澤田瞳子 著

 

タイトル「火定」は、カジョウと読む

修行者が自ら火の中に身を投じて無我の境地に入るということ、だそう

 

8世紀ごろの日本の都にて、疫病(天然痘)の大流行

手立てはなく、あちこちで、文字通りの死屍累々

治療を施さんとする施薬院でも、阿鼻叫喚

 

医師として、志高く、どうにかして一人でも多くの民の命を救おうとする綱手

自分を陥れたものへの復讐として、悪の権化に染まろうとする薬師諸男

世の混乱に乗じて、何の効力も無い札を高値で多売する宇須

 

見えない脅威を感じ、恐怖にさらされ、市井の人々の惨憺たる暮らしがある

世の中は、厭世感が広がり、末法の到来におびえ、新興宗教に取り憑かれ、裏切られ

それでも、生きて行かねばならない

 

天平の都で、漢方を煎じるぐらいの施薬で、パンデミックに立ち向かわねばならなかった医療従事者の悲嘆は想像を絶する

 

極限状態の中での人間の生きざまのあれこれが、現代に通じるリアリティを持って描かれた作品