YOU'RE UNDER ARREST | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:28AP3034(CBS/SONY) 1985年(国内盤)

 

 このLPは神戸の元町高架下商店街の中の中古レコード店で見つけました。

 おそらく同一人物が売却したと思われる、"MAN WITH THE HORN"から"STAR PEOPLE"までのアルバムが一度に売られていましたが、本当に欲しかったのはもっと後の”AMANDLA"だったりします(;´Д`)とはいえ、そんなこと言っているとチャンスを逃してしまうので、厳選に厳選し(要は迷ったということです)た結果選んだのがこの”YOU'RE UNDER ARREST"でした。

 

 

 CDで聴いていた頃のこのアルバムには、愛憎入り混じるというか、なんというか…

 

 まず、とにかく曲が良いんです。シンディ・ローパーの大ヒット曲を完全に我がものとして吹きつづった名演”Time After Time"、同じくヒットチャートをにぎわせたマイケル・ジャクソンの"Human Nature"、一転してアヴァンギャルドで硬派な”Katia"ではかつてのバンドメンバーにして盟友のジョン・マクラフリンとの再会を果たし、タイトルトラックでは若手と積極的に絡みながらアグレッシヴでホットなビートを追及しています。

 

 しかし、CDは音が悪すぎるんです。もードラムはペシペシ、ギターはシャラシャラ、肝心のマイルズのトランペットがヒョロヒョロ。

 ボクの鳴らす環境のせいかもしれませんが、線が細く平べったい音像のCDでは聴いていて感動も半分な気がしていました。

 

 では、このLPはどうかというと…

 

 CDとの極端な違いはありません(^^;)

 

 音像はやはり平板で、シンセサイザーはよく聴こえますがギターがその影に隠れがちです。

 ただし、ドラムに躍動感があり、マイルズのトランペットにヴァイタリティが感じられるところはCDとの大きな差です。やはり、聴いていて感動できる、熱くなれるのはLPのほうだといえます。

 

 それと、大きな違いはジャケットデザインです。ゲートフォールドを開くと

何も知らないと面くらいますよね。これ、マイルズの直筆の絵なんです。これってCDのライナーには無かったはず…

 ヒマをもてあましておク〇リに手を出さないように、またツアーの合間の時間つぶしにと始めた絵画にマイルズは熱中、他のアルバムのジャケットにも彼の直筆画が使用されるようになります。

 マイルズ画伯の作品は日本語解説の裏にも

このとおり。これも、CDのライナーには省かれていたように記憶しています。

 

 

 

 

 ジャズシーンの最先端に立ち、同時にあらゆる音楽を消化し発展させることでジャズの、インストゥルメンタル(器楽曲)の地平を切り開いた新手一生のクリエイター、マイルズ・デイヴィス。

 キャリア後期ではシンセサイザーを駆使した伴奏で、より深い情感の表現に挑戦します。同時に若手アーティストの楽曲を積極的に取り上げ、自身の音楽のアップデイトを図ります。

 

 シンディ・ローパーの"Time After Time"はその最たるもので、マイルズが取り上げたことを知ったシンディは大喜びしたといいます。

Miles Davis- Time After Time [long version] -YouTube

 

 ニューヨークのブロンクスで生まれ育ったシンディにとって「帝王」マイルズは憧れのジャズ・ジャイアントなのですから当然なのでしょう。

 対して、なぜこの曲を?という周囲からの質問へのマイルズの答は

「歌詞の内容をハートで感じ取ることが出来たからだ」

…か、カッコいい。こういうことがさらりと言える男になりたいです。ムリか(-_-;)

 

 

 それと、ここでもうひとつご紹介したいのが、このアルバムのオープニングトラック”One Phone Call/Street Scenes"にゲスト参加しているスティング(Sting)のことです。

 クレジットには"French Policeman's Voice"とあります。 

 そもそもこの曲はコカインの常習者として警察にマークされ、しばしば職務質問されるマイルズによる皮肉から生まれたとされています。スペイン語、ポーランド語、マイルズ演じる警察官による英語に加えて、スティングはフランス語のパートを与えられています。 

 …といってもフランス語がダメなスティングは大慌てでスタジオから当時の恋人(後の奥様)に電話をかけ、与えられたセリフを訳してもらったそうですが( ´艸`)

Miles Davis One phone call street scene.wmv -YouTube

 

 スティングは当時アルバム"THE DREAM OF BLUE TURTLE"をリリースしツアーも大盛況でしたが、この時のバンドのベーシスト、ダリル・ジョーンズはマイルズのグループにも在籍していました。このゲスト参加はダリルの紹介によるものだったようです。

 

 ただし、このスティングの共演は後のマイルズと、当時所属していたレコード会社コロムビアとの間に思わぬ波紋を投げかけます。

 簡単なパートとはいえレコーディングに参加したスティングにマイルズはギャラを支払うことにし、それをコロムビアに伝えます。

 しかしコロムビアは急な支出には応じられないとこれを拒否、マイルズは自腹でギャラを出したといいます。

 以前からコロムビアの方針に少なからず不満を抱いていたマイルズは、ちょうどこの時期に知り合ったプリンスの誘いもあり、まもなくワーナーへ移籍します。

 

 

 すでに芸歴30年を数えた大御所、もとい帝王がなおもシーンの最前線に立とうとした、その意欲、意地、プライド。そしてそれに裏打ちされたヴァイタリティと情感に満ちたトーン。マイルズ・デイヴィスがどんなアーティストだったかを知るのに最適なアルバムをあげるのであれば、この"YOU'RE UNDER ARREST"は欠かせません。

 

 

 

 

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