GET UP WITH IT | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:SOPJ90~91(CBS/Sony) 1974~1975年(国内盤)

 

 

 現在の勤務先は夕方に終業時間を迎えることもあり、自宅から自転車で30分ぐらいの範囲であればスーパーやコンビニ等に気軽に寄ることができます。

 

 埼玉県の北の端の、それほど開発が進んでいない街区にもハ〇ドオフが出店しており、半月前に足を運んだところ、実はLPレコードの品ぞろえがかなり良いことに気づいたのです。

 ですが、これは以前の投稿で書いたとおりプリメインアンプがまだ入手出来ていなかったため、聴けないレコードを今買っておくのもなぁ…と後ろ髪を引かれる思いで購入を見送りました。

 先日に待望のアンプを自宅に迎えると、とたんに買い逃したレコードが欲しくなり帰宅後に自転車を走らせてお店に向かいます。帰りにはあのラーメン屋で晩飯にしよう、などと考えながら棚を探し、お目当てのアルバムを見つけて確保しました。

 

 そのアルバムからわずか3枚ほど探った先に見つけたのが

 

いやいや、君を呼んだんちゃうねん。

 

げげげげ、”GET UP WITH IT”ではあーりませんか!これはホンマに焦りました。

 

 しかもファンの方はご存じのとおり、このアルバム、2枚組なのです。ハ〇ドオフの担当さんもよく心得ていて、けっこうな額を付けています。

 散々悩みましたが、考えてみればこのアルバムを最後に見かけたのは2年前、大阪の日本橋の中古レコード専門店です。もし今後このアルバムを探すとなれば、片道1時間以上かけて東京都内まで遠征しなければならないこと必至。結局、今までハ〇ドオフで購入したLPのなかでもぶっちぎりの最高額を投じて購入を決めました。帰り道のラーメン屋は諦め、近所のスーパーでサッ〇ロ一番塩〇ーメンを買って帰りました( ;∀;)

 

 

ゲイトフォールドですがジャケットの表裏とも画は同じ。

ただしよく見るとジャケット裏にはアルバムタイトルと

隅のほうに収録曲が。CDだとこの曲目が消されたジャケット裏の画が表に使われており、マイルズの顔だけというLPのジャケットデザインがいかにインパクトが大きいか実感できます。

ゲイトフォールド内側。右側には

たったこれだけ。マイルズの敬愛するデューク・エリントンへ捧げることを意味しています。エリントンはこのアルバムのリリースの少し前に世を去り、それを悼んだマイルズはエリントンの口癖をもじって”He Loved Him Madly”と名付けた曲をアルバムの冒頭に置きました。

日本語ライナーはなぜかひとまわり小さめ。

その裏にはCBS移籍後のアルバムを全て網羅したディスコグラフィ。

 

 

 

 

 マイルズ・デイヴィス(Miles Davis)の”ON THE CORNER”を以前の投稿でご紹介しましたが、ディスコグラフィ的にはその路線で制作したアルバムということになります。

 

 とはいえ、複数の流れを同時に演奏することで生まれる緊張感を演出すべく、プロデューサーのテオ・マセロの編集の手を借りて創りあげた”ON THE CORNER”はさすがに冗長というか、聴き手の受け取り方にとってはどうにも消化の悪い長尺曲の羅列にしか思えないという弱点がありました。

 

 ”ON THE CORNER”リリース時は同時期にヒットチャートを席巻したハービー・ハンコック”HEAD HUNTERS”をしのぐ傑作と自負していたマイルズも、予想したほどの商業的な成果が得られなかったことに何か思うところがあったのでしょうか、インプロヴィゼイション(即興演奏)の可能性を追求することよりもコンパクトな楽曲のなかで濃密なアンサンブルを構築することにしたらしく、8曲中6曲を15分以内の小曲に仕立てています。

 

 また、ドラムとベースのリズムセクションには比較的シンプルでタイトなビートを刻ませ、オルガンやピアノといった鍵盤楽器にはリズミカルなコードよりも耳をひきつけるリードフレーズを演奏させています。さらに曲想というか、各曲の個性やムードに配慮したうえでメンバーを配したらしく、アンサンブルのまとまりという点では”ON THE CORNER”をはるかに上回ります。

 

 スライ&ザ・ファミリー・ストーンジミ・ヘンドリクスに触発されて足を踏み入れたファンク(funk)のビートを媒介に、ジャズのフィールドで培ったインプロヴィゼイションを融合させた、70年代前半のマイルズミュージックの最も濃いエッセンス‐それがこのアルバムの全てです。

 あまりの濃さと重さに敬遠する人が多いのも事実ですが、いちど全体をじっくり聴き、何度か聴きかえしているうちに、もしかしたらこれがマイルズのコア(核)なのかもしれない、と感じ取れる頃には、他のマイルズのアルバムはそう苦にならず(;'∀')聴けるようになっているはずです。耳になじみにくいアルバムだからといって食わず嫌いしてスルーせず、CDでもネット配信でもいいのでいちどじっくり向かい合ってみる価値のあるアルバムです。

 

 

 

 

 最後に蛇足ながらひとつ。

 このアルバムのサイドBの3曲目”Rated X”を初めて聴いたときのことです。

 

なんかこの感じ、どこかで…と妙なデジャヴが。記憶を探ることしばし、思い出したのがこちら;

 ジェフ・ベックのアルバム”YOU HAD IT COMING”に収録の”Loose Cannon”でした。

 アブストラクトで無機質なフレーズで追い立てる曲想がどことなく似ているように思えたのです。

 

 考えてみれば、このアルバム”GET UP WITH IT”にも参加しているジョン・マクラフリンを尊敬するギタリストのひとりに数えるベックは、そのマクラフリンを横目で見ているうちにあの強大な影響力を持つマイルズに、自分でも意識しないうちに感化されていたのかもしれないな、と、何の根拠も無いのですが考えたりもします。

鉛筆