□ 天木直人 12月31日 メディア裏読み □
◇◆大平直也君、高遠菜穂子さんに勇気づけられて◆◇


今年最後のメディアの裏読みを勇気付けられる話で締めくくろうと思う。私は12月23日に佐賀市の講演に招かれた。その講演はイラク救済基金を立ち上げてイラクピースキャンペーンを主催している大平直也という青年が招待してくれたものだ。彼は高遠菜穂子さんと2人で九州各地を公演してまわっているところであった。そのうちの佐賀市での講演に私が呼ばれたというわけだ。

 大平君は講演で聴衆を前に口火を切る「・・・はじめてイラクに足を踏み入れたのは03年10月。興味でただイラクが見てみたい、苦しんでいる人がいれば何かしたい、そんな思いからでした。イラク入りした初日、米軍の戦車やアパッチヘリを見てシャッターを押していたら米軍に連行され、『何しに来たんだ!ジャーナリストか?イラクの事を日本に報道する気か!』と取調べを受け、撮影したビデオテープも中の写真もすべて没収されました・・・イラクでの初日に決意したことは、これから見る出来事は日本では伝えられていない!これから見たこと聞いたことは日本に帰って一人でも多くの人に知らせたいと・・・」

その後に講演した高遠菜穂子さんの話は感動的だった。イラク人にビデオ機器をあずけて撮影を頼んでいるという。そのイラク人が映したテープを郵送で受け取り会場に流す。撮影を頼んだイラク人の一人がこの前の米国の攻撃で死んだという。会場に映し出された映像はファルージャの惨状をあますところなく伝えていた。圧巻は広大な砂漠に穴を掘って、米軍の攻撃に惨殺されたおびただしい数のイラク市民を葬る光景である。クビを飛ばされた子供の死体にすがりつく母親の姿は涙と憤りを感じずには正視できない。このような報道は決してメディアには流されない。何故ならば米国の犯罪が世界の目にさらされることになるからだ。その戦争犯罪に加担した小泉首相の犯罪が小泉政権を吹っ飛ばすからだ。

28日の毎日新聞の「メディアを読む」というコラムの中でフリージャーナリストの玉木明氏がこう書いている。
「・・・問題なのはサマワにいる自衛隊の情報が全くといっていいほど伝わってこないことである・・・日本政府の要請もあり日本の記者がイラク全域、しかももっとも安全なサマワからさえ撤退を余儀なくされているのだ・・・国民はジャーナリズムを通して、その一部始終を知る。それが政府と国民との正常な関係である。が、現状ではそうなっていない。ジャーナリズムがきちんとその機能を果たせていないところでは、国民が知りたいと思う情報も知りえない、それは国民が政府の行っている事を監視できないということでる・・・」大平君や高遠菜穂子さんは日本のどの大手ジャーナリストよりもはるかに貴重な情報を我々に提供してくれている。かつて高遠さんは人質から救出された時自己責任という言葉で小泉首相からバッシングされた。その後遺症から高遠さんはめげているのかと思っていた。しかし私の会った高遠菜穂子さんは元気であった。今でもバッシングは続いているという。しかし彼女は私に言った。

「どんなに批判されてもかまわない。私は何も悪い事はしていない。イラクの子供たちのことを考えると現地のことを日本に伝える責任がある」

そう語る高遠菜穂子さんは誰よりも強い勇者のように思えた。高遠菜穂子さんを批判する人はどんな人か知りたい。おそらく彼らは、イラクのことにはじめから関心の無い人か、小泉政権を守るために小泉外交の誤りから国民の目をそらそうと意図的に高遠菜穂子さんを貶める者のいずれかだ。いずれにしてもくだらない、あさましい連中だ。 
「どんなバッシングも気にしない。私を理解する人がイラクにいる限り私は現地の状況を日本に伝える義務がある」と答える高遠菜穂子さんに、私はこの上ない勇気を与えられたのである。