『標準言語聴覚障害学 発声発語障害学』より抜粋引用


通鼻音、非通鼻音の差異は軟口蓋が挙上し、鼻音腔が閉鎖されるか否かによる。


軟口蓋の挙上に関しては口蓋帆挙筋が主導的な働きをする。


口蓋帆挙筋迷走神経支配である。


口蓋帆張筋は硬口蓋と軟口蓋の移行部の指示性を高めることで口蓋帆挙筋の働きを支持していると考えられている。


鼻音腔の閉鎖には軟口蓋の挙上とともに咽頭側壁、後壁の狭小化も関与するが、その関与の程度には個人差がある。









『ゼムリン 言語聴覚学の解剖生理』より抜粋引用


軟口蓋は、その前方で口蓋骨の後縁の自由端に付着している。


口蓋腱膜によって付着し、口蓋腱膜は前方で特によく発達しており、後方ではあまり発達していない。


側方で、軟口蓋の筋繊維は、上咽頭収縮筋の繊維と連続する。


軟口蓋は後方に向かっており、弛緩しているときには、口咽頭にカーテンのようにぶら下がっている。



軟口蓋での筋繊維の配置は、軟口蓋を挙上、下垂、緊張させてるようになっている。


5つの筋肉が軟口蓋の運動に関与する。


2つは「下制−弛緩筋」(口蓋舌筋口蓋咽頭筋)。


2つは「軟口蓋挙上筋」(口蓋帆挙筋口蓋垂筋)。


1つは「下制−緊張筋」(口蓋帆張筋)。


口蓋の約3分の1は、かなり均一している結合組織からなり、筋繊維(3〜23%)は軟口蓋の中心に限局して存在する。



◆口蓋帆張筋


内側翼突神経(下顎神経枝)支配。


口蓋帆張筋は、リボンのような筋肉として、翼状突起の内側板の基部にある蝶錐体裂のすぐ前にある薄いプレートから生じる。


それは、蝶形骨棘と蝶形骨角、耳管(エウスタキオ管)の軟骨部の前側壁側からの筋線維を受ける。


この筋は、翼状突起の内側板と内側翼突筋の間を垂直に下降し、実に細い腱に変わる。


この腱は、翼状突起の内側板の翼状鉤に巻き付いて、内側方向に走行し、口蓋腱膜に展開する。


扇状の腱膜繊維のなかには、硬口蓋の後縁(口蓋垂の水平板)に付着するものや、内側で筋線維が反対側の腱膜と融合するものもある。


最も遠心にある筋線維は、軟口蓋の結合組織と筋に融合する。


ある意味では、口蓋腱膜は軟口蓋の線維性「骨格」を作っている。


口蓋帆張筋には2つの重要な機能がある。


翼状突起の内側板の翼状鉤は、硬口蓋の高さより幾分下方にある点に注意する。


口蓋帆張筋が収縮すると、その筋力は硬口蓋より外下方に向かい、その結果、口蓋腱膜は緊張し、幾分低位になる。


同時に、口蓋帆張筋は耳管粘膜性の前外側壁を、動かない軟骨性の内側壁から引き離し、軟骨ん「巻き戻し」て通常は閉鎖している耳管を開放する。


これによって、内耳腔の空気圧を外気圧と等しくすることが可能である。



◆口蓋帆挙筋


迷走神経支配。


軟口蓋の体部は、口蓋帆挙筋によってつくられている。


側頭骨の錐体部の頂点ならびに耳管の軟骨構造の後内側壁から生じる。


下内前方に走行し、軟口蓋に入る円筒状の筋肉である。


軟口蓋複合体の矢状断面図で、口蓋帆挙筋は隆起を形成する。


口蓋帆挙筋線維は、軟口蓋の上面に沿って分布し、反対側から同名筋と交雑する。


ある意味では、2本の口蓋帆拳筋は、軟口蓋のために筋肉のワナを作る


軟口蓋の遠心側の部分はほとんど硬口蓋平面と直角をなしている。


口蓋帆挙筋の活動は、垂直位にある軟口蓋を水平位まで挙上して、わずかに後方に軟口蓋を引っ張ることである。


この活動は、同時に生じる口蓋帆張筋の緊張作用によって補足される。


この合成された活動の結果、軟口蓋は咽頭後壁に接触し、鼻腔から口腔を分離する。


口腔から鼻腔を切り離すために後の咽頭壁と接触するということである。


これまでの研究で、発音時の口蓋帆挙筋活動(力)は、blowing 活動時の筋活動にもとづいて決定された筋活範囲の下の方の領域で起こる傾向があることが示されている。


