THE LONG RUN | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:P-10600Y(Asylum)  1979年(国内盤)

 

 

 イーグルス(THE EAGLES)をリアルタイムで聴いておられたファンの皆さまにとって、このアルバム”THE LONG RUN”は複雑な感情を抱かせる一作ではないでしょうか。

 

 ボクはイーグルスについては完全な後追いで、リアルタイムで新作を購入できたスタジオアルバムは”LONG ROAD OUT OF EDEN”からです。

 なので、1976年リリース、大ヒットとなり後にロック史に残る金字塔とまで称賛される”HOTEL CALIFORNIA”の次に来るアルバムとしての”THE LONG RUN”を聴いた方は

ううん…(;´・ω・)

という感想を抱かれたのではないかとお察しします。

 

 

 やはりというか、リリース当時かなり売れたこともあるのでしょう、大阪府郊外のリサイクル店で叩き売られているのを発見し思わず買って帰りました。

ジャケット裏。帯は欠品しています。

ゲイトフォールドはメンバーの集合写真、しかもモノクロ。地味(;^ω^)

ライナーノーツにはプロデュースのビル・シムジクが。

各楽曲のクレジットがかなり詳細。権利関係をめぐってのメンバー間の緊張が何となくうかがわれます。

原詞と訳詞。よく見ると

レコード会社からオフィシャルの歌詞が知らされなかったらしくこんな一文が。ま、日本のレコード会社にはリリースのぎりぎりまで詳細が明かされないのは今も昔も同じなのですが…

 

 

 

 

 ボクはアルバム”THE LONG RUN”を入手する前にベスト盤や、ライヴDVD”HELL FREEZES OVER”を聴いていましたから、表題曲や”I Can't Tell You Why””In The City”にはなじみがあるものの、いざこうしてLPを入手し通して聴いてみると、色々な感覚が心の中に浮かんできます。

 

 このアルバム、全体的に重いんですね。

 表題作や”In The City””Heartache Tonight”はソウルの影響を強く感じさせますし、”I Can'tTell You Why”はベタベタに甘いバラードです。他の曲もスローテンポな上にドン・フェルダー、ジョー・ウォルシュ両名のヘヴィに歪んだギターが鳴り響く重厚なものです。

 ただし、フロリダ州のベイショアスタジオで当時最新鋭の機材で録音された音はシャープそのもの。重いのに全体像がくっきり聴こえるという独特な響きは80年代を目前にしたプロフェッショナルな録音技術の最高水準ではなかったでしょうか。

 …これがCDになるととたんに重くべったりとした音像に逆戻り。ま、いつものことですが(;^ω^)

 

 デビュー作から”ON THE BORDER”辺りまでは若干残っていたカントリーの風味はもはやこのアルバムには見出せません。

 バーニー・リードン(レドン)が”ONE OF THESE NIGHTS”リリース後に脱退し、ジェイムズ・ギャング~バーンストームを経てソロに転向していたウォルシュが加入した時点でイーグルスのヘヴィロック路線は確定していたともとれるのですが、ペンペレペンペラと軽快なギターと鮮やかなコーラスワークをフィーチュアした楽曲がひとつも無いというのも、このアルバムが重く感じられる一因ではないでしょうか。

 

 後にグレン・フライが

僕たちは終わりだった あれを創ってあれに葬られたんだ

と述懐した、まさにその「あれ」‐”HOTEL CALIFORNIA”が光なら、その3年後にリリースされた”THE LONG RUN”は影なのかもしれません。しかもこのアルバムを残していったんイーグルスは解散します。

 1994年にこのアルバムをレコーディングした時のメンバーが再集結しますが、その際も「絶対ありえない」ことの例えとしてドン・ヘンリーが発した”hell freezes over”がそのままライヴ音源のタイトルになったのですから、イーグルスが下した決断というのはそれだけ重いものだったはずです。

 

 キリスト教圏の地獄(hell)は燃え盛る炎の煉獄というイメージですので「地獄が凍り付く」ことは「まずありえない」の意味になります

 

 

 ディスコグラフィ的に見れば”LONG ROAD OUT OF EDEN”が2007年にリリースされたことでオリジナルスタジオアルバムの最終作ではなくなったこの”THE LONG RUN”ですが、裏を返せば28年間ずっとこのアルバムはイーグルスの最終章におかれたアルバムだったわけで、それが残念でならなかったファンも少なくなかったのではないでしょうか。

 

 最後に個人的な感想になりますが、このアルバムの印象を決める大きな要素となっているのはクロージングナンバーの”The Sad Cafe”です。

 ヘンリー、フライ、ウォルシュに加えJ・D・サウザーも作曲に加わったこの静かなナンバーでは無名時代に多くのミュージシャンが集ったトルバドゥール・サーキットの風景が描かれます。

 目もくらむような成功を手にした代償に多くを手放してしまったことを振り返り、ヘンリーが寂しげに歌い上げるこの曲がその当時のイーグルスの、そしてアルバム”THE LONG RUN”の影を写した写真のカットのように思えるのはボクだけでしょうか。

 

せっかくなので2011年リリースのJ・D・サウザーのバージョンをどうぞ。

 

 

 

 

 

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