《新古今和歌集・巻第十・羈旅歌》

 

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読人しらず

神風(かみかぜ)の伊勢の浜荻(はまをぎ)折り伏せて旅寝(たびね)やすらん荒き浜べに

 

 

☆☆☆☆☆【新編日本古典文学全集「新古今和歌集」☆☆☆☆

☆☆☆☆☆☆(訳者・峯村文人・小学館)の訳】☆☆☆☆☆☆☆☆

 

読人しらず

伊勢の浜荻を折り敷いて、

旅寝をしていることであろうか。

波風の荒い浜辺で。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コードで読み解いた新訳》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

 

(※『和歌コード』とは、

直訳では出てこない言葉の裏に隠された解釈のこと。

この和歌に込められた作者の意図をより深く読み取った

しじまにこのオリジナル訳です。)

 

 

題詞;題はつけないでおきます。

(『万葉集』では、

碁檀越(ごのだんおち)が伊勢国に行った時、都の妻が詠んだ歌。)

 

作者;私の名は明かさないでおきます。

(『万葉集』では、

碁檀越(ごのだんおち)の妻)

 

 

あなたが旅立って行った伊勢は

神風が起こる土地だとされています。

 

あなたは今ごろ、

 

激しい風に吹かれる浜荻を

折り曲げて横になり

旅寝をしていることでしょう。

 

荒々しい風が吹く伊勢の浜辺で。

 

 

あなたは

高位の人(または天皇)の計略にかかり、

だまされて

伊勢に呼び寄せられました。

 

今ごろは、

気がくじけ

倒れ伏して

泣いているのではないでしょうか。

 

(物理的にも精神的にも)

荒々しく粗雑な

激しい風に吹かれて。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《和歌コード訳の解説》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

『万葉集』の詞書にある

「碁檀越(ごのだんおち)が伊勢国に行った時」の

詳しい事情がわからないのですが、

「和歌コード」的に読み解くと

作者の夫は、何か事情があって

騙されて伊勢に行ってしまった…と読み解くことができます。

 

かむかぜの:(枕詞)伊勢神宮のある伊勢は、神風が起こる土地とされていたことから、「伊勢」にかかる。

かむかぜ:神の威力によって起こされると信じられていた、激しい風。

 

かみ:高いところ。上の方。川上。高位の人。天皇。年上。上席。冒頭。以前。昔。前半。

 

かみ:髪の毛。

 

かみ:高いところ。上の方。上流。川上。高位の人。天皇。年上。上座。冒頭。以前。昔。上旬。京都。

 

かみ:神。雷。人間の力を超えたもの。恐ろしいもの。人格化された存在。神社に祀られたもの。祭神。天皇。

 

かぜ:風。風邪。風習。ならわし。伝統。

 

はま:浜辺。

 

はまる:おちいる。落ち込む。計略にかかる。だまされる。

 

をぎ:水辺や湿地に群生し、すすきに似た植物。和歌では、秋風に吹かれてすれ合う葉の音を詠むことが多い。

をく:招き寄せる。呼び寄せる。

 

をる:波が折り砕ける。寄せ返す。曲げる。折りとる。折り畳む。折れる。気が挫ける。負ける。

 

おる:高いところからおりる。貴人の前から退く。下がる。退出する。位を退く。

 

ふす:横になる。寝る。床につく。うつぶす。倒れ伏す。ひそむ。

 

たび:旅。

だび:荼毘。

 

ね:寝る。

ね:鳴き声。泣き声。音。

ね:山の頂上。みね。

 

らむ:今ごろは〜ているだろう。どうして〜のだろう。〜とかいう。〜ような。

 

あらし:荒々しい風。

あらし:勢いよく激しい。荒い。荒れてけわしい。乱暴だ。

あらし:きめが粗い。粗雑である。

 

✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎《「日本古典文学全集」の脚注》✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎✴︎

 

『万葉集・四』によると、

詞書:碁檀越の伊勢国に行きし時に、留まれる妻の作れる歌一首。

(碁檀越(ごのだんおち)が伊勢国に行った時、都の妻が詠んだ歌。)