PLAYIN' IT COOL | walkin' on

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アナログレコードのレビューを中心に音楽に関するトピックスを綴っていきます
 歌詞の和訳や、時にはギターの機材についても投稿します

レコード番号:P-13038(Asylum) 1984年(国内盤)

 

 26歳でイーグルスにのめり込みはじめると、メンバーのソロ作も同時に聴くようになりました。

 

 イーグルスのメンバーはとにかくキャラが立っているというか、持ち味や嗜好がことごとく異なり、さらに全員がリードヴォーカルをとるのですがその声も全く異なります。

 各メンバーのソロアルバムを聴いていくうちに、なぜか自然とひきつけられたのがティモシー・B・シュミットでした。

 

 この、ティモシーのソロデビュー作となる”PLAYIN' IT COOL"のLPを見つけたのは日本橋の中古レコード専門店でした。その時は予算に余裕があり、ティモシーのソロアルバムがこの第一作と第2作"TIMOTHY B"、さらには愛しの(*ノωノ)カーラ・ボノフのソロデビュー作、ドン・ヘンリーのソロ第2作"BUILDING THE PERFECT BEAST"が一度に手に入るという素晴らしくラッキーな日でした。

 

 帰宅後に開封すると、ちょうど値札で隠れていたので気づかなかったのですが「見本盤」のシールが。

 

前回も書いたとおり、レコードを集めるにあたって、盤の状態を最優先し、ジャケットや帯といった外装の傷みや、初期プレスやプロモ盤といった希少性は一切かえりみない「聴ければええねん」主義を貫くことに決めたのですが、なぜかそんなボクのもとに見本盤という、音質が良いとされ、そのぶん価値が高いというLPが巡ってくる不思議(?_?)

 

 そうはいっても、購入を迷うような高値が付いていたわけではありませんでした。 

 おそらく、この盤を手に入れたお店がそういった価値判断をせず、単に状態が良好な初年度盤という評価のもと価格を決めていただけのように思います。

 

 

 このジャケット、正確にはジャケット裏のカットがかなり笑えるんです。

 

 一見すると浜辺のデッキチェアでくつろぐティモシーの姿のように見えますが…

 手が写りこんどるやないかーい

 

 空を飛ぶカモメも…

 模型かーい

 

 さらに背景も…

垂れ幕やないかーい

 

 という(;´д`)トホホぶり。ジャケット表がタキシードでキマッているのでよけい落差が大きいんですね。

 

 ティモシーが2代目ベーシストとして加入した時点でイーグルスは既に歴史的名作”HOTEL CALIFORNIA"をリリースしており、彼も世界トップクラスのセールスを誇るバンドの一員となって目もくらむような成功を手にするわけですが、実際にはそんなに楽じゃないんだよ、というメッセージをこのカットに込めているように思います。

 

 

 このアルバムで最も知られているのは、帯にもありますが"So Much In Love"でしょう。

 TIMOTHY B. SCHMIT - So Much in Love - YouTube

 

 かつてパイオニアのオーディオのCMに使われたことで日本でもヒットしましたね。といってもボクはその頃まだ7歳で、この曲を聴いた記憶はないんですけど…

 

 ティモシーの、これは必殺技と呼ぶにふさわしい破壊力があると思うのですが、得意としているのが多重録音によるコーラスワーク、いわゆる

「ひとりア・カペラ」

 があります。この"So Much In Love"も4声以上のパートを自分で重ねることで、爽快感と深みを上手く両立させています。

 

 このひとりア・カペラ、日本では山下達郎が同じように得意としていますね。

 とある心無い評論家がこのティモシーの歌唱を達郎と比較するような書き方をしたため、それを知った達郎が奮起、後に同じ曲をカバーしたという説がありますが、ホントなんでしょうか?

 

 もともとこの曲はティモシーのオリジナルではなく、シカゴのザ・タイムスというコーラスグループの1962年のヒットで知られた曲です。達郎にとってもなじみ深い曲だったので取り上げたのであり、ティモシーのバージョンはたまたま時期が近かっただけ、というのが真相ではないでしょうか…

 

 ロスアンジェルスを拠点に結成され、カリフォルニアのイメージで語られるイーグルスですが、実は生粋のカリフォルニア出身者はただ一人、このティモシー・B・シュミットだけ、というのはあまり知られていません。

 いかにもその彼らしい人選でレコーディングしたのが"Lonely Girl"です。

Timothy B. Schmit - Lonely Girl -YouTube

 

 この曲のコーラスにはなんと、ビーチ・ボーイズのカール・ウィルソンが加わっています。

 同じカリフォルニア出身のグループの新旧メンバー揃いぶみの豪華さ…って、いまいちその凄さが伝わりにくい共演ですね((-_-;)

 

 意外に思われるかもしれませんが、このアルバムにはあのTOTOのメンバーも参加しています。イーグルスのメンバーとは世代が近く拠点も同じロスアンジェルス、メンバーどうしが仲良くなるのは必然だったのでしょう。

 

 その結果生まれた豪華極まりない共演が、”Something Wrong"。イーグルスのジョー・ウォルシュと、TOTOのスティーヴ・ルカサーがソロをまわすという、千両役者どうしの顔合わせです。

Timothy B. Schmit - Something's Wrong -YouTube

 こんな贅沢なかなか味わえ…って、これもなかなか伝わりにくいか…( ;∀;)

 

 これは後のソロ活動でさらにはっきりしてくるのですが、ティモシーはどうやら作曲があまり得意ではないらしく、そのせいでアルバムの間隔がかなり空いてしまう傾向があります。

 しかし、不思議なもので、その彼が(おそらく)苦心惨憺して作り上げた曲はシンプルながら印象深いメロディと、すっと耳に入って心にずっと残るような美しさをたたえたものが多いようです。

 アルバムの最後から2曲目に置かれた”Tell Me What You Dream"はまさにそうで、寂しげなエレクトリックピアノに導かれるように彼の繊細な声が歌い出すと、一気にアダルトでセンシティブ、かつメロウなムードが漂います。

Tell Me What You Dream - Timothy B. Schmit -YouTube

 

 この曲は9年後の1993年にレストレス・ハート(RESTLESS HEART)がカバーし、当時のAORチャートでちょっとしたヒットになりました。 

Restless Heart - Tell Me What You Dream -YouTube

 

 この曲の、夢にまで見る愛しい相手は誰なの、とたずねる歌詞がなかなかグッとくるものでして、

Is it someone else's arms that hold you tight

君を強く抱きしめる誰かの腕なのかい

Or darling, is it me

それともボクなのかな

(以上私訳)

 というあたりはもう、泣けて泣けて…って、センティメンタルすぎてシラケてしまうかも(-_-;)

 

 

 70年代後半から続くディスコブームと、80年代初頭のAORのあおりを受けたこともあるのでしょう。西海岸のレイドバックした空気をたっぷりと含み、それでいて質の高い楽曲で固めたこのアルバムがヒットしなかったのは仕方がないことだったのかもしれません。

 

 ですが、真夏の炎天下を歩き回った後に飲み干すサイダーや風の冷たい夜にほおばるタイ焼きのように、ふと聴きたくなった時にいつでも聴けるように手元に置いておきたいアルバムだと思っています。

 

 それに、歴史的傑作はイーグルスでがんばって作る(笑)ので、ソロ作ならこれくらい肩の力が抜けていてもいいじゃないですか(*´∀`*)なんてね。

 

 

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