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まったく勉強しないドラ息子がいた。
見かねた父親が説教した。
「おまえは《蛍雪》という故事を知っておるか?」
息子は当たり前のように答えた。
「知りません。人の名前ですか、それとも食べ物の名前ですか?」
父親はあきれて言った。
「車胤という人は、家が貧乏だったから、蛍を集めてその光で勉強したんだ」
「昼間やればよいのではないでしょうか」
「バカモ~ン! 貧乏だったから昼間は働かなければならなかったんだ」
「なるほど」
「だから、寝る時間を削って学問をしたんだ。わかったか?」
「はぁ、なんとなく」
父親が話を続けた。
「また、孫康という人は、月に照らされた雪の灯りで勉強したんだ」
「くもって月が見えないときはどうしたんですか」
「ヘリクツばかりこねるな!」
「スミマセン」
「努力して学問に励んだふたりは、歴史に名前を残す人物になったのだ。わかったか?」
「わかりました。父上がおっしゃるなら、そのようにします」
夏の日、父が息子の部屋に行ってみると、息子の姿がない。
召使いに聞くと、こう答えた。
「お坊ちゃまは、いま蛍を採りに山の別荘に行っています」
冬の日、父が息子の部屋に行ってみると、息子の姿がない。
召使いに聞くと、こう答えた。
「お坊ちゃまは、外でお酒を飲みながら雪が降るのを待っておられます」
頭が良いのか悪いのかよくわからない息子だが、悪知恵が働くことだけは確かなようだ。
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太鼓持ちが、受験生の家を訪ねた。
「息子さんはいるかい。今日は吉報を持ってきたよ!」
と言って、召使いに取次ぎを頼んだ。
奥から受験生が出てくると、太鼓持ちが大声を張り上げて言った。
「いま昼寝してたら、すごい夢を見たんです! それで、一刻も早くお知らせしなければと思いまして、こうして駆けつけたしだいです」
受験生が迷惑そうな顔をして言った。
「いま、最後の追いこみで忙しいんだ。試験が終わったらまた遊ぼうや」
奥へ戻ろうとする受験生に、太鼓持ちが大声で言った。
「遊びの誘いなんかじゃありませんよ」
「じゃあ、なんの用なんだよ」
「天子様が立派な額を持ってここへやって来る夢を見たんです。これは合格する予兆に違いありません」
受験生が驚いて言った。
「そ、それは、ほ、ほんとうかい」
太鼓持ちが拍手しながら言った。
「おめでとうございます! おめでとうございます! これでご両親も安心です!」
受験生が愛想をくずして言った。
「そうだよな。半年も勉強したんだから。受かるよな」
太鼓持ちが首を上下に振りながら言った。
「そのとおりでございますよ~」
受験生が尋ねた。
「それで、額にはなんと書いてあったんだ?」
太鼓持ちはニヤニヤしながら言った。
「やはりこういったことは、縁起の良い席で話さないと、ねぇ。こんなところで口にすると、運が逃げてしまうかもしれません」
受験生がうなずいて言った。
「それもそうだな」
受験生は、近所の酒楼で一席設けることにした。
乾杯のあと、受験生が話を切り出した。
「おぃ、それで額にはなんて書いてあったんだい?」
浴びるように酒をあおっていた太鼓持ちが、酒杯を持ったままで言った。
「もうちょっと待ってください。こういったことは、場所だけでなく、時も選びますからねぇ、はい」
そのあと、受験生も酒を呑んだが、額の文言が気になって酔うことができない。
どうにも我慢できず、芸子と踊っている太鼓持ちの胸ぐらをつかみ、鬼のような形相で問いただした。
「おい、いったいなんて書いてあったんだ!」
これ以上引き延ばすことはできないと思った太鼓持ちは、壇へのぼって直立不動の姿勢で叫んだ。
「なるようにしかならない」
意味深な言葉である。
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