実際に、発話時に要求される筋肉の活動領域は、全活動領域に比較すると実に小さい。


例えば若年成人では、140〜240cmH2Oの範囲で口腔内圧を生成することができるが、発話での必要

な圧は6〜10cmH20の範囲である。


発話に使われる口唇の力は、最大努力で発揮できる力の10〜20%だけである。



◆口蓋垂筋


迷走神経咽頭枝支配。


口蓋垂筋はしばしば、一対の筋肉と考えられるが解剖学テキストでは,それは不対であるとして, azygos(奇状、不対)であるとしている。


それは、口蓋骨の後鼻棘とう近隣の口蓋腱膜から生じる。


後方に向かって軟口蓋全長を走行し、口蓋垂(軟口蓋の正中で垂れ下がった構造)に入る。


収縮すると、この筋は軟口蓋を短くし、持ち上げるが、その機能は議論の対象外というわけではない。


例えば、英語会話では口蓋垂は特定の役割を果たさないようであるが、他の言語のなかには重要な構音器官として機能している場合もある。



◆口蓋舌筋


咽頭神経叢支配。


口蓋舌筋は、咽頭筋として多くの著者によって記述されている。


しかし、それを口蓋の筋肉、あるいは舌の筋肉とみなしている者もいる。


私たちは、前にこれを舌の外来筋であるとした。


口蓋舌筋は、口蓋腱膜の下面から生じ、その部で反対側からの同名筋と連続する。


筋線維は、下前外方に走行して、舌の側縁に入り、舌背側で縦舌筋と混ざる。


この筋は、表面を覆う粘膜とともに、口蓋舌弓(前口蓋弓)を形成する。


収縮すると、それは軟口蓋を下げるか、軟口蓋が固定されていると、それは舌背と舌側縁を挙上する。


この筋肉の走行が半円形であるので、いくぶんか括約筋様に活動し、収縮すると口蓋舌弓の長さを減少させる。



◆口蓋咽頭筋


咽頭神経叢支配。


口蓋咽頭筋は、軟口蓋の筋であると同時に咽頭の縦走筋である。


この筋は、軟口蓋から生じる長い肉付きのいい筋束である。


軟口蓋で、この筋線維の多くは反対側からの同名筋と連続する。


残りの筋線維の起始からは複雑な枝分かれがあり、翼突鉤の領域から生じる線維もあり、また耳管の軟骨部から生じるものもある(これは耳管咽頭筋とよばれる筋肉の細長いスリップを構成する)。


筋線維が生じた直後,、それらは下行する口蓋帆挙筋によって2つの束に分けられる。


1つの束は口蓋帆挙筋の上を通過し、一方は下を通過する。


実質的に、口蓋帆挙筋口蓋咽頭筋の2枚の層に挟まれる。


口蓋帆挙筋のわすが外側で、2つの筋束は単一のリボン状の筋として融合する。


筋線維は広範な起始をもつにも関わらず、咽頭の下半分に向かうにつれて、急速に口蓋咽頭ヒダ、すなわち後口蓋弓に収束し、外向きに消失してしまう。


ほとんどの線維は咽頭の外側壁に入り込み、咽頭の最前方位の筋線維は、甲状軟骨の後縁と上角に付着する。


口蓋咽頭筋の主要な機能は、嚥下時に下咽頭に食塊を導くことである。


口咽頭における筋線維が半円形の走行をするために、この筋は、口蓋を下方に牽引し、口蓋咽頭弓の間の距離を減少させる括約筋として活動する。


このような活動は、嚥下や嘔吐の際にみられる動きである。


この筋が収縮すると喉頭を持ち上げるか、前方に甲状軟骨を傾けるので、この筋が外喉頭筋とも考えられているのは合理的である。


喉頭挙上は、ピッチ範囲のなかで極端に高い方の限度で発声すると、しばしば起こる。


発話の間の口蓋筋系の機能は、Fritzell(1969) が推定している。


その簡潔さにおいて素晴らしいシェーマである。


この図はすべての口蓋筋系の推定される機能を要約しており、特別に有益である。



鼻音腔閉鎖不全が、構音や、嚥下に及ぼす影響をほんとに強く感じるここ最近。


より良いアプローチの模索を。