《新古今和歌集・巻第十・羈旅歌》
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詩を歌に合せ侍りしに、
山路秋行(やまぢのしうかう)といへることを
藤原定家朝臣
都にもいまや衣(ころも)をうつの山夕霜(ゆふしも)はらふ蔦(つた)の下道(したみち)
☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆
☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆
詩を歌に合わせました時に、
「山路の秋行」といった趣を
藤原定家朝臣
都でも、今、
砧で衣を打っていることであろうか、
この宇津の山では、手で衣を打って、
夕霜を払いながら行く、
蔦の下道なのだ。
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✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
(※『和歌コード』とは、
直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。
この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った
しじまにこのオリジナル訳です。)
題詞;1205年6月、後鳥羽院が主催された
『元久詩歌合』にて、詩を歌に合わせました時に、
「山路の秋行(やまぢのしうかう)」ということを
歌にしました。
作者;藤原定家
秋になりました。
京(みやこ)においても、
今のこの季節(秋)は
冬服の準備のため
衣を砧でたたく光景が
見られることでしょう。
私が旅をしている宇津の山では
夕方、
衣につく霜がつく寒さです。
夕霜をはらうために
着物をたたいています。
秋の紅葉が美しい
蔦の下道を旅しておりますよ。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
藤原定家:1162年〜1241年8月20日(享年80)。
父は、藤原俊成。
母は、美福門院加賀。
みやこ:皇居のある所。
みやこ:宮の子。
いま:現在。現代。新しいこと(もの)。ただ今。目下。今すぐに。まもなく。やがて。そのうちに。さらに。もう。なお。新しく。新たに。今度。
いまやう:現在風。当世風。
ころも:衣服。着物。僧服。法衣。
ころ:女性やこどもを親しんでいう語。
ころ:時分。ころおい。時節。季節。〜もの間。
も:喪中。裳。表面。おもて。
宇津の山:静岡県宇津ノ谷峠。
うつ:たたく。ぶつける。打ち鳴らす。砧でたたいて艶を出す。打ちつける。はりつける。打ち込む。たたきこむ。作る。設ける。加工する。切る。切り倒す。投げつける。まきちらす。耕す。印をつける。する。おこなう。攻撃する。
うつ:棄てる。
やま:山岳。比叡山。築山。墓地。天皇の陵。多く積み重なっていること。山鉾。憧れたり仰ぎ見たりするもの。頼りにするもの。物事の絶頂。物事の最も重要な段階。
ゆふ:日暮れどき
ゆふ:縛る。ゆわえる。髪を結ぶ。組み立てる。
しも:下方。低いところ。川下。下半身。時間的に後の方。後世。後半。人民。臣下。中心から離れているところ。
しも:霜。白髪のたとえ。
しも:〜なさる。
しも:上の事柄を強調する。〜が。かえって。(下に打消を伴って)必ずしも〜ない。(強い否定)決して〜ない。
しも:死も。
はらふ:取り除く。はらいのける。掃除する。掃き清める。追い払う。平定する。
はらふ:神に祈って身の穢れを清め、災いを取り除く。お祓いをする。
つた:蔦。各地の山林などに生え、吸盤を持つ茎が木や岩などにからみつく。秋の紅葉が美しく、その葉を「蔦紅葉(つたもみぢ)」と呼ぶ。
つたふ:何かに沿って別のところへ移動する。伝わる。授ける。伝授する。後の世に伝え残す。受け継ぐ。譲り受ける。伝承する。取り次ぐ。ことづける。伝え知らせる。
したみ:升から滴って溜まった酒。
した:下部。支配下。庇護。年齢や身分が低いこと。内部。裏側。内心。心の中。
たみ:人民。庶民
たむ:回る。めぐる。ためる。とどめる
みづ:水。みずみずしく生き生きとして美しい様子。めでたい印
みつ:いっぱいになる。充満する。満月、満潮になる。願望が叶う。世の中に知れ渡る。
みち:道。途中。途上。道理。筋道。道徳。教義。方法。方法。方面。専門分野。はちみつ。満ちること。
✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎
元久詩歌合