ロスアンゼルスの西側、Freeway 405沿いのサンタモニカ近くの丘の上に、広大な敷地を持つ Getty Center という美術館があります。世界一のお金持ちと言われた石油王ジャン・ポール・ゲッティが個人で収集したコレクションを展示しているアート施設です。駐車場こそ一日15ドルの料金を取られますが、それ以外は入場料無料。美術品のみならず、建物やそこからの景色など、とても素晴らしいところです。ロス近郊に滞在している間、気が向いたときにふらりと行けるところなので、暇な週末などここを訪れて、よく美術品を見たりランチをして本を読んだりして過ごしています。元々あまり美術品には詳しくないので、美術のにわか勉強をするにもちょうど良いところです。

 The Getty と総称されるこのアート施設には、このサンタモニカの北にある The Getty Center とマリブ近郊にある The Getty Villa の2つがあります。 The Getty Villa (Malibu) のほうは、(やはり入場無料ですが)事前に Online でチケットを取る(つまり予約をする)ことが必要で、実はまだ行ったことがありません。今回は、Los Angeles の The Getty Center のほうをご紹介します。こちらは何の予約もなく、突然行ってのんびりできますよ。。。とは言っても、休日の昼過ぎなどは時としてかなり混んでいて、駐車場に入るのに列をなして待つ可能性がありますが。。。それから、今このThe Getty Center の入口近辺は道の工事をしていて、カーナビの通りに行っても入口に辿り着けなかったりします。道路の表示もあまり親切でないので、私はいつも迷いますが、根気良く探していると大抵すぐに見つかります。。。

 Museum ははるか丘の上にあるので、駐車場から出るとまず無人のトラムに乗ります(これもタダ)。結構人が列をなしてトラムを待ってますが、回転がいいので大体10分も待たずにトラムに乗れます。トラムからの眺めもなかなか良くて、ロスの街並みを遠くまで一望できるます。上に登っていくトラムの向かって左側の窓のところにいると景色が良く見えますよ。

(左 : トラムからの眺め)         (右 : トラム、丘の上についたことろ)

   


 丘の上に登り切るとまず正面にホールがあって、その奥に North Pavilion, East Pavilion, South Pavilion, West Pavilion と4つのメインパビリオンがあります。North は 1600年以前の美術品、East とSouth は1600 - 1800年、West は1800年以降というように年代順に展示されているので、とても作品鑑賞しやすいと思います。建物はリチャード・マイヤーという建築家の設計によるもので、とても簡素でありながらオシャレな感じで、建物や中庭などを含めて私は大好きです。全体的に眺望が良くなるよう設計されているので、晴れた日などフラフラ歩いているだけでとても気持ちの良いところです。

  


 
 この美術館のユニークなところは、作品の写真撮影が自由にできるところ(ただしフラッシュは駄目!)。という訳で、以下、今回の訪問で気になった作品を生写真入りでご紹介しちゃいます。とは言っても、美術作品に元々あまり詳しくないので、にわか勉強/聞きかじりですけど。。。

 まずは、ジェンティーレ・ダ・ファブリアーノの『The coronation of the virgin (聖母戴冠)』。美術品に詳しい友達が、これは見とく価値があるよと教えてくれた作品です。聖母戴冠って、聖母マリアが死んだ後に、イエスキリストが『天の女王』として戴冠する儀式のことで、ルネサンス期イタリアで良く取り上げられた絵の題材なんですよね。色んな有名な画家がこのシーンを描いているので、門外漢の私でもこのシーンの違う画家による絵をネットなどで見比べると、なんか面白いです。ちなみに細かいこと言うと聖書の中にこのマリアがイエスによって戴冠されるという記述はありません。当時の民間伝承みたいなもののようですね。


次に友達が薦めてくれたのが、ヴィットーレ・カルパッチョの『Hunting on the Lagoon (ラグーナでの狩猟)』。これはベネチアのコッレール美術館にある『二人の貴婦人』という作品の上半分なんですね。良く見ると絵の左下のほうに下の部分が無い花が描かれていて、構図が不自然。一方コッレール美術館にある『二人の貴婦人』のほうには花瓶に描かれている花の上の部分が無い。。あるとき誰かがこの2枚のカルパッチョの絵が元々一枚の絵で、上下二つに切り離されたのではないかと気がついて、試しに写真合成してみたらぴったり合った。。って話とのこと。なぜ切り離されたのかの経緯は不明。更には、この絵は元々開き扉の右半分のようで、つまり対になっていたはずの左半分がどこかにあるとのこと(まだ見つかっていない!)。なんか興味をそそられます。。。


画面左下のこの花の部分が問題の部分。花の下の部分が無い。。。。


そんな絵ですから、とても貴重なものなんではないか、と思うのですが、ここの美術館は展示の仕方が開放的というか、全体的に作品の覆い(ガラスケース)などもほとんど無く、下の写真のように無造作に展示されてます。。。もちろん警備員は各部屋に一人づつ程度配置されてますけど。。この解放感、個人的には結構好きです。。


 フラフラと見ていて個人的に何か魅かれたのが、アンドレア・マンテーニャの『The Adoration of the Magi (東方三博士の礼拝)』。このシーンは、イエスキリストが生まれたときに天からその啓示を受けた三人の識者が東方からイエスを訪ねてやってくるという新約聖書のシーンを描いたもので、やはり画題として多くの画家に取り上げられています。違う画家の絵を見比べて、その捉え方や描き方が全然違うのを見るのはなかなか面白いです。


 ゴッホの絵も一枚だけあります。『アイリス』。


 あと個人的には、下の絵にも魅せられてしまいました。フランツ・ヴィンターハルターの『レオニラ・バリャティンスカヤの肖像』。絵のサイズが大きくて目立っていたから、っていうのも正直言ってありますが、でもやっぱりこの美しさには魅せられますよね。。。ちょうどこの絵の前に休憩用のソファがあったので、暫く座って見惚れていました。何かこの絵から涼しい心地良い微かな風が吹いてくるような、そんな感じを抱きました。。


 その他、ゲティさんは大きな美術品、つまり家具や絨毯などにもとても興味を持っていて、絵画意外にもその手の美術品が沢山あります。むしろ絵より、そっちのほうが多いです。とにかく一日では見きれないほど、沢山の美術品があるので、気が向いたときに何度も通って楽しみたいと思っています。

 美術品の目録としては以下のものがあります(英語ですが。。)ゲティセンターの売店にも売ってます。ゲッティさんというのはどういう人なのかを知りたい人には、ロバート・レンツナー著の『石油王ゲッティ』という本があります(ただし日本語訳のせいか、原著の内容のせいか、ちょっと読みにくい本です。。。)。両親との確執、息子の自殺、4度の離婚、息子の妻のヘロイン過剰摂取による死、孫の誘拐事件とゲッティ―が身代金を値切ったことにより孫の耳を切り落とされてしまったこと、などなど、とても幸せとは言いにくい生涯だったように思います。。。。


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