本日はMBさんのお宅でお仕事でした。84歳になられて最近は物忘れがひどくなったとボヤいておられますが、いつも私をとびきりの笑顔で迎えて下さる素敵な女性です。お互い色んなことで冗談を言い合っては、日ごろの憂さを笑い飛ばしたりできる、大好きな利用者さんです。今日はちょうどご主人をジムに送り出されたところで、一息つく、というか清清していらっしゃるご様子でした。
MBさん宅に居候のネコたん。地中海に3週間のバカンスに出かけた
息子さん一家から預かり中
MBさんはパリのある雑誌でお仕事をしていらした方で、今はこの南西フランスで悠々自適の定年生活を送っていらっしゃる、経済的には何の不自由もないリッチなご夫婦です。
ただ、どこの家庭にも親子間、兄弟間の不仲というのはあるものだなあ、とこの仕事をしていてつくづく思うのです。
ご主人を送り出し、やれやれといった体のMBさんが「ちょっと聞いて～」と話し始めました。先日、娘さんから約2年ぶりに電話が掛かって来たそうです。パリに在住の娘さんは私とほぼ同年代です。おととし娘さんとはあることがきっかけで仲たがいして、数か月間絶縁状態だったのです。
MBさんは、幼い頃には3人もおうちにお手伝いさんがいた地方の名家のご出身で、故郷には実家から受け継いだ広い土地と家を所有しておられます。この財産を、2年前だったか、息子と娘の二人きょうだいに財産分与されました。
しかしそれと前後して娘さんは健康を害され、失業されてしまいました。娘さんのご主人は確か個人運転手をされていると思うのですが収入がひっ迫したのか、母親であるMBさんに経済的な援助を頼んで来たそうです。財産を分け与えた上にさらに金の無心をするなんて、と内心快くは思えなかったが、いちおうまとまった額を都合してあげたそうです。その後しばらくしてさらに、これこれの額が必要だとのお願いが。その理由というのが、その相続した家を改装したいので資金を出して欲しい、というもの。
そこでMBさんの堪忍袋の緒が切れてしまった！
「私もこんな年になったから、後のことはちゃんとしとかないと、と思って二人の子供には公平になるように生前分与もしたばかりだというのに。それに娘には今まで何やかやと折につけ援助してあげて来たのよ。だもんで私、もういい加減にしなさい、って…」。と思わず大きなため息を漏らされました。私も子供を持つ身、分かりますよ、と私は同情してしまいました。
それ以来娘さんとはぱったり音信不通。クリスマスにさえ、何の音沙汰もなかったそうです。
「私が今まで甘やかしすぎたのかしら」と、この2年の間、しばしば娘さんのことを口にしては怒り半分、悲しさ半分なのか、肩をがっくり落としておっしゃっていたときには、私も「まあまあ、この先娘さんの考えも変わるかもしれませんし…」など、ありきたりのことぐらいしか言うことができませんでした。
その音信不通だった娘さんが先週、2年ぶりに電話して来られたのですが、固まった氷山は溶けませんでした。娘さんが母の心をほぐすような言葉を見つけられなかったのか、MBさんの心の傷がよほど深かったのか、和解ができぬまま電話は終わったそうです。そんな場面を想像するだけで第三者の私でさえ悲しいのに、もっとつらかったのがMBさんの言ったこと。
「なのに、何の感情も湧いて来なかったのよ」、と…。まるで心に硬いかさぶたができてしまったかのよう。私にも娘がいますが、こんな関係になってしまったらつらい…。
だから、ではないけれどお会いするときは互いの日常をネタに笑い合ったりするのが、楽しいんです。「あー、もう、陽気なあなたがいてくれるから」と言って下さると、「いえいえ、MBさんが良い方だから私が楽しくなるんですよー！」と返すのです。仕事中の短い時間の中で色んな経験や感情を共有し合えるのこんな瞬間が、本当にこの仕事をしていて有難いなあと思うときです。
瀟洒な邸宅も多いこの町。散歩するのも楽しい
そんなMBさんにも、いい知らせがありました。それはベルギーの首都ブリュッセルに在住のMBさんの上のお姉さまが、この度ブリュッセルを離れ、同じ町に引っ越して来ることになった、というのです。小さい頃から今までずーっと一番仲の良かったお姉さんなので、近い場所に家を見つけて住むつもりだという知らせを聞いて、大喜びです。
お姉さんによると、最近ひどい事件が2回続き、ブリュッセルはもう御免だ、というのです。ひとつ，家が強盗にあった。ふたつ，ご主人が家の前で頭を殴られ襲われた。…分かる。それはひどすぎる。真偽は分かりませんが、ブリュッセルの治安がここ最近ぐっと不安定になって来たのだとか。
何にせよ、自分と仲の良い上のお姉さんが近所に引っ越して来るその日まで、元気でいて下さい、MBさん！