましょう( ;ー;)?
「これ。」
( ФωФ)?!
なんと、飲み終わったグラスを指さすお客様。
(*'ー')はい、ピニャコラーダ!ありがとうございます
それはもう、ごきげん丸出しで作ってしまいました(笑)
しばらくして、同じお客様にまた呼ばれました。
今度はなぜか少し申し訳なさそうな笑顔で
(直前に同じテーブルの方が
ピニャコラーダをオーダーされていたからでしょうか。)
グラスを持ち上げて「これ」と指されました。
(*'ー')はーい
どうやらピニャコラーダ、気に入っていただけたみたいです。
とてもうれしかったです。
グラスをかかげて「これ」と「はーい」は
その後、さらに4回繰り返されました。
ピニャコラーダ‥Pina Colada。
単に「裏ごししたパイナップル」という訳もありますが
「パイナップルの茂る峠」とも訳せるそうです。
Coladaにはまた「山間の難路」という意味もあります。
カクテルの世界にまだおろおろしているNORAですが
このパイナップルの峠はなんだか幸せでした。