まず危惧してしていた3時間の上映時間だったが、これまで以上に徹底したバットマン の世界観とキャラクター性を深掘りにする唯一無二の物語に終始目が離せず長尺さを感じなかった。
世界観とは、常に闇がゴッサムシティを支配し、悪という悪が我が物顔かつ虎視眈々と獲物を定め私利私欲を満たすために闇へと紛れて世と人々を脅かす世界。映像の全体像はダークトーンで染められており四六時中雨が降りしきる。夜のとばりが生涯晴れることがない世界にゴッサムは支配されているのだ。希望や光といった言葉はここには一才存在しない。あるのは徹底して描かれた闇夜と暴力。そこへ現れた今回のヴィランであるリドラーの登場により世界観はそれまで以上に混沌が炙り出されてゴッサムの狂気が露呈されるのだ。
今回のバットマン もゴッサムシティ共々狂気に満ち溢れている。
自分を闇の復讐者と名乗りまるで魔の化身か亡霊に取り憑かれた悪鬼のようにどんな小悪党であろうとも無慈悲かつ徹底的に制裁を加える恐怖の執行者として描かれる。悪に対する怨恨心はかつてのバットマン 以上であり異常性さえ垣間見えるほど。ウェイン財閥の当主としての経営管理などはそっちのけで悪を滅ぼすことが自分がウェイン財閥から受け継いだ使命だと断言することにある意味盲信的狂気性を感じる。またマスクを脱いだブルース・ウェインも彼は彼で生気の抜けた人間性そのもので、こちらも何を考えてるのか仕出かすか分からない深い暗部を秘めている。そんなバットマン が暗がりから派手な登場をすることなく静かに悪党に近づく姿がとてつもなく怖い。
このダークな装いに輪をかけるのが今回の物語だ。

リドラーの手によって、市長、検事補、警部補といった市の有力者達に死がもたらされ、その死体に添えられた謎々の置き手紙と死の繋がりからゴッサムシティの悪にまみれた不正が明るみになるといった構成になっているのだ。不気味な犯行を重ねるリドラーに対してバットマン はゴードン警部らの協力を得て悪事に翻弄されながらも一歩一歩真相へと近づいていく。これはサイコサスペンススリラーであり、フィルムノワールでもあるのだ。明らかに映画セブンからの影響を受けている。まだ未見だが、同じ様な内容で、正体不明の連続殺人者からの犯行声明が解き明かされることなく未解決のままに終わった実在の事件を元にした映画ゾディアックからの影響も受けてるそうだ。超人的スーパーヒーローに親しんだ目にはとても新鮮かつ斬新で、バットマン だからこそ出来る物語といったディテクティブ(探偵)ヒーローの真髄を感じることができました。この路線はぜひとも続けてほしい。またリドラーとバットマン の闇の対比と共通性も見逃せない。それぞれのやり方で正義の鉄槌を下そうとしているのだから。深淵を覗く時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ、といった言葉が二人には当てはまり、真の正義の行方が突きつけられる。はたしてバットマン の闇の正義はゴッサムシティと力のない人々に希望の光を与えることができるのか。そのカタルシスのある結末を是非見届けてもらいたい